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カリフは急いで資料に目を通すと驚いたように言った
『家族構成は妻一人となっています。作り話にしては、何だか不審な点がありますね。それにしてもいつの間に名付け親になっておられたとは、フィッダ‥ご自分で考えられたのですか?』
『そうだ、あの時も銀座をちょうど走っていてな。フィッダ(銀)と。』
『適当ですねぇ』呆れるように、ジト目で何か言いたげだが話を進める。
『しかし、そうなるとますます彼の死には謎が残ります。銀座を走った事があるのに日曜日の歩行者天国を忘れる運転手などいるでしょうか。』
『全くだ。歩行者天国によって迂回した道の先に罠でもあったのか、或いは逆か。』
『逆にそうだった場合、あの日に運転手だけ突き止めていた罠があり、自分の力及ぶ範囲であなたを守ったか。このパターン、我が陣営のあるあるですし。』
『あるある?』
『はい、若者言葉で、某あるあるって言いませんか?以前も、私はアレフ様のスパイでしたが良心の呵責に耐え兼ね、ハミド様の情報をこんなに送りましたーって部屋で服毒自殺した奴やら首括ってた事が、何度かありましたよね。元々こっちは薄々勘づいてて予め大した情報でもないものしか流していないしと思いながら。特に首吊りは掃除するのが かなり大変で、家具はもちろんカーペットやら壁紙やらも総取り換えして、余計な仕事を増やされました。墓もっかい掘り起こして怒鳴りつけたくなるほど、恨みましたよ。』
現場を見たことはないが、報告を受けた事はある。
すっかり忘れていたが。
首を吊れないように手掛かりになる備品を外させたり、毒を持てないよう、所持品管理は徹底させたり‥確かに、その度にカリフとルールを増やす事があったな。
『改心してるなら、こっち側で働けばいいものを‥。』
『ですね、死を選ぶ代わりに許して貰えるという、懺悔の発想しかないのでしょう。それで全て許させると思うなど、脳が思考を停止している証拠なのですが、彼らはそれに気がつかないままでいるのでしょうね。』
『今度は、歯だな。』
『はあっ?』
『髪は女の命というだろう?男は歯だ。定期検診を受けさせろ。』
心底嫌そうな顔をして、カリフは抗議してきたが、することは決定事項だ。
『また、仕事を増やされるんですか。実施は少し先になりますが手配します。』
『部下の健康管理も、大事な事だ。』
『ハミド様の寛大なお心遣いに、一同、さぞ喜ぶでしょう。仰せのままに。』
息を吐くように、毒づくと資料をパタンと閉じて、微笑む。
柔和な顔になり、部屋の空気が変わった。
仰せのままに、をこっちの顔で言えば、確かにシオンが言うようにどこかの英国貴族の執事っぽいのかも知れない。
まぁこいつも本国に帰れば高い身分でかしづかれる側の人間なのだが、何故か俺の世話を焼くのが好きで雑用一切を喜んで引き受けている。
カリフは部屋に置いてある戸棚から、紅茶缶を一つ取るとこれでいいかと頷きながら、声を掛けてきた。
『さて、少し休憩をしましょう。ここからはプライベートで、この友人カリフさんがハミドの悩みごとを聞いてあげますよ。シオンと何がありましたか?』
グサッと刺さる言い方をされて、先程の悪夢が蘇る。今日は、幸せな事と、拒絶された事、心のジェットコースターを体験した一日だった。
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