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side ハミド
どう考えても、おかしい。
何が悲しくて前方のカリフとシオンが楽しそうやり取りしている所を、指を咥えて見ていなくてはいけないのだろう。
楽しそうにしている所を、ワザと見せつけているようにも思える約一名、カリフ。
それに、カリフと一緒に、俺を除け者にでもするかのように無視する約一名、シオン。
お前達計二名によって、俺は苦しめられている。
後部座席の困る顔を見るのが、楽しくて仕方ないようだな。
家事をしない、シオンはそう言う俺に、腹を立てていた。
「ハミド殿下に、お仕えでき大変光栄です。」
側近テストを受け、仕える時は大概そう言う者たち。
世辞でも何でもない。
俺は、3兄弟の中でも一番仕えたがっているものが多い。
理由も薄々、解る。
選択肢の無さにより‥だ。
ザイール兄上は幼少より、狂信的に好きになるものと、絶対に行きたくないものとで別れた。
アメリカに行かれてからのほうが、もう長い年月になるが、多分自国にお帰りになることはないだろう。
いつだったか、兄上の部屋で、使用人達が慌て兄上も必死の顔で、出てきた。偶然通り掛かった俺の手を掴み「クロロフィルの量を間違えた。換気をして出たが、死んだら自己責任といってあるから。ハミドもこんなところを彷徨いてはだめだから、早く離れよう」と、真っ先に逃げてきたらしい。兄上、使用人にそれはなかろうと思ったが、兄上にとっては使用人は、そういうものだ。
アレフ兄上は説明するまでもないが、自分に出来ない事を全て使用人にやらせる。典型的な奴隷扱いだ。
自分では出来もしない事すら命令し、出来ないお前が、悪いのだと自害を迫る。
洗脳でもされているのか、あそこの使用人はよく死ぬ。
別にいいも悪いもない。
どちらも俺が口を挟んでいいものではないからだ。
俺は使用人が俺の為にしてくれる事に感謝をし、彼らがプライドを持って成すべき事をしたらそれを認め、彼らの幸せを考えもし、時には褒美も用意する。
俺が何もしないのは、神輿という自覚があるからだ。
みすぼらしい神輿では、担ぎ手が可哀想だろう。
彼らに誇りを持って仕えられるような主であるよう心掛ける事、その範囲が俺に許された事だ。
ゲンショーの寺は、「生きること、これ全て禅である」
という思想だ。掃除は心を洗う修行、料理は命を頂く修行、「ハミィ、心が歪んでおるとな、それそこのスリッパがバラバラになっておっても気がつかんものよ。心が真っ直ぐであれば自然とスリッパを治そうと身体が動いてしまうもんなんじゃ」と。あの中では俺も気兼ねする事なく、自分のことだけ考えて行動出来る。
それとこれとは別と、何故シオンは分からないのだろうか?
ふと目を前方に向けると、シオンが飴の紙を剥いている。カリフさん、と声を掛けると、あいつはあーんと口を開けた。
えっ?
そこにシオンが手ずから飴を放り込む。
飴を舐めるカリフとシオンが目を合わせて微笑んでいる。
‥なんだ、それは。
思わず、前の座席を蹴った。
『一体なんの真似だ!それは。』
『っつ、乱暴ですよ、これは運転手だけの特権です。ハミド殿下もアメリカの免許はあるのですから、来年は国際免許でも取ってシオンに好きなだけしてもらえばいいのでは。』
『ふざけるな、絶対断われ!俺が不愉快だ。』
『断ったほうが、シオンは悲しみます。彼にと
っては運転してくれるものに感謝を伝える、良かれと思っての行為なのですから。それよりもまずいと思いますよ、先程の発言は。シオンはあなたが王族であることを知りませんし、かしづかれる存在が当たり前とは私からも説明できません。』
カリフはしれっと返してくるが、的確な言葉のナイフを確実に俺に、あてている。
それでも悔しくて、シオンがカリフに飴を、差し入れる度、悔しくて運転席をドカドカ蹴ってやった。
確かに、この状況はまずい。
だが、シオンにどうすれば機嫌を治して貰えるのかは全く分からない。
他にも考えなくてはいけないことも山のようにあると言うのに。
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