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「頂いたドーナツのお礼です。俺にとって、この店のドーナツは、凄く凄く、大切な思い出なので…」
シェザードさんは、何かを、思い出すようにふんわりと笑った。
「私にとっても、大切な思い出なんです。園村さんに話しても、戸惑われるかも知れませんが、聞いて頂いても、いいですか?」
控えめな、笑顔。
「俺なんかで良ければ、聞かせてください。」
「…ありがとう、ございます。私、前の部署の上司が好きでした。あっ、密かに思っているだけで、上司は知りません。
きっと、彼にはもっと大事な事があるから……。でも、私がある日、このドーナツを食べたあとにした報告を、上司が初めて褒めてくれたんです。
「よくやった」って。
それだけで、今まで生きてきて良かったと思いました。
それから、仕事の関係で、このドーナツを連日のように食べて、その時、上司も一緒に食べてくれてたのですが、何年も一緒にいてこんなに近づいてくれた事は初めての事で…。
怖い事があった時も、偶然その上司が同じ場所にいて私を慰めてくれたり、私には、このドーナツが幸運を運んでくれたんだと思っているんです。
でも、移動で…仕事でしか、関われないのに、仕事でしか役に立てないのに‥」
切なく、苦しそうな顔に俺まで胸が締め付けられた。
「移動先の、あの人を恨んじゃいけないのに‥」
シェザードさんは、両の目から、ツーーーと、涙を流していた。
「あれ?なんだろう、突然‥支離滅裂ですよね、こんな話‥」
手で、拭いながら申し訳なさそうに笑った。
確かに話の内容は分からない、でも、一つだけ俺にもわかる事がある。
「その上司の方を、凄く好きなんですね…。」
離れがたい気持ちは狂おしく、別の誰かに当たりそうになっているんだろう。
俺は、シェザードさんの背中を擦りながら、落ち着けるよう、自分の事も話す。
「好きって、気持ちは、知ってしまうと急に怖くなる…俺も最近、好きな人が出来て…。そいつに振り回されっぱなしですけど、シェザードさんのように、苦しくなる時がよくあります。お互いに、厄介な相手を好きになってしまって、ふふっ…案外俺達って、似たもの同士かも知れませんね。」
ハミド、本当に厄介な男。お前は会えない時にも、俺の気持ちを掻き乱すんだから‥
「園村‥さん‥」
「あっ‥あと、シェザードさん、俺の事は良かったら、シオンて呼んでください。因みに父は康太(こうた)と言います。なかなか、仕事の都合で会えるか分かりませんが、シェザードさんが越してきてお隣さんなの、父に伝えておきますね。今後とも、宜しくお願いします。」
「‥っつ ‥はいっ!こちらこそ、宜しくお願いします。シオン!」
シェザードさんは、俺と話して少しだけ、笑顔になってくれた。
俺の出した洋服から、数枚、遠慮がちに持って行ってくれた。
その中でも左右の紺から青、青から水色と少しずつグラデーションが広がり最後に真ん中で白になる清潔感あるカジュアルシャツは俺よりシェザードさんによく似合う。それを持って行って貰って、ちょっぴり嬉しくなった。
そういえば、俺‥まだハミドにきちんと、ちゃんとしたプレゼントって、したことが無いな。
地球のネックレス。ハミドに会えない時はいつも握りしめて安心する‥‥。
あいつは、手に入らないものなんて無さそうだから、探すのは大変そうだけど‥。
何がいいか、探してみたいな。
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