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side ハミド
その晩は眠れなかった。
父上に暴言を吐いたとされる、ヴィロトリア女王の言葉も気にはなったが、テルのガッカリした顔は、本当に疲れ切っていた。
馬が大好きで、実家の牧場を大きくするのが生き甲斐で、世界的な牧場にするんだと目を輝かせていた。
昔、日本が初めて世界戦のレースを開催することになった時は、「競馬後進国の日本如きが競馬を開催?金だけは払いがいいから出てやろう。」
ヨーロッパではそんな反応だった。
おまけに日本人は馬の事をまるで考えていない、こんなに馬場が固くて馬の足を壊す気か、とレース前日に難癖をつけ、従わなければ出場を辞退するとゴネ始めたそうだ。
そうして水をレース場に撒かせる指示を出させ、世界のオーナー達は自分の馬に有利な条件を揃えさせて毎年外国からの招待馬だけが勝つ、そんな歴史が競馬界で続いた。
危機感を覚えた日本の生産界は、海外の強い馬を高額で買い取り、それを日本の馬に種付けして、世界水準の馬をどんどん量産して行った。
世界レベルの馬を沢山活躍させることで、日本が舐められないよう、日本の競馬を守ってきたのだ。今では逆に日本の馬を欲しがる海外の、オーナーまでいる。
父上も、テルの馬はヨーロッパのどの牧場よりも賢く、大事にされていると喜んで買っているように見えた。テルには、父上の顔を潰してしまった責任を取りたい、とてもではないが売れないと戦国武士のように切腹を決め込んでいるように見えた。
世界を目指すと夢も大きいが、金も手間も掛かる。競馬界が世界水準にまで押し上げられたが、それは馬産業に取っては多くの倒産と挫折を積み上げ、多くの涙と血と努力を含んだ代償を払っての事だった。
テルは一握りの夢を叶えた、牧場オーナーだ。
夢にまで見た、そんな偉業を僅差の2着という届く所で届かない、勝利の女神に処刑された気分にでもなったのだろう。
そんな心のダメージに漬け込むように、他に一部の心ないオーナー達からの嫌がらせ。
テルは、本当に馬作りをやめてしまうのだろうか。
テルの育てた馬を待っている調教師、騎手、そして俺を含めたファンの皆が活躍するその日を楽しみにしているのに、それらは全く目に入っていないようだし、どんな言葉も耳に入らないようだった。
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