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side ハミド
トレーニングセールはオークション形式で、馬が一周廻るまでに、値段が掛かる。
それを、競り落としていく。
高額な馬でも5000万、安ければ500万でも買い手がつかない。
ハミド号は目玉とされていた。
開始は3000万からだ。
「テル、本当にあの青黒毛の馬を、手離すのか。」
「あの馬だけは本当に凄いんだ。手元において育てようかとも思ったが、環境が悪すぎるだろう。今日の最高価格の5000万を切ったら赤字、一億でもトントンだ。ここ最近、馬作りにも力を入れてなかったから、そのツケだな。売れたら他人の馬になっちまうから、せいぜい出来るのは健康を祈るだけだ。
あーあ。せめてハミドが馬主になってくれれば俺も張り合いあるんだが、お前はまだ17歳。馬主の資格習得まで、あと3年もある。持たねぇよ、情熱が。」
「俺のせいにするな、テル。」
テルは未練たっぷりのようだが、もう決定事項なのだろう。この手のアスリートタイプは、休む事を知らない。踊り場で躓いているだけなのに、自分は階段から転がり落ちてしまったと錯覚しているだけだ。
何とか目を覚まさせなくてはいけない。
「続きまして、生産者青山輝耶の当歳馬。母パピヨンウォッカの2016」
と、アナウンスされた。
母パピヨンウォッカとは、ハミド号の母で、テルが心血注いで配合を考え、世界に通用するために作った、万能型のスピード馬だった。レースも走らせたが、故障等を万が一にもさせることがないよう、現役に一度もムチを使う事がなく、牝馬限定の大レースを2つ取るとその時点で早やかに引退させて、繁殖に回した。
そこに欧米でもスピードや馬力のある馬を、掛け合わせる事でテルが理想とする馬を、作り、ハミド号はその一番最初の挑戦だった。真っ黒な馬体に額の、三日月、賢そうな目とほっそりした面立ちは母親そっくりだが、全身バネのような不安定ながらも可能性を秘めた馬体は父親譲りだ。
「あ‥あぁ、自分でも惚れ惚れするようないい馬だろう?殿下は。」
この言い方も気に食わない。
テルの後頭部をさっきから蹴り上げたくなってくる。
セリが始まると、やたら張り切ってるオヤジがいる。3500と上がれば即座に4000と、小刻みに五百万ずつ上げていく。
もう6000万まで来ていた。
テルの顔が曇る。
「あいつ、馬は道楽じゃなくてな。あいつに買われると、出走手当のためだけに走らされて、いい余生なんて送れなくなる。」
「それでもいいと思って、お前はハミドを手離すんだろう?」
「あいつが5000万以上出すのは見たことが無かったから。」
馬主をやらないまでも、あのオヤジの気持ちは分かる。大方大レースを一つか2つ取って馬主として泊をつけたいんだろう。ただ、今日は、競り掛ける相手がいなくて、運悪くあのオヤジの手に渡りそうだ。
間に合わないか?
そう思った時、カリフが手を上げた。「一億!」
場内はどよどよっと湧いた。
オヤジは一億500と、まだ食い下がる。カリフは少し溜息をつくと「1億5千!」その、オヤジが「一億5千ごひゃ‥」といったところで「2億!」カリフが宣言すると、オヤジは「馬鹿な‥2億なんかで元が取れるかっ」と、吐き捨てるように言った。
テルは呆然として、この光景を目の当たりにしている。
「ほら、助かったハミド号を見に行こう。」
俺はテルを引きずるようにして、ハミド号の元に連れて行った。
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