アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
84
-
その日
僕が 近くの惣菜屋で買った 日替わり弁当を2個買って 2階に行くと 母一人だと思っていたが 姉が来ていた。
母が
「真弓 お弁当ありがとう。
冴子はお昼どうする?」
「私はパンを買ってきたから良いわよ。お母さん 真弓と食べれば?」
「パンなら コーヒーでも淹れようか?牛乳ならあるわよ」
「じゃあ ミルクティーにしてよ。簡単よ。このティーバックはね金属無しだから 牛乳にティーバック入れたまま レンジで沸騰直前まで牛乳を温められるの。だって紅茶は沸騰するくらい熱くしてじゃないと美味しく無いもの。いいこと?牛乳は沸騰直前よ。あっつくするのよ。」
「じゃあ ミルクパンで牛乳温めるわよ。面倒くさいわ」
「良いわよ。レンジで。そのために金属無しなんだから。でも牛乳は沸騰させると レンジの中でえらい騒ぎになるからね」
「そんなー。わからないからガス台でやるわよ。ぬるかったり したら紅茶出ないでしょ?」
「不合理ね。レンジで出来るって紅茶の箱にも書いてあるじゃない。ほら 読んでごらんなさいよ。そのために ティーバックのホチキスの金属無しにしたって。」
「失敗したらいやだもの。鍋なら ミルクパンで 沸騰するとき ぼわーってなるから見えるじゃない」
「ばかみたい!なぁに?全てのことを 止めて いつ沸騰するか分からない鍋を監視してるってこと?ばかみたい!時間の無駄じゃない?何の為にレンジに牛乳温め何分何秒って書いてあるのよ。じゃあレンジ使う意味も資格も無いじゃない?お母さんってつくづく馬鹿ね。これからレンジ使うのやめたら?昔とは違うんだから 今はね 料理も時短よ。玉ねぎみじん切りにして加熱。カボチャもレンジで加熱してから切るのよ。クレープだってねレンジよ。フライパン洗わなくて済むのよ。お母さんみたいに何でも鍋やガスや水を使うのは 無駄なの。時間と手間の無駄なの。
ほらマグカップに牛乳入れてあげたわよ。レンジで。お願いよ。加熱しすぎないでね。ほら 言ってるそばから ティーバック入れてないんだから。ミルクパンしまってよ。ただでさえ 牛乳なんか 鍋で温めたら 洗うの大変じゃない?こびりついて。泡だって量以上に鍋肌に着くし。誰が洗うのよ。お母さんでしょ?馬鹿みたい。自分で自分の仕事増やして。もっと頭使って 仕事を減らしなさいよ。お母さんの仕事が増えれば お父さんにも迷惑かかるのよ。考えたことある?お母さんは暢気で羨ましいわ。そうやって わざと仕事を増やして さもさも 主婦してます 家事していますって
自作自演して 家族から 大変だね ごくろうさんだねって 同情買って ぬくぬくしてれば 主婦は務まるわね。おまけに 医者は儲かるし 羨ましいわ。
うちなんか大変。うちのパパは 気の抜けない 公務員。私生活も慎まなくてはならないし。一生懸命頑張ったって 公務員だから 業績に応じてボーナス増える訳じゃないし。羨ましいわ 普通のサラリーマンが。暢気に働いてれば いいんだもの。不景気って言っても なんとか頑張れば 業績に応じた額貰えるんだもの。私なんか 3人もいたずら盛りの子供が居るし。昨日だって上の子が 寝たと思ったら パパが帰ってきて。お風呂もね 入ろうと思ってたのに。風邪気味なのよ。私は。だからお風呂入ったらすぐ寝たかったのよ。でもパパのご飯の支度してさ。風呂は後回しよ。パパのために お鍋一人分作ってさ。パパは今 少し出世したのよ。仕事出来るから。だからね 個人経営のお父さんみたいに 暢気に6時に診察終わりって出来ないのよ。良いわよね。お父さん達は。
それから 具合あんまり良くないのに 後片付けしてさ。結局 風呂に入って布団に入ったの 11時よ。フラフラ。お陰で 朝起きるの辛くてさ。子ども達は向こうに行けるってはしゃいでいるし。着替えもちゃんと詰めてさ。パパは有休取って今日から向こうに行って。私はその何日も前から 向こうにおみやげ 山ほど持たせて。パパは そんなにやらなくてもいいって。でも 私は神経質な程 他人に気を使うタチだから。
一応 お母さん達からって 高級梅干し買って持たせたわよ。だって向こうに行くのわかってて お母さん達も 知らん顔出来ないでしょ?
夕方 向こうのお母さんから お礼の電話あるから きちんと 挨拶しておいてよ。私が恥をかくんだから。
向こうのお母さん ありがとうって言うから ちゃんと 返事しておいて。」
「あら 梅干し買ったの?ウチからって?
悪かったわね。気がつかなくて。幾ら?払うわ。」
「良いわよ。
えっ?
そう?
5,000円よ。交通費は要らないわ。負けてあげるわよ。熨斗も 山手って書いて貰ったから。無地熨斗でね。」
「悪かったわね。代わりに選んでくれてありがとう。後で 10,000円あげるわ。交通費と 手間賃に。」
「ありがと。
あー ほら こんなこと言ってる間に とっくにレンジで温められたじゃないの。」
「はぁー わかったわ。」
黙っていようと 思った。
せっかく母に 熱々の弁当を買ってきたのに。テーブルに置いたまま 下らぬ些細なことに 屁理屈を並べ立てる。自分を棚にあげて しかも自分でミルクティーを作ろうともしないで座ったまま 母を翻弄して 愚弄して。勝手に買ったお土産に 勝手に山手の熨斗を付けて 恩着せがましい。しかも 公務員だから 何日も病気でもないのに有休を公然と取れる。
もちろん 一般企業だって有休を取りやすくしている企業もあるだろう。
全く 言葉がない。
すると母が パンを取りに行った姉の隙を見計らって 目線で 黙って とも 良いのよ とも 思えるサインを送ってきた。
僕は 呑み込んで ペットボトルのほうじ茶を母の弁当のそばに置いた。
父が不在の今 母にお茶を淹れる手間をかけさせたくなかったから。
母がレンジのスイッチをいれた。
姉がパンの袋をテーブルに置いた。
姉は 先程まで きっと 僕の悪口を言っていたのだと思う。
真弓がひどい言い方で高田の味方をした。とか
高田を辞めさせた方がいい。とか。
高田は本当に優秀なのか確かめたのか。とか。
千春は大学にいっていない。とか。
僕が高校から別の医学部に行ったときは幾ら金を使ったのか。とか。
千春と別れさせないお母さんは頭がおかしい。とか。
だいたい 近い話は 母から 聞いていたから おおよそ 見当はつく。
他家の姉に 僕のことを 何て言われても 痛くも痒くもないが
自分の友達の高田ことバビエや 特に千春に関して言われるのは とてつもなく 腹立たしい。
姉は 僕には その事に関して 直接 何も言わない。
しかし どうして 普通に 穏やかに 過ごすことが出来ないのだろう?普通なら 一言で終わることが 姉が絡むと 延々と続くのだろう?
どうして普通の姉と弟の会話が 出来ないのだろう?
どうして普通の母と娘の穏やかな会話が出来ないのだろう?
普通のミルクティーに どうして こんなにも 講釈と 自分の意見を通すのだろう?
どうして 人を貶めて 自分が上に立ちたがるのだろう?
どうして他人には 高いハードルを課すのだろう?
どうでも良いことを 複雑怪奇に変えてしまうのだろう?
どうして 普通の会話に 自分がいかに 苦労しているか 話すのだろう?
人は皆 時間をやりくりして 大小様々な ものを取捨選択して生きているのは 同じなのだ。
それを さも 自分だけが いかに時間に追われているか 延々と話す。
自分だけが やりくりして 大きなモノを捨てたかのように話す。自分がいかに 良い方向を選んだか 話す。
人それぞれ価値観は違うのに 自分が捨てたモノを他人が 選べば 頭ごなしに 断罪するかのように 貶める。
そう 他人を認めない。
他人の考えを認めない。
他人の行動を認めない。
全ての周りの人間に 尊敬されたいのだ。
褒めて 崇められたいのだ。
なんで こんな 人に
なってしまったのだろう?
ピーピーとレンジが鳴る。
泡立った 薄い茶色のマグを母が姉の前に置いた。
ひとくち飲んだ姉が まぁまぁぬるいような気がするけど 良いわ
などと のたまった。
母は 甲斐甲斐しく 紅茶を出す小さな皿と 砂糖を置いた。
「お母さん。スプーンは?砂糖出すんなら スプーンは セットでしょ?」
母が食器棚からスプーンを出して 皿の上に置いた。
堪らず僕は母に
冷めない内に 母さん食べなよ
と嫌味っぽく言った。
姉が つまらなそうに 僕を見る。
3人して 黙りこくって それぞれ食べ始めた。
食べ終えるころ 姉が 口を開いた。
「ねぇ お母さん。3階の あの部屋って言うか 家。
遊ばせておくのもったいないと思わない?いずれ 真弓が お嫁さんを貰って新居にするつもりで 作ったんでしょ?
でも 真弓は お嫁さん貰わないし。この3階に住まわせておくのもったいないじゃない?無駄じゃない?真弓は別の処で 男と住んでるんでしょ?
3階をさ 誰かに貸したら?
電気だの水道だのお母さんが 払ってやること無いんじゃないの?
真弓はエアコンバンバン掛けて一人のくせに シャワーなんて浴びて贅沢に使ってるんでしょ?
いい歳して 親に 寄りかかって。好きなことばかりして。親不孝して。
私なんか ここに居た頃 部屋なんか 真弓と同じ大きさの部屋しかもらえなかったのよ。なのにこの2階にも真弓は我が物顔でご飯食べに来てるし。3階にも 無駄な部屋。しかも広々して キッチンは有るわ 風呂もトイレもあって しかも2部屋も。真弓なんか3階をろくろく使わないくせに。
それなのに 私 パパと子供3人も居るのに この2階のお下がりの部屋。
私だってパパと子供達との プライベートな空間が欲しいのよ。ここに来ると いつもプライバシーなんて無いもの。でも3階使いたくたって ろくに使わない真弓の物だし。しかも真弓の私物ばかりじゃないの。私だって家族5人だけで過ごしたいわ。真弓ばっかり依怙贔屓するのよね。お母さんは。」
家族だけのプライベートが欲しければ 自分達の家に帰れば 良いことじゃないか?
3部屋ぶち抜いて 改装して のうのうと 母に何でもさせているじゃないか。
僕の家として存在しているのに 使おうが 使うまいが 姉が干渉すべきことではないのでは?
光熱費は僕が払っていると 言おうか?
「それか 私とパパは我慢してあげるから あの3階を賃貸として 貸せばいいんじゃないの?」
「嫌だわ。母さんは。だって見知らぬ人がすぐ近くに住むなんて。」
「だって他人に貸せば家賃収入が有るのよ。お母さん」
そうか。
その話が目的だったのか。
それで父の居ない隙を狙って 自分以外は旦那の実家に行かせ 自分一人で母を洗脳すべく 滞在するつもりなのか。
少し 合点がいった 真弓であった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
90 / 137