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あのとき 僕が 極めて大きな声で 威嚇するように 姉を怒鳴り付けたからなのか 母が 一晩家をあけた からなのか 姉は 特に 話を蒸し返すことはしなかったらしい。
だが 日常では 母に相変わらず あーだこーだと 口煩く していたようだ。
その日は僕が病院勤務で 姉も 一旦自宅に帰るとか という話になっていた。
僕が病院を終え着替えをしていると 姉から電話がはいった。なんと 都内の自宅に帰らず S市に居るという。
どうしようか迷ったが 千春にも連絡し 千春と住むマンションに 姉を招待した。
まだ千春は帰宅していない。
家に入ると コーヒーだけ淹れた。
リビングで向かい合い 姉を促すと
まるで すべてを 悟りきったような、静かな声で 話し始めた。
いや この話し方は 自分が 一段上から エセ慈愛に満ちた風に
相手を虫けらのように 憐れむ バカにした言い方だ。
こちらが 教えを乞うても いないのに 自分が正義 自分が教祖の如く 無知の者に 言葉を下賜 してやるから 聞け
みたいな 話し方だ。
「真弓。あんた これからどうするつもりなの?やっぱり一生結婚しないつもりなの?」
頷くと
「冷静になってね。常識とか いうつもりはないけど。あんた 一般的には 優良物件だと思わない?実家は開業医。お父さんは長野出身だけど 決して貧しい家ではないわ。お母さんだって 実家はそこそこの家だし。
私も一応知られた大学出て霞が関の元官僚で パパもね。
全員恥ずかしくない出自よ。
あんたは医者だし容姿も悪くない。出身は高校までは全国区だし大学だって私立ながら有名だわ。
どんな女も嫁に出来るのよ。
良家の娘だって 器量の良い子だって。
それなのに
なんでよりによって。
あんた 私のパパの実家の体面考えたことある?クリニックのお父さんとお母さんのこと考えたことある?
みーんな後ろ指さされるのよ。まともな結婚ひとつ出来ないから。
ただでさえ 優良物件のあんたが独身ってだけで 不思議なことなのよ。
そりゃ 世の中 同性愛の人が居るのはわかっている。でも あんたは 一人で生きている訳じゃないのよ。一人で生まれてきた訳じゃないのよ。兄弟が居て親が居て その又親が居て。
天涯孤独じゃないのよ。あんたが まともじゃないことは 周りのみんなに 迷惑をかけているのよ。
世の中には子供を持たない夫婦も居るわ。持ちたくても持てない 不妊に悩む夫婦も居るわ。
でも まともよ。普通の人。
ブラック企業に勤めている人も居るわ。ヤ〇ザになってる人も居るわ。
でも男と女が夫婦になっていたら 生物学上まともなのよ。
千春さんが 悪いって言ってないわ。
千春さんは単体で考えたら 普通の人よ。だけど 真弓とくっつくと 普通じゃないのよ。
だからね。まともな 2人になりたいなら そんなに 千春って人が好きなら 離れたくないなら せめて せめて
千春さんに女に なってもらったら良いんじゃないの?
今 性同一性障害ってことで 医師の診断書だか 何だか有れば 性転換手術受けて 戸籍上は女になれるらしいじゃない?
戸籍上で女になれば 晴れて結婚出来るわ。子供が居ない夫婦も居るわ。だから 親戚だって 近所だって まともに見てくれる。
真弓が女になるなのは ちょっと外聞が悪いけど。千春さんって 親兄弟が居ないんでしょ?じゃあ 別に構わないんじゃないの?」
開いた口が塞がらなかった。
何故 何故 何故 何故
そういう結論になるのか?
自分の外聞だけ良ければ良いのか?
性同一性障害とは 恋愛対象が同性だからという訳じゃない。
同性愛者が恋人と一緒に歩きたいから見た目異性に扮装してもそれは性同一性障害ではない。
よく聞く異性に扮装することが性的に興奮するからと言っても性同一性障害ではない。
自分の性別が他人から指摘され異性になれば良いのかと 悩んでも性同一性障害ではない。
染色体の異常や幼少期からの自身の性器に嫌悪したり違和感をずっと感じていたりすることが性同一性障害の可能性がある。本当の性同一性障害は 長い間悩み 時には 引き込もって鬱になったり ひどくなると自殺願望さえ発症する。
性同一性障害には 長いカウンセリングも必要だし 診断も難しい。
第一千春は女になりたい人間ではない。千春は自身の性別を嫌悪していない。
僕も男性としての千春を愛している。
誤解だ。いや 分かっていて言っているのか?わかっているならこんな極悪なことはない。こんな尊厳を踏みにじる発言は許せない。
こんな侮辱はない。
こんな こんな ひどいこと。
「てめぇ よくも よくも
そんな ことが 言えるなぁ」
我ながら 地の底から 発するような声だった。
「すぐ 出ていけ!
この 家から出ていけ!」
もちろん捨てゼリフも忘れぬ姉だった。
「私は真弓の為を思ってわざわざ言ってあげたのに。
怖い!大きな声で 乱暴に脅かせば済むと思っているのね。
野蛮人!静かに丁寧にしゃべっているのに怒鳴って人を脅かして。サイテー。あー車で来ていて正解だったわ」
そう言いながら ドアが壊れるかと思うほど 乱暴に閉めていった。
腹が立って 腹が立って
悔しさと 憤怒に 目の前が 赤く染まったかと 思える程だった。
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