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お待たせ致しました。
指定された 老健の窓口で 寝台タクシーの山手です。と名乗ると どうぞこちらへと、今日の乗客の待っている居室に案内された。
そこには まとめられた荷物が入っているらしい段ボールが数個と付き添いらしい家族の女性。そしてベッドには 眠っているらしい入所者のお婆ちゃん。
「こんにちは。山手寝台タクシーです。お荷物はこの段ボールだけですか?」
施設の職員さんが 台車を持ってきてくれたので 段ボールを乗せる。
荷物を助手席と後ろの空いたスペースに積み込んで ストレッチャーを降ろして 部屋に行く。
職員さんが 入所者のお婆ちゃんに声をかけている。
「〇〇さん、起きましょう。サヨナラですよ。」
俺と協力して 毛布でくるんで せーのでストレッチャーに移動させる。
手の空いた職員さんが ストレッチャーに寝かせられたお婆ちゃんを覗きこんで次々と声をかける。
〇〇さん、元気でね。
〇〇さん、ご飯沢山食べてね。
〇〇さん元気でね。
〇〇さん車にこれから乗るのよ。
いつも思うが こういう施設では 入居者は 苗字ではなくて 名前を呼ばれることが多いような気がする。
思い思いに 声をかけては手を握ってあげたりしている。付き添いのお嫁さんらしき人は 職員さんに頭を下げては お世話になりました。とお礼を言っている。
たぶんもう ここには 帰って来れない。
今日の 乗客は この老健から 特別養護老人ホームに移動するから。
本人は分かっているのか 薄目を開けて 見ているが 理解しているのか していないのか 黙っている。認知症なのか 感情が無い。
家族の方は 俺に頷いた。
俺はそろそろと ストレッチャーを押してエレベーターに移動する。
車にストレッチャーを乗せてベルトで固定する。
行き先は ここから 数キロ先の特養。
自宅に帰れるようなリハビリをしなくて済む。
食事も 頑張って時間がかかっても自分で食べましょう ってことも無い。
手があげられないなら スプーンもお箸も持たなくて良いですよって 職員さんが食べさせてくれる。
噛むのが嫌なら 食事を 刻みましょう。まだ刻み方が大きいなら 更に小さく刻みましょう。
飲み込みにくいなら 食事にトロミをつけましょう。
トロミも 嫌なら全てミキサーにかけて 飲める食事にしましょう。飲み込むチカラが無いなら 高カロリー栄養液を 針の無い注射器で 口の開いたタイミングで注がれる。
何となく この先の 様子が 予想出来てしまう。
でも 家族の人は 職員さんが居なくなって車を走らせていても お婆ちゃんに ひっきりなしに 声をかけて話しかけている。ほんわかした 気持ちになった。
不思議なことに さっきまでしゃべらなかったお婆ちゃんは 小さな声で 返事をしている。
良かった。感情まで無くしたら 可哀想な気持ちになっちまう。
行き先の特養は 幸い 新しく出来た建物で とても綺麗だった。しかも割と広目の個室。向こうの職員さんと協力して お婆ちゃんをストレッチャーから施設のベットに降ろした。
お婆ちゃんは俺にありがとうございます。と はっきり言ってくれた。
婆ちゃん元気でね。と声をかけたら うんうんって 答えてくれた。
なんか 少し嬉しくなった。
領収証を書いて 支払は終わり。
様々な 人が 居るよなぁ。
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