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真弓は
正行の病院の夜間勤務を終えて 老健 檀 に向かった。
昨夜は 救急車も無かったし 時間外診察も夕方に1件あっただけだったので 仮眠を取ることが出来た。
檀の駐車場に車を停めて 裏口の扉の前で ナンバーを打ち込んで廊下を通り施設長室に入る。
太陽が上ってきて 施設長室も明るくなってきた。
幾つかの書類に判を押して 事務室に行くと 職員が一人。古株の星川だった。彼はスポーツクラブ時代からの人間で老健に建て替えることが決まって 介護ヘルパーにならないかと 話を一番にした人間だった。
穏やかな性格で 確か妻子持ちで 昔から言葉は少ないが 真面目な性格。
一番に介護ヘルパーの初級を取得し その後その先の資格も取った。今は更にその上級の資格も取得したはずだった。
今は 事務方の責任者として 頑張ってくれている。
真弓が事務室に入っていくと
「おはようございます。病院からの明けですか?お疲れ様です」
と にこやかに言った。
「朝の検温は終わりましたか?」
「はい。一応三階に微熱の方が一人。
いつもより血圧高めの方一人。
退所2名。昼からのショートステイ5名。
二階のノロ疑いは 晴れました。
インフルで隔離の入所者 容態安定していまして 明日には予定通り 居室に戻ります。
厨房の方から 献立一部変更の申し出ありました。
新しい献立は廊下にも張り出して有ります。」
「献立?」
一応 入所者には 食べ物に対して細かく聞き取りを行っている。
家族と離れ リハビリやレクリェーションは毎日有るが 食べることは一番の楽しみでもあるからだ。
アレルギーの有る物は 取り除いているし
好き嫌いも全て聞いている。
人の好みは様々で 肉ひとつ取っても 牛肉は良いが 鶏肉は嫌い ひき肉は良いがカタマり肉は嫌い。牛肉以外は嫌い。
など それぞれの好みに合わせて食事を提供している。肉が全く嫌いなら 他の代用のタンパク質を代わりに入れて同じ味付けで提供する。血圧が高ければ見た目同じで 汁物を少なくしたり 汁物を無くしたりする。糖尿 腎臓他の持病 には 同様に調節する。
パンが良いなら パンを。糖尿なら糖分調整されたジャムを。パン耳が嫌なら耳を取り イチゴジャムが嫌ならリンゴ アンズ マーマレード チョコを。
他にも 揚げ物は嫌い、カマボコが嫌い、ウナギが嫌い、牛乳が嫌い、ヨーグルトが嫌い、ニンジンが嫌い、ほうれん草が嫌い、ゴボウが嫌い、サバだけ嫌い、鰹節が嫌い、辛いものは嫌い。等々ほとんどの嗜好は受け入れている。
新たに アレルギーでも 見つかったのか?
「先日 きざみのりで食中毒が 発覚しましたよね。それで 青海苔 刻み海苔等 入らないメニューになりました。」
ああ そうか。じゃあ 入所者が楽しみにしている 魚介の無いながらの ちらし寿司は しばらく無いのだろう。それか 海苔無しのちらし寿司への 変更か?
「うん。分かった。星川くんに任せる。承認は。」
必要な話は終わったが 星川はもじもじしている。まだ 何か言いたそうだ。黙って待っていると。
「あの 余計な話だとは思いますが 一応聞いていただけますか?私の独り言だと 思って。今は他の職員も居ませんし。もちろん この話は他の職員にも言いませんし 私だけが感じたことかもしれませんから。」
黙って頷くと
「他の職員は 気がついていないと思います。なんせずいぶん前のことですし あの頃夜間は私一人だけが プール担当でしたし。受付をやっていた人はこの老健には来なかったですし。
あの頃の 千春さんを知っているのは 私一人だけですから。
そして 当の千春さんも 私には気がついて無いようで。まぁ 何年も前の話だし それこそ数回話をした だけでしたから。
でも あの頃と同じで 千春さんは 本当に 心が優しくて おおらかで。
もちろん誰にも 漏らしません。」
そう前置きして 星川は 語り始めた。
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