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番外編 祖父回想
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ここは 千春の 母親の実家。
そこに 独りで暮らす 千春の祖父。
間もなく 喜寿を迎えようとしていたが まだ安穏としては いられない。
事業は殆ど手を引いて 今は 幾つかの不動産の管理と 健康の為のジム通い そして娘の見舞いに費やす日々だった。
その不動産についても 弁護士と相談し NPO 法人への寄付を絡めての遺贈 等々 書類を作成したばかりだ。
人間ドッグに似た健康管理は毎月欠かさない。
まだ 逝く訳にはいかん。
まだ 逝けない。
生きて行かねばならない。
布団に 横になり 様々な思いを巡らす。
そして
昔の 或 出来事を 鮮明に思い出していた。
~~~~~~~
それはまだ 千春が 物心ついた頃。
新たに通い始めた 幼稚園。嬉々とした様子に 頬 緩む毎日だった。
千春の両親の仲は冷えていたが まだ 千春が 幼くて さほどの亀裂はまだ表面化しては いなかった。
当時 多分に漏れず 千春もディズニーに夢中で ピアノの稽古の合間に 揃えたDVD アニメを熱心に 毎日飽かずにみていた。
それならと 千葉の舞浜に 行こうと 計画した。
ガイドブックを買い込んで アイスクリームはこれを 昼飯はここで パレードはこの位置で 乗り物はこれと これを。
千春にも説明しながら ウィークディに 日にちを決め 大好きな幼稚園も 休むことを 本人に納得させた。
指折り数えて カレンダーに印を付けて 楽しみにしていた 筈 だった。
家政婦の作った朝飯はおにぎりとサンドイッチにして 向こうの駐車場もしくは 近くのインターチェンジで 食べるつもりでいた。温かいコーヒーやら日本茶を保冷瓶に詰め 千春の好きな麦茶も 同様にしようと 家政婦には 事前に頼んでいた。
そして 出発前日の夜。
既に家族が寝静まった 日付も翌日に変わろうかと 言う時間。
家の中で千春が泣いている声がした。
興奮して寝つ付かれないのか?
夜泣きもしたことのない 千春がいつまで経っても泣き止まない。
おかしい。具合でも悪いのだろうか?
腹でも痛いのか。熱でも出したか?
それなら 救急病院に連れて行こう。
何か 悪いものでも食べたか?いや 昨夜は 生モノは食べていない。夫婦喧嘩でもして 千春が不安に苛まれて 泣いているのか?トイレに行こうとして転んだのか?布団で寝返りをうって どこかぶつけたのか?痛いから泣いているのか?
どうしようか 散々悩み考えたが 心配で居ても立ってもいられずに 千春のもとに向かい 襖を開けると
布団の上で 千春が 泣いていた。
「どうした?千春?ぽんぽんでも痛いのか?こわい夢でもみたのか?」
するとイヤイヤをしながら 膝を抱えて 又 泣いている。
千春の父親も母親も 側に寄って背中を擦ってなだめるように している。
「ほれ 千春 じいちゃんの 膝においで。抱っこしてやろう。甘ったれ子 ちゃん してあげよう。」
千春は幼稚園に入ってから 膝に乗ったり抱っこは恥ずかしがるようになっていた。でも 時々 甘ったれ子 ゴッコ と称して 膝に抱き上げ抱っこすると それはそれは とても 喜んでいた。
時々
チーは じいちゃんに 甘ったれ子 する と言っては スキンシップを好んでいた。
千春は口をへの字にして膝に乗り上げた。
「じいちゃん。千春は もう ディズニーランドに いきたく ないの。行きたく なくなっちゃったの。僕が 行きたくないの。僕が悪いの。ごめんなさい。ごめんなさい。」
そう言って 更に わぁわぁ泣き出した。
それからは ごめんなさい ごめんなさいを 繰り返している。
「どっか痛いのか?」
「幼稚園をお休みするのがイヤなのか?」
「早く おうち を 出るからいやなのか」
「お友達が居ないとイヤなのか?」
「車で行くのがイヤなのか?」
「遠いからイヤなのか?」
色々聞き出してみるが全てに首を振る。
幼稚園には お土産を沢山買おう。
好きな乗り物に乗って良いよ。
朝ではなく 昼出発にしよう。
近くに泊まって 次の日も行こう。
様々提案するが 首を振り
「僕が行きたくない ごめんなさい ごめんなさい。」
と繰り返すばかり。
しばらくして
「じいちゃんは行きたい?
お父さんは行きたい?
お母さんは行きたい?」
と恐々 聞いてきた千春。
もちろんと大人達が答えると
「じいちゃんも お父さんも お母さんも
可哀想だから 僕が 我慢するの。」
?
?
?
何のこと?
「おじちゃんは ご飯を食べる時 お酒飲むでしょう?
お父さんも ご飯の前に お酒飲んで お母さんもご飯食べたあと お酒
みんな 美味しいって 飲むでしょう?
それなのに
あそこは お酒も飲んじゃいけない処でしょ?
おじちゃんが飲めなくて 可哀想。
お父さんもビール飲めなくて可哀想。
お母さんもちゅーはい 飲めなくて可哀想
みーんな 我慢して 可哀想。
僕が
行きたいって 言ったから みーんな 好きなモノ 我慢して 可哀想。
僕が 行きたくない って 言えば
みーんな 可哀想じゃなくなるでしょ?
でも ご本も買って
明日の 朝御飯も お手伝いさんが 用意してくれて
僕 僕 ディズニーランド行きたく なくなっちゃったの。
僕 僕」
~~~~~~~
その後 千春の前で 水筒に 酒 ビール チューハイを其々詰めて 手荷物で持っていくと 納得させて
当初の予定通り 出発して
それこそ お土産は ぬいぐるみも特大のモノ 食器から洋服 ふんだんに 買ってやった。
しかし千春が唯一欲しがったのは 小さな小さな 手の上に乗る 数百円のミニカーだけだった。
水筒は勿論車の中に放置して ランド内では 飲むことは 一切無かった。
皆を 想って 自分の責任としたが 堪えきれず 泣き出した千春。他人を慮って 他人に優しい千春。
あの心根は 今も 変わらないのだろうか。
冷たく 接してしまった千春の母親。
同様に
冷たく 接してしまった祖父である
自分。
それでも 赦して くれた 優しい千春。
今度
あの真弓という 千春のツレに
この話を してやろうか 迷う
祖父であった。
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