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番外編 あのときの千春 5
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俺は 南の方を 回っていた。
今夜は 夕方荷を下ろして 夜半に荷を乗せて横浜に向けて徹夜で走る。
飯を適当な処で食って 仮眠をした。
メールしようかと思ったけど 体調を考えると 少しでも寝た方がいい。
でも 声が聞きてぇな。
いやいや 何だ?声が聞きたいって。俺はアホか?
俺は 荷を積む予定の会社の駐車場の隅で 運転席の後ろのスペースで 布団にくるまって 寝返りばかりしていた。
はー 寝れねぇ。寝なくちゃ。今夜は徹夜で走らなくちゃなんねぇ。
でも少し うとうと したらしくて 予定通りの時間に 荷を積んで 一路 横浜。
日付も変わろうかって時間に サービスエリアに入ってミント真弓氏にメールした。
すると返信代わりに電話をくれた。
「はい。山科。」
「こんばんは。電話大丈夫ですか?」
「あっはい。」
「千春さんは 僕と歳はひとつ違いですよね。映画なんかは 行ったりしますか?」
「映画館は 時間が無くてあんまり行かないけど 話題になった映画はDVDで見てますよ。
でも 映画館で 見た方が 断然面白そうっ ていうのは 映画館に行きましたよ。アバター とか オブリビオン とか ワイスピ とか エヴァンゲリオン とかはね。あ マイケルジャクソンのも 映画館に行きましたね」
「アバター行きました?どこへ見に行ったんですか?僕は川崎に行ったり 港北ニュータウンの方だったり。」
「えっ?真弓さんは 川崎とかニュータウンに?俺とおんなじっすね。
あー 住んでる処 隣だからそーか。
あー俺 真弓先生と隣だったんすね」
「今度 時間が出来たら 一緒に映画見ましょうよ。ねっ。
それから この前も 言ったけど いい加減先生はやめましょうよ。真弓って呼んで下さいね。プライベートは医者と患者じゃないです。僕は一個人として千春さんとお付き合いしたいんです。先生って 呼ばれると 千春さんと すごく距離が開いた感じがして 哀しくなります。
僕は 千春さんと 末長く 対等に 親しく お付き合いしたいんです。千春さんは嫌ですか?」
「いやぁ とんでもないっす。俺だって 真弓さんと 話していると スゲー うれ、違っ たの、違っ 面白いっすよ。いや 面白いっつうか その なんつうか 話が合うっつうか 沢山話して色々知って その……同じ年代で その その 何ていうのか 俺あんまり話すの上手じゃないのに 俺の話を ちゃんと聞いてくれて嬉しいっていうか。真弓さんは 優しいっすよね。俺のつまらない話を 聞いてくれて。俺みたいな 一般庶民を相手にしてくれて。本当なら
俺みたいな 奴 真弓さんと話なんか 出来る立場じゃないのに。」
「千春さんっ。今は医者も患者も関係無いって 言いましたよね。僕は 千春さんが 隣人だからじゃない。患者だからじゃない。あなたを気に入って個人的にお付き合いしてるんです。あなたとこれから 時間を設けてお酒を飲みたいんです。あなたとこれから 筋トレについても 教えてもらいたいんです。あなたとアメフトをみたいんです。あなたとナイターも見に行きたい。同じことについて 楽しく話をしたいんです。仕事抜きで 同じ趣味を共有したいんです。あなたの話は面白いですよ。あなたの話を聞いていると飽きないです。」
「そりゃどうも ありがとうございます」
俺は動揺した。
今まで 俺を けなした奴は沢山居た。
とにかく 今までは 馬鹿にされないように 虚勢を張ってきた。
人に誉められるような人生じゃねぇ。
俺は頭も悪いし 何か悪い事が有ると 身から出た錆だと我慢してきた。
我慢ってことじゃねぇ。
身から出た錆は俺が受けるべきモンだと当たり前のように思ってきた。
友達は おれの境遇を知ってるから 対等に接してくれる。
俺が母親ってモンを知らねぇ常識知らずだから 目をつぶってくれている。俺が小さいときに父親が死んで。だから 俺の友達は俺を多目に見てくれてる。婆ちゃんに育てられて 婆ちゃんも死んだから 俺を庇ってくれて 俺と友達で居てくれる。
俺女房に 出ていかれて 哀れな男だけど 甲斐性のない男だけど 本当のことだから。
情けない男だから 他人に 馬鹿にされてるだろうけど 身から出た錆だとわかっている。俺が 悪いんだから。
でも こんな 俺のこと まだ知らない筈の このエリートが 真弓先生が 俺を 認めて 一人の人間として 見てくれてる。何だかわかんねーけど 俺は からだの芯から温かい気持ちになった。俺みたいな 人間を……俺みたいな人間を……
「真弓せっ いや 真弓さん。
ありがとうございます。
俺ね。前にも話したけど 常識知らなくて。
迷惑だったり 気に食わないことあったら すぐ言ってくださいね。図々しい態度だったら 言ってくださいね。
俺ね 小学校の時にね 親が離婚して 親父と2人暮らしだったんです。母親は多分今も生きてるだろうけど 俺母親に嫌われていたみたいでね。それで父親もすぐ事故で死んじまってね。そのあと 婆ちゃんに引き取られたんすけど 高校のとき やっぱり死んじまって。俺 ずっと鍵っ子だったし 親から常識とか 教えてもらわないで育ったようなバカなんです。結婚も向こうから押しかけ女房で。最初は同棲して そして向こうが出ていって。次も向こうが俺んとこに転がりこんできて 愛想尽かされて 出ていかれて。
そんな野郎なんすよ。呆れるでしょ?」
「そんなことありませんよっ!
自分を卑下しちゃダメですよ!千春さんは立派な優しい人です。苦労した分 周りに優しく出来る人ですよ!僕は少なくとも 千春さんは素晴らしい人だと思ってますよ。他の人が仮に 悪口言ったら 僕がやっつけてやりますよ!」
「真弓さんっ。そんなこと言ったら 後で後悔しますよ。
だって真弓さんは その 誰からも好かれる人だし えーと 何て言うか イケメンだし スゲー良い声で。蕩けちまうような声で。」
「誉めても何も出ませんよ。でも 千春さんが 良い声ってほめてくれるなら 愛を囁いたら 千春さんはイチコロですか?ふふふ。じゃあ これから毎晩電話で 千春さんを メロメロにしてみたいなぁ。」
「ま 真弓さん ったら 何言ってるんすか?誘惑するなら 俺みたいな むさ苦しい奴じゃなくて 綺麗なお姉ちゃんでしょ?もうっ 何言ってるんだろうか?そうでございましょう です でおま なんでやしょ?あれっ なんか言葉が変かな?」
「ははは 千春さんは本当に 素直で可愛らしいなぁ。」
「もう からかわないで くださいましよ。ありゃ?」
笑い声が携帯の向こうから 聞こえてくる。話し声が聞こえてくる。俺を誉めてくれて 俺を 持上げてくれて。親しく接してくれて。
なんか電話で話しながら どんどん距離が縮まって………
顔が 火照ってくる。
俺 なんか 変なのかな?
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