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二月三日 陸上部部長の務め
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語り:陸上部二年 渡辺朔夜
※このお話は現三年生が二年生の頃のお話です。
「今日はなんの日?ふっふぅー!」
「ん?節分だな」
「だろ?!なにする?!」
「……部活だな」
「渡辺マジメかよ!撒くぜー!豆撒くぜー!って気分なんだけど、午後練終わったら部室で豆撒きしていい?!」
「んー…まぁ最後掃除するならいいぞ」
「さすが部長!分かってるぅ!」
そんな会話を井上としたのが、朝練が終わって教室へと歩いていた時。
二月にしては少し暖かい一日だった。
卒業式も近づいて、もちろん三年生は引退して、一年と自分達二年だけになった人数の減った部活。
三年生が引退した時は寂しかったけど、部長っていうのはやる事も色々あって、騒がしいメンバーに囲まれて、変わらず楽しくやっている。
わいわいと騒ぐのは嫌いじゃない。
一年後には自分達はもうここにはいない。
豆撒きなんてしばらくやってないし、楽しむのもいいだろう。
今日も一日みんな怪我なく部活も終える事が出来た。
ロードワークで走った裏山には梅が咲いてたりして、春も近いな、なんて思った。
春になったら新入部員も入ってきて、また忙しくなる。
ちゃんと部長としての務めを全うしよう。
「よし!渡辺鬼な!」
そんなちょっとセンチメンタルな気分をぶち壊してくれてありがとう井上。
「なんで俺なんだ…」
「休み時間に作ったから!鬼のお面!」
「この鬼怖っ!」
「井上無駄に画力高ぇんだけど!」
うん…瀬川、田沼…
俺が鬼ってとこにはツッコんでくれないんだな…
「豆撒きって豆のぶつけ合いだろ?」
「……緒方さんどんな幼少時代を過ごしてきたんですか…」
緒方も秋月も俺が鬼なのスルーなのか…
「豆は持ってきたんだぜー!一年もやろうぜ!」
井上準備いいな…
「豆撒きやりたいです!」
岡田…
「俺も!久しぶり!」
沖村…
「小学生の時給食で出た豆撒いたよな!」
高島…
「あー!撒いた撒いた!豆だらけになるんだよな!」
永島…
「踏んづけてバキバキの豆掃除した!」
「懐かしいー!」
他の一年もみんな俺が鬼でいいと思ってるのか…
「渡辺…」
「……山梨…」
さすが山梨だ。
山梨だけは違う。
人の気持ちを汲み取る事に長けてる山梨だけは、俺の事を分かってくれる。
「男子高校生の腕力なめんな…全力で逃げるんだぞ…」
「………あ、うん…」
ショック…
ショックだけども!
こうなったら全力で鬼を務め上げよう!
部員達が楽しく活動するのを補佐する!
それが部長としての仕事だ……!!
そうですよね……!!戸倉さん……!!(泣)
「痛ってぇ!緒方ふざけんな!」
「逃げんな田沼!正々堂々戦え!」
「井上!早く次の豆寄越せ!」
「任せろ山っち!コンビニの豆買い占めてきたからたくさんある!」
「瀬川さん!爽やかに全力投球やめてください!」
「なに言ってるの岡田。まだまだ全力じゃないよ。沖村、後ろ狙われてる」
「えっ?!おい秋月!無表情で狙ってくんなよ!」
「無表情は生まれつきだから」
ぽつーーーーん。
「高島!豆食うなよ!」
「え?山梨さん食わないんですか?」
「緒方マジ痛てぇっての!」
「田沼受けよ!俺のスーパーショット!」
「井上!豆!袋ガンガン開けろ!」
「イエッサー!」
ぽっつーーーーん。
「緒方に当たんねぇ!」
「田沼甘いなぁ。緒方に当てたいならこっちを狙う」
「瀬川っ!秋月狙うんじゃねぇ!」
「いや、自分の身は自分で守ります。緒方さん、瀬川さんの背後へ」
「よし!分かった!」
ぽっっっつーーーーーーん。
え?
豆撒きってのは
「鬼はー外ー!福はー内ー!」
ってやつだよな?
なんで鬼無視?
てか井上もうちょい目の部分の穴大きくしてほしかったな。
視界悪い。
これ緒方の言ってた豆のぶつけ合いだよな?
俺が鬼やる必要あったのか?
「渡辺っ!」
山梨っ…!
やっぱりお前だけが…!
「突っ立ってねぇで緒方狙え!」
「………あ、うん…」
渡「瀬川!沖村の背後ガラ空きだ!」
瀬「渡辺いつになく乗り気だね」
沖「痛いっ!痛いっす瀬川さん!」
井「緒方と秋月の連携やべぇ!」
岡「永島!秋月の後ろ取れ!」
永「秋月狙うの気が引けるのなんでだ?!」
山「高島豆食うなっての!」
高「これ癖になる味です!」
緒「食らえ田沼!」
田「お前なんで俺ばっか狙うんだよ!」
秋「緒方さん角度が甘いです。狙うならここ」
田「痛ってぇ!秋月てめぇっ!」
高「腹ごしらえ完璧!覚悟しろ秋月!」
永「豆踏むと痛てぇ!」
沖「それだ!撒きビシ作戦決行!」
高「沖村天才かよ!」
秋「痛っ…」
緒「大丈夫か?!」
秋「はい、踏んだだけです」
岡「よっしゃチャンス!秋月を挟みうちだ!いけ!シマシマコンビ!」
高、永「「シマシマ言うな!!」」
秋「なんで俺ばっかり狙うの?」
岡「二年生狙えねぇだろ?!」
秋「……え、そう?田沼さん当てますね」
田「どんな予告だよ!だから高跳びバカ達はなんで俺狙うんだっての!」
緒「秋月!作戦考えた!」
秋「なんですか?」
緒「秋月が………で………って感じで………って言えばいい!」
秋「……え、それ意味ありますか」
緒「ある!絶対ある!」
山「またくだらねぇ事考えてんだろ」
緒「くだらなくねぇし!秋月!頼む!」
秋「……分かりました。岡田」
岡「どっからでも掛かってこい!長年一緒にいる分、お前に対しての免疫ばっちりだ!」
秋「……俺、痛いの苦手なんだ…お願い、もう狙わないで…?」
岡「………八の字眉毛の上目遣いはヒキョーだぞ…!」
沖「男だって分かってるのになんでこんな可愛いんだよ…!」
高「彼女にしたい…!」
永「つーかもう一回言ってほしい…!」
山「一年チョロい!」
田「バラ背負ってるように見えたな…なんか可愛い効果音も聞こえた…」
山「お前もかよ!」
秋「緒方さん、チャンスです!……なんで崩れ落ちてるんですか」
緒「俺一回タイム…」
山「緒方は自爆してんじゃねぇよ!」
渡「井上覚悟!」
井「なんで急に俺狙い?!」
渡「視界が悪いんだよ!穴小さいんだよ!」
山「八つ当たりじゃねぇか!」
渡「山梨覚悟!」
山「なんでだよ!」
渡「信じてたのに!信じてたのにぃぃ!」
瀬「渡辺お面取らないの?」
渡「部長とはこうあるべきなんだ!」
そうですよね……!!戸倉さん……!!(泣)
乱れた…
激しく心が乱れた…
まぁ秋月を始めとした一年生は、豆のぶつけ合いに夢中で、俺の乱れには気づいてないようだし、大丈夫だろう…
「ロッカーの上も豆だらけなんだけど!山っちそこのほうき取って!」
「ノーコン井上のせいじゃない?」
「なんだと瀬川っ!」
「井上さんそこ俺やりますよ!」
「気にすんな岡田!一年に押し付けないのが陸上部のモットーだ!」
「バカは高い所行きたがるって言うでしょ?井上にやらせとけばいいよ」
「なんだと瀬川っ!」
「緒方…お前そろそろ動けよ…」
「山梨…もう少しだけこのままでいさせて…至福…至福の時であったぞ…」
「緒方よくそんな単語知ってたな!」
「バカにしてんのか田沼!缶コーヒーのCMで言ってんじゃん!」
「渡辺さん、なんか元気ないですね」
「秋月…いや、そんな事はないぞ…部長だからな…」
「はぁ…」
みんなの顔から楽しんでたのが伝わってくるし、だったら俺はもうそれでいい…!!
なんで俺が鬼だったのかとか、なんで誰もツッコミ入れてくれないのかとか、なんで鬼無視したのかとか、視界狭いとか、輪ゴム短くて耳痛いとか、息苦しいとか、そもそもこの人数相手に鬼一人ってのもおかしくないかとか、そんなのもう気にしない!
だって部長だから……!!
そうですよね……!!戸倉さん……!!(泣)
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