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だってそんなの想像つかなくね…?
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語り:陸上部三年 山梨拓海
ついにやってきた高校生活最後の体育祭当日。
いつもの毎日が積み重なって、気づけば色んなものに”高校生活最後”が付くようになった。
周りの奴らはもうほとんどが部活を引退して、早い奴は近々専門学校の推薦の面接だとか。
受験生って実感がどうも湧かないのは、まだ部活を続けているからなのか。
でも嫌でも
受験生!
ってのを実感しなくちゃいけねぇ時が来るんなら、部活のおかげでまだまだ楽しい毎日が過ごせてるって感じなのか…
一年前はまだもう一年あると思ってた高校生活。
一年後にはもう大学生になって半年過ぎてるとか…
やっぱ実感湧かねぇよな…
「お前ら!俺の走る姿に惚れろ!」
なんて井上の声が教室に響いて…
周りで友達がゲラゲラ笑って…
今日も平和である。
体操服に着替えてグラウンドへ向かう。
いつも以上にクラスの、いや、学校全体の雰囲気が落ち着かなくて
体育祭か…
なんて実感する。
「ねーねー山梨ぃー!」
…………来た。
廊下にこだますこの声は、最近ますます独占欲の塊、いや、権化と化した空飛ぶお祭り男…
しかも今「ねーねー」っつってたな…
話聞いてほしいんだろうな…
しかも絶対秋月の話を…
絵の具か墨汁かってくらいの黒髪を揺らした長身の男が、ニコニコと駆け寄って来るとか…
キラキラした美女ならまだ夢もあるけど…
まぁいつもの事だけど…
「山梨おはよう!」
「おは。お前本当に朝から元気だよな…」
しかも基本的にこのハイテンションを一日保ち続けるってんだから、どうなってんのか相変わらず不思議だ。
「まぁ俺だからな!ちょっと聞いてほしいんだけど…」
ニコニコと耳打ち…
次に緒方の口から出る単語は10000%「秋月」。
「秋月の事なんだけど…」
ほらな。
「はいはい…どうした…」
そんで次の緒方の発言の後に、俺は20000%ため息をつきたくなる。
「可愛くて可愛くてどうしようっ!!って感じなんだけど、どうしたらいいと思う?」
はぁぁぁぁぁぁぁ…
思ってたよりも盛大過ぎるため息出たわ…
「大好きっつっとけ…」
「そんなんじゃ伝えきれない…」
「なにがそんなに可愛いか分かんねぇから、これ以上言いようがねぇな」
ああ…
失敗…
大失敗…
そんなん「聞いてやるから話せ」っつってるようなもんだし…
「あのねあのね…」
仕方ねぇ…
聞いてやろう…
そんであとでジュース奢らせよ…
「秋月って実はすっごいヤキモチ妬き屋さんでな」
ツッコミたい所は二箇所。
ヤキモチ妬き「屋さん」ってなんだよ…
屋さんって…
泣き虫さんとか頑張り屋さんとか言っちゃう系…?
女子かよ…
コイツってこういうとこあるよな…
で、秋月がすっごいヤキモチ妬き屋さんだっつったか?
すっごいって…
想像つかなくね…?
「すぐ不安になってうだうだ考え込んでクっソ可愛くて」
うだうだ…?
あの秋月がうだうだ…?
「何回秋月だけだよって言っても、すぐ不安になってふにゃふにゃしちゃってな」
ふにゃふにゃ…?
あの秋月がふにゃふにゃ…?
「可愛くて可愛くてたまんねぇ…」
幸せそうデスネ…
「お前愛されてんだな…」
「えっ?!そう思う?!」
「そりゃな…」
あの秋月がうだうだふにゃふにゃしてヤキモチ妬き屋さんだと…?
さすがに想像出来ねぇ…
秋月ってのはとにかく、恋愛というものにおいては何もかもが初体験。
緒方に惹かれてる事さえ気付けなかった奴だ。
前に緒方が呼び出された時。
坂下に倉庫でなにやら言われた時。
確かに秋月は相当動揺はしてた。
次から次へと出てくる知らない感情に戸惑って、
振り回されて、今にも泣き出しそうな顔をした。
想像出来るか?
表情筋死んでるんじゃねぇかってくらい無愛想だった奴が、泣きそうな顔したんだぞ?
なんとかしてやりてぇなんて、そんな風に思ってほっとけなくなるのも仕方ねぇよな…
そんな秋月の変化は全てこの男によって生み出されてる。
愛されてるに決まってんだろ。
「可愛くて可愛くて…そこで俺は自分が歪んでんじゃねぇかって思う訳なんだけど…」
「……ん?どういう流れで?」
「だってさ…秋月が辛いのとか苦しいのはイヤなのに、もっといっぱい不安になって、もっと俺の事好きなればいいのに…とか思っちゃうから…」
知ってた…
知ってたけど…
マジでガチでマジでガチで緒方っつーのは秋月にベッタベタに惚れ込んでんだな…
「リア充め…」
「ん?なに?」
「なんでもねぇ…まぁ歪んではねぇと思うけどな。もっと好きになってほしいなんてのはみんな思うもんだろ」
「んー…でもさぁ…辛そうな秋月は見たくないのに、辛そうな秋月見て、思われてる!なんて思うの歪んでね…?」
「そうか?そんなもんだと思うぞ?まぁ行き過ぎた嫉妬ってのは重いけどな…」
つーか秋月はよく緒方の愛の重さに耐えられるよな…
相当だぞ…?
潰れるくらいに重くね…?
「その秋月の嫉妬とか不安をお前が受け入れられんなら、別になんも問題ねぇだろ」
「受け入れられるっつーか、秋月が俺の事で嫉妬するとか不安になるなんて、何万回されても幸せ以外のなにものでもない…」
「……そうかよ」
重い…
やっぱ緒方の愛は相当重い…
こんだけ渾身の愛を注がれてんにも関わらず、秋月はうだうだふにゃふにゃしてんのか…
秋月も俺の想像を遥かに上回る勢いで緒方に相当惚れ込んでんじゃねぇかよ…
重い…
漬物石カップル…
秋月にちょっと近づいただけで、緒方のほっぺたはあんこの詰まったヒーロー並にパンパンになる。
嫉妬の塊。
独占欲の化身。
そんな重たくて潰れそうな愛を注がれて、それはそれは春に芽吹く草木の如く、秋月の中でも愛はは成長していってる…
似たもの同士。
相思相愛。
立派なバカップルに成長したもんだ…
「可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて…もう俺メロメロ…」
「……知ってるよ…」
「秋月の可愛さを?!」
「はぁっ?!お前がメロメロなのをだよ!」
「なんだ…よかった…」
秋月の可愛さを知られたくねぇのに、俺に自らその可愛さを話してんのはどこの誰なんだよ…
なんて思うけど、このバカップルはどうもほっとけねぇから困ったもんだな…
「んっ?携帯震えた!山梨ちょっと待ってて!」
「はいはい…」
「あっ!秋月だ!もうグラウンドに出てるって!」
「……おい待て。男子高校生がわざわざ電波使ってまでそんなやり取りすんのか?同じ校内にいんのに?それお前から聞いたの?それとも秋月が一方的に教えてくれんのか?」
「やべぇ!体操服の秋月クっソ可愛いからな!誰かに触られねぇように監視しねぇと!」
「……お前はいつから秋月の監視員になったんだよ…」
「ああああどうしようっ!既に触られてるかもしれねぇ!」
「俺の質問に答えてくれ…」
愛が行き過ぎて怖ぇよ…
「そんな訳で山梨またな!」
「はいはい…」
「あっ!話聞いてくれてありがとう!」
「はいはい…」
あ、やべ…
ジュース奢らせるの忘れた…
普段はあんなにカッコよく走んのに、秋月の事になると本当にワタワタワタワタしやがるな…
バッタバタと走ってく後ろ姿にまたため息が漏れた。
ため息をつくと幸せが逃げる。
そんな事を聞いた事があるけど、俺の幸せはあのバカップルに吸収されてんじゃねぇだろうな…
なんて、バカバカしいと思いつつもバカにしきれねぇのは、あれだけ秋月の事で悩んでた緒方が、幸せそうに笑うからだろうか…
まぁあの二人が、いつもみてぇなくっだらねぇ噛み合わない会話を幸せそうに繰り広げるとこを想像すると、それも悪くない…
なんて思う。
晴れ渡る秋の空の下。
高校生活最後の体育祭が始まった。
一年生が罰ゲーム…いや、障害物競争頑張ってたり、秋月のとこに走る緒方追い掛けたり、借り物競争で緒方にハラハラさせられたり。
橘の放送も相当訳分かんねぇけど、まぁこんなのも悪くない。
今日も平和である。
この僅か数十分後。
部室棟脇で初めて秋月のデレを目の当たりにして、俺は自分を見失う事になる。
だってそんなの想像つかなくね…?
秋月が顔真っ赤にして、タオルからチラッと女子顔負けの恥じらいっぷりを見せてくれるとか…
この様子じゃあ緒方と二人の時はもっとなんだろうな…
なんて思うと、緒方が可愛い可愛い言うのも分からなくはない。
愛が行き過ぎるのも仕方ねぇのかもしれない。
こんな事考えてるなんて、俺も毒されてんのか、それとも毒気を抜かれてんのか…
まぁこんな事緒方に言ったら、またあんこの詰まったヒーロー…いや監視員…いやもはや既に軽くストーカー入ってる状態に追い討ちかけるだけだから、絶対に言わねぇけど。
おまけにその後自分が秋月マジックに掛かって、棒倒しで秋月が怪我しねぇか…なんてガチで心配する事になるなんてのも、この時の俺はまだ知らねぇ。
だってそんなの想像つかなくね…?
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