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秋月充という男
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語り:陸上部三年生 田沼健太
高校生活最後の夏合宿、最後の夜。
俺達は秋月と共にババ抜きをする事になった。
きっかけは二年生がババ抜きをしたのだと岡田から聞いたから。
そして「秋月が追い詰められた顔を見たい」と言い出した山梨の提案で、今俺達の目の前にはトランプがある。
「……あいつ絶対合宿の為にトランプ買っただろ…」
まだほぼ新品じゃん。
「岡田らしいよなぁ」
くくっと笑った山梨は楽しそう。
「なぁ秋月」
「なんですか井上さん」
「みんなと違うシャンプー使ったの?」
「……はい?」
「マイシャンプー持参?」
「いえまさか。備え付けのやつです」
「じゃあなんでこんなにいい匂いすんの?」
「……え、俺いい匂いしますか」
「ちょーいい匂い!ずっとくんくんしてたい!」
「おい井上!!くんくんすんじゃねぇ!!秋月こっちおいで!!」
はいいつもの始まりましたー。
「瀬川トランプ配るの上手いなぁ」
「なに渡辺…トランプ配るのに上手いも下手もないでしょ」
「いやいや見事だ。手つきが詐欺師みたいだぞ」
「おい渡辺、せめてペテン師にしてやれ」
「……山梨それフォローになってないからね…」
いいな。
みんなでトランプとかなんか青春だな。
一曲作れそう。
「はい、配り終わったよ。とりあえず自分の目の前のやつ取ってね」
「これペアになったやつは何個でもここに出していいんだけっけ?」
「おい井上…ルール大丈夫だよな…」
「はいババ持ってる人手ぇ挙げてー!!」
「緒方バカか!」
危ね…
勢いで挙げるところだった…
そんなこんなで第一戦開始。
「あ、ラッキー。ペア出来た」
「ん…?これ一周してきた気がするんだが…」
「あーーっ!!今山っちに持ってかれたやつとこれでペアだったのに!!」
「知るか!」
「ババ持ってる人手ぇ挙げて!」
「緒方さんババ抜きの主旨を奪わないでください」
勝負開始時に俺の手にあったババは早い段階で旅立って行った。
わいわいと楽しい。
手元にあるカードを引かれ、隣の人からカードを引く。
ペアになったらカードを場に捨てて手元のカードが全てなくなればあがり。
なんとも単純なゲーム。
単純なゲームだと思ってた。
俺の何が悪かったんだろう。
いや、俺は悪くない。
なのになんか変なんだ。
何が変なのかは良く分からない。
でもこう…上手く言えないんだけど不思議な力で操られてるような。
そんな気分。
でも気のせいのような。
よく分からないけど。
「田沼さんどうぞ」
秋月から差し出されたのは四枚のカード。
みんなもまだ秋月と同じくらいの数のカードを手にしてる。
この人数じゃすぐに勝負がつきそうな段階でもないし、まだ適当に引いてれば大丈夫。
なんとなく右から二番目に手を伸ばす。
「それでいいんですか」
「…………えっ?」
「本当にそのカードを引いていいのかと聞いてるんです」
「……どっ…どうした秋月…」
急になんか言い出した…
怖い…
「いえ、いいならいいんです。どうぞ」
「よくねぇよ!なんだよそれ!」
怖いだろうが!
「じゃあこっちにしておく!」
そんな事言われたカード引きたくねぇだろ!
最初に触れたカードの右隣を引いてやる。
「お!ペア出来た!はっ!まさか秋月は俺にペアを作らせる為に?!」
「落ち着け田沼。さすがの秋月でもお前の手持ちのカードを知ってる訳ねぇだろ」
「あっそうか…」
「やだぁ田沼くんたら」
「ぐっ…!ルール確認してた奴に言われたくねぇよ!」
恥ずかしい…
恥ずかしいと思った。
でも今なら思うんだ。
秋月は俺の手に何のカードがあるのか、全部分かってたんじゃないかって…
結局第一戦目に負けたのは渡辺だった。
ペナルティがあるのは第三戦のみ。
渡辺は余裕顔。
「二戦目に行こうか」
「位置変える?」
「動くのめんどい!」
「このままでいいんじゃね?」
って事でそのまま第二戦開始。
この人数のババ抜きは思った以上にペアが出来ない。
地味に長期戦になるものの、特に序盤はみんな適当にカードを引いていく。
なのにやっぱりなんか違和感があるような。
見えない力で操られてるような気がしてくる。
「田沼さんどうぞ」
「おう」
「……あー…」
「……なんだよ秋月…」
またなんか言い出した…
心理戦か?
俺に何か仕掛けてんの?
でもこれババ抜きだぞ?
二人でやってる訳じゃねぇんだぞ?
俺だけになんか言ってもなんも意味なくね?
「いえ別に」
「……そうかよ…」
でもやっぱりなんか怖い…
そりゃあ怖いだろ…
これが緒方とか井上ならはったりだと思える。
でも相手は秋月だ。
きっと何か意図があるはず。
あるはずなのにその意図は皆目検討もつかない。
てか山梨…
秋月の追い詰められた顔見たいんじゃないのかよ…
もっと攻めてけよ…
なんて、何気なく目をやった先。
ん…?
山梨顔色悪くね…?
つーか眉間のシワ深くね…?
なんだ…?
「くはっ…!!」
「井上今ババ引いたね」
「なぁぁぁっ!言っちゃダメだろ瀬川!マナー違反だぞ!」
「そんな反応したら自らババ引きましたって言ってるようなものでしょ」
「えっ?!みんな分かった?!」
「「「「「分かった」」」」」
「秋月も?!」
「………………」
「秋月?!」
「………………」
「秋月ってば!!!」
「ああはい。なんですか井上さん」
「どんだけ集中してんだよ!」
秋月怖いよー…
「まぁいいや!俺は負けん!はい次!」
秋月怖いよー…
怖いけど順番は回ってくる。
「田沼さんどうぞ」
「お…おぅ…」
「………………」
あれ?今度はなんも言わねぇし…
やめろよもぉぉぉ…
「……これにする…」
「どうぞお好きに」
怖いよー…
怖いけどゲームは進んでいく。
そしてまた秋月がカードを差し出してくる。
「どうぞ田沼さん」
「……これにしようかな…」
「……へぇ」
「なんなんだよ!!お前さっきから!!」
「いえ別に」
怖いよー…
でも結局第二戦目も俺が負ける事はなかった。
秋月が何を考えてるのか一切分からないまま、いよいよペナルティの課せられる第三戦目。
「なぁ位置変えね…?」
秋月の隣りやだ…
怖い…
「えー?めんどくさいしこのままでいいよ」
「だな」
瀬川と山梨め!
「お前ら秋月の隣座ってみろよ!!なんっっか謎の圧力があるんだぞ!!」
「はい配るねー」
「瀬川聞け!」
「目の前のやつなー」
「山梨ぃぃぃ!」
「田沼さん」
「なんだよ!!」
「田沼さんは俺の隣にいてください。ちょうどいいので」
「ちょうどいいとは?!」
「まぁそういう事です」
「どういう事だっての!!」
結局そのまま第三戦開始。
「あれっ?田沼なんか痩せた?」
「うるせーよ緒方…謎に精神すり減ってんだよ…」
「ふーん?」
気づけば全員正座。
ペナルティの効力すごい。
負けてなるものかという気迫が渦巻いてる。
ラッキーが重なりめっちゃ早い段階で井上が上がった。
秋月の脚線美だのと騒ぎ始めたが、俺の中にあるのはやっぱり違和感。
正体が掴めない違和感ほど気味の悪いものはない。
いや正体は秋月なんだけど。
秋月が何を考えて何をしてるのか分からないのがものっそいストレスだ。
なんだこれ…
「田沼さんどうぞ」
「……おぉ…」
「………………」
なんも言わねぇのかよ…
怖い…
怖いがとりあえずペアが出来たからカードを場に捨てる。
「これで3はおしまい…」
「……んっ?」
秋月今なんつった?
「おい秋月…さんはおしまい…ってなんだよ…」
「ああ、今田沼さんが捨てカードで3は全て場に流れたという事です」
「……は?」
「そういう事です」
どういう事…?
「はっ…やっぱりな…」
え、やっぱり…?
どういう事ですか山梨くん…
その険しい表情に浮かんだ薄ら笑いが怖いですよ山梨くん…
「秋月お前…最初の段階からなんのカードが場に捨てられたのか全部覚えてやがるな…?」
「……は?いやまさか…なに言ってんだよ山梨…」
いくら秋月といえどそこまでする…?
「覚えてますよ」
してた!!
「はぁ?!いやちょっと待って!秋月本当に覚えてるの?!」
瀬川どびっくり。
「秋月!四枚全部捨てられたカードを言ってみろ!」
渡辺パニック。
「今のところ3、4、6とクイーンです」
「ちょっ…ちょちょっちょっと確認!」
緒方もパニック。
「……合ってる…」
俺驚愕。
「ちなみにワンペアだけ捨てられてるのが」
「いや待てお前それも覚えてんのかよ!!」
怖いっ!!!!
「ババ抜きってそういうゲームですよね」
「そういうゲームだっけ山梨くん?!」
「そういうゲームじゃねぇよ!!」
怖いっ!!!!
「あれなんだったわけ?!俺にそれでいいのか聞いてきたやつ!!」
「……え、だから田沼さんが既にワンペア捨てられたカードを引こうとしてるから。ただえさえペアになる確率低いのに、しかもそのカードを引いたところで片方は他の人の手にあるのになって」
「………………こいつなに言ってんの…?」
「つまりはよ…」
山梨くんのため息重い…
「秋月は開始前に場に捨てられたカードもその後に捨てられたカードも全部覚えてて、尚且つその動向からどのカードが誰の手にあるのかだいたい分かってたって事だ…」
「なっ…はぁ?!秋月透視出来んのか?!エスパーかよ!!」
「なに言ってるんですか田沼さん」
「お前が言うか!!」
「簡単な事です。場に捨てられたカードを記憶して、捨てられてないカードが誰の手に渡った時に捨てられたのか、そんな風に見てればだいたい分かるじゃないですか」
「そんな風に見れませんから!!」
なんだそれ!!
「で?!俺がちょうどいいってのはどういう事だ?!」
「田沼さんは考えてる事が結構顔に出るので分かりやすんです。緒方さんや井上さんだと丸分かりすぎてつまらないし、渡辺さん、山梨さん、瀬川さんはあまり表情を変えないから分かりにくいし。しかも田沼さんはちょっと俺が反応すると無意識に右側のカードに手を伸ばす。そういう事です」
「だからどういう事?!」
「えっ待って…?じゃあ秋月はあがろうと思えばさくさくあがれちゃったりするんじゃん…?」
「俺をなんだと思ってるんですか緒方さん…さすがに誰がどのカードを引くのかまではコントロール出来ないですし、ましてや先輩方を差し置いて一番で上がるなんて出来ませんよ…」
「その気遣い傷つく!!」
「……え」
「逆に傷つく!!でも悪意が一切ないから許す!!」
「脚線美ぃぃぃ」
「見んな!!」
やっぱり秋月は俺の手にあるカードを把握していたようだ…
恐ろしいまでの記憶力…
そして澄ました顔してあがる順番までなんとなく操ってたのかと思うと、ここにいる秋月はもう俺の知ってる秋月ではないような気がしてくる…
「さぁ続けましょう。田沼さんどうぞ」
「……ぺっ…ペアにするにはどのカードを引けばいいんだ…」
「おい田沼ずるいぞ!!」
「先輩としてのプライドはないのか!!」
「黙れ天然共!!散々謎のプレッシャーと戦ってきたんだ!!1回くらいはいいだろ!!」
「じゃあこれを」
秋月があっさりと差し出したカードを受け取る。
「…………いやペアにならねぇけど?!」
騙された?!
「……あれ。勘違いだったかな」
ってポーカーフェイスに滲んだニヤリ顔を見逃す俺ではない。
「秋月に謀られた!!」
怖い!!!!!
「たばかれた…?」
「騙されたって事だ!!」
「古風だな。俺も使おう」
「渡辺…」
なにこれ…
疲れる…
「これ…秋月の為に生み出されたゲームだろ…」
おかしいだろなにそれ…
「なに言ってるんですか田沼さん。はい、俺今ジョーカー持ってないんで安心してどうぞ」
「もうお前の言う事なにも信じられなくなりそうで怖い!」
「短パンからのぞく秋月の脚線美がたまんねぇなー。体育座りサイコー。やっぱり嫁に来るか?」
「おいっ!ふざんけなよ井上!秋月正座!もしくは布団!」
「いや暑いので」
「じゃあ正座!」
「お、いいよ。正座は正座でチラリズム感がまたいい感じ」
「どこのセクハラ親父だよ!」
「秋月!やっぱり布団!」
「いや、別になにも問題ないので」
「いいから!」
「暑いですから!」
ギャーギャーと騒ぐ緒方の手からこぼれるようにカードが散らばった。
「あ…」
秋月怖いけどこれでペナルティーは緒方で確定だ…
あー…
あぁぁぁぁぁぁもう疲れました…
俺今ババ抜きやってんだよな…?
なにやってんのか分からなくなった…
秋月充…
底知れぬ男だ…
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