アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
秋月を笑わせ隊 おまけ
-
笑わせ隊が結成された当日。
隊員達は学校の最寄り駅の駅ビルにある、巨大な100円ショップへと足を運んだ。
もちろん秋月を笑わせる為の小道具を揃える為である。
「くすぐったりして笑ってくれれば一番手っ取り早いんだけどなー」
と、井上が手にしたのはトランプ。
「いやむやみに触るのはまずい…あの見た目だぞ…?他の奴に触るのと訳が違う…こっちにその気はなくてもセクハラにしか見えねぇだろ…」
と、山梨が手にしたのは手品用品。
「えっ…?ヤバイかな…俺結構首に腕回したりしちゃってんだけど…」
緒方は青ざめた。
「あの秋月相手にぐいぐい行けるの緒方だけだからな…」
渡辺は苦笑いだ。
「だって秋月すごくね?高跳びもだけど足もめっちゃ速いし!」
「緒方はあの顔見てなんにも思わないの…?ちょっと次元の違う造りだよね…」
と、瀬川が手にしたのはちょんまげのヅラだ。
これを後日自分が被る事になるとは夢にも思っていない。
「確かにすっげぇ美人さんだけど!俺はそれよりもあいつの運動能力に興味がありすぎる!」
緒方もまた、後日その秋月を相手に恋に落ちる事になるなどとこの時は夢にも思っていなかった。
「期待の一年生だよな。ていうか100円ショップすごい…入口のとこ見たか?観葉植物まで売ってたぞ」
渡辺はその観葉植物を買って帰ろうと既に決めている。
「みんな欲しいものあったらついでに買って帰るか」
「だな!さぁさぁどれ使って笑わせるかなー!」
田沼が手にしたのは水鉄砲。
夏合宿で使ったら楽しそうだと想像が膨らむ。
「これは?このクモのゲテモノおもちゃ!」
「ゲテモノじゃ笑わないだろ」
「ゲテモノシリーズすげぇ!ムカデとかGもあるじゃん!」
「Gはまずい!戸倉さんめっちゃ苦手らしいから怒られそう!」
「だからゲテモノじゃ笑わねぇっつーの!」
「ねぇ見て!こんなの売ってる!」
「何それすげぇ!ブロックじゃん!井上!それどこにあったの?」
「ど天然のお子ちゃま二人、目的が違うでしょ。ってBB弾懐かしい…」
「あっちにテーピングとか売ってるぞ」
「あ、俺英語のノート欲しい」
「俺はシャー芯欲しいわ」
変人と知られる二年生が六人。
それぞれがあちらこちらから興味を拾ってくる。
いつの間にか興味の赴くままそれぞれが動き回り、全員がバラバラに。
「なぁ瀬川、前ロッカーにハンガー欲しいって言ってなかったか?ここに売ってるぞ」
と、山梨が振り返った先にいたのは70代くらいの白髪の男性。
目が合いなんとも気まずい時間が流れる。
にこにこと笑うその男性に苦笑いで会釈し、山梨はそそくさとその場を後にした。
「あれー…?あいつらどこ行った…?」
山梨の背よりも高い商品棚により、見つける事が出来ない。
一方その頃。
「渡辺ー、リラクゼーションミュージックのCDあるぞ」
と、田沼が振り返った先には誰もいない。
「……えっ…?みんなどこ行った…?」
辺りを見回すも見知った顔はどこにもない。
時を同じくして
「緒方!日曜の朝やってる戦隊シリーズの文房具売ってる!」
こちらは井上。
「あれ?緒方?」
やはり誰もいない。
一方緒方は井上がいる場所から30m程離れたガーデニングコーナーにいた。
「山梨見て見て!この網なんに使うのかな!」
振り向くもやはりそこに山梨はいない。
そんな山梨がいた場所にやって来たのは瀬川。
「あ、俺ハンガー欲しいんだった。田沼も欲しいって言ってなかった?三本組だからひとついる?」
山梨は既にその場から移動しており、瀬川が振り返った先にいたのはもちろん田沼でもなく、先程山梨と気まずい時間を過ごした白髪の男性。
にこにことした笑顔を向けられ山梨と同じように苦笑いで会釈をし、逃げるようにその場を後にする。
そして渡辺は観葉植物を眺めていた。
「100円のもいいけど300円にグレードアップしたのもいいな…この入れ物と合わせてもワンコイン以下…素晴らしい…」
完全に自分の世界に没入。
誰もが当初の目的を忘れている。
「おっといけない。秋月を笑わせる為に来たんだったな。井上、なんかいいのあったか?」
渡辺が振り返った先にいたのは女子高校生。
「……えっと…どちら様ですか…?」
まさかのその女子高校生の名前は井上だった。
突如知らない男子高校生に呼び捨てにされ、明らかに戸惑っている。
だがしかし渡辺がそんな事を知るはずがない。
「あれっ?すみません!」
慌てて一応女子高校生に謝り隊員達を探す。
ふと視界の端で漆黒の髪が揺れた。
既に身長が180cmを越えている緒方は頭一つ飛び抜けていて目立つ。
渡辺はとりあえず緒方との合流を試みる。
「山っちー?どこー?」
「大声で呼ぶんじゃねぇ!緒方!聞こえてるか?!」
「聞こえてるー!」
「開けた所に立ってろ!みんな緒方に集まれ!」
目印となった緒方を探し隊員達が動き出した。
「開けた所ってどこー?」
「ちょっと緒方!ちょろちょろ動き回らないでよ?!」
「おっ!田沼久しぶりだな!」
「渡辺…どこがだよ…」
「あっ!いた!」
「みんなどこ行ってたの?」
「気づいたら誰もいねぇし」
誰のせいでもなくそれぞれのせい。
更にそれぞれが大声を出し過ぎて目立つに目立っている。
「とりあえず秋月だ。秋月笑わせるもの探すぞ」
100円ショップに来て既に20分以上が経過し、隊員達はやっと本来の目的に取り掛かった。
「ジョークグッズとかパーティーグッズだよね。さっきのちょんまげのヅラよかったよ。井上似合いそう」
「そお?それにしよっかな!」
「クラッカー懐かしい…さっちゃんの誕生日にぶっぱなしてめっちゃ怒られたよな…」
さっちゃんとは戸倉の前の部長。
佐々という苗字なのだが佐々さんと呼ぶと”さ”が多いという事でさっちゃんと呼ばれている。
「爆発したんじゃないかっつってな…」
「他の部ノリ悪いよなー…」
陸上部のノリの良さが異常なだけ。
「俺これ!これがいい!絶対これにする!」
緒方の大声が響いた。
その緒方が手にしているのは馬の被り物。
「やべぇクソウケる!」
山梨がゲラゲラと笑い出した。
「じゃあ俺はこれを被ろう。ピンクのレスラーマスク」
「渡辺がピンク?!」
「意外性があっていいだろ?」
「確かに!じゃあ俺は黄色にしようかな!田沼青にしない?陸上戦隊的な!」
「よし、やるか」
まさかこの時この場所で、陸上戦隊走ってたンジャーの前身となるものが誕生していた事を誰も知らないし覚えてもいない。
「瀬川は?なんにするの?」
「うーん…俺こういうの得意じゃないんだよね…」
「俺もだぞ…」
二年生の中では落ち着いている瀬川と山梨。
なんとしても秋月を笑わせたい反面、羞恥心がある。
「何かを被るとかじゃなくて笑わせられないかなぁ…」
「驚かせるようなもんなら色々あるけどな…」
出来る事なら被り物は避けたいのが本心。
「瀬川も一緒に馬どう?」
「絶対やだ…あ、これくらいならいいかな」
瀬川が手を伸ばしたのはパーティーグッズのたすき。
「”本日の主役”じゃ普通だよね」
「これは?”夜の帝王”」
「学校でそれはやべぇだろ!こっちは?”本日のイケメン”」
「これは?”今が人生のピークです”」
「幸せなのか切ないのか分かんねぇ!」
笑い声が飛び交い大盛り上がり。
「これどうよ。”すみません、本当にすみません”」
「この”今夜のシンデレラ”は?」
「悩むなー!種類ありすぎ!」
夢中だ。
「よし決めた。”すみません、本当にすみません”のたすきにこれにする」
瀬川が手に取ったのはHappybirthdayと形取られたド派手なメガネ。
「謝りながらそのメガネ?!」
「いい!ウケる!」
みんなゲラゲラと笑い出した。
「瀬川がそれやるなら俺もやらねぇとな!よし!緒方と一緒に馬被るわ!」
「山っちが?!マジで?!」
「おう!やってやろうじゃねぇか!」
「そうだよとことんやろう!俺これ気に入ったんだけど馬で被れねぇから誰か被って!」
緒方が手にしたのは先程のちょんまげのヅラだ。
「レスラーマスクにヅラいけんじゃね?」
「いやシンプルな方がド直球でいい気がする」
「とりあえず買っとくか!誰が使ってもいいし!戸倉さんも一緒にやってくんないかな!」
という事で買い物は無事に終了。
「楽しみだなー!秋月笑ってくれるかなー!」
緒方は去年の夏、秋月の跳躍を見てからというものの秋月充という選手に夢中だ。
純粋にもっと仲良くなりたいと心から思っている。
そんな秋月の笑顔が見られるかもしれないと思うと楽しみで仕方がない。
秋月は二年生達の事を今まで出会った事のないタイプだと言うが、それは二年生達にとっても同じ事。
どんなに話し掛けても笑わずひたすらクールな秋月は興味の対象でしかない。
翌日を楽しみに隊員達は帰路についた。
翌日、まずは手ぶらからチャレンジしてみるものの隊員達はことごとく失敗。
ネタを変え時間や日を変え秋月に挑むも、ぴくりとも笑う気配がない。
ついに総力戦となり、ありったけの小道具を駆使し秋月を追い掛け回すも、他の部をも巻き込んだ大騒ぎとなり、戸倉に諌められる事態となった。
その後アルミ缶の上にあるミカンでなぜか秋月が笑い、なんとかミッションを完遂させた秋月を笑わせ隊は解散となった。
後日、暗くなった部室に忘れ物を取りに戻った戸倉が、無造作にゴミ箱に突っ込まれた馬の被り物を見て、女子のような悲鳴を上げた事は戸倉だけの秘密である。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 59