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似てきた二人
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語り:陸上部三年 瀬川祐
緒方と秋月が付き合い出してしばらく経った。
元々緒方と秋月は一緒にいる事が多かったし、元々緒方から秋月にやたらと声掛けてたし、パッと見特に何も変化はない。
秋月が前より少し、笑顔を見せる事が増えた事くらい。
緒方に対してだけ…だけどね。
ただ二人の高跳びに掛ける情熱は相当で、部活にプライベートは一切持ち込まない。
だから見ててとても気分のいい二人だと思う。
部室では井上に煽られて緒方も大騒ぎするけど、まぁどこでもイチャつける訳じゃないから、部室でああやって騒いで抱きついてるくらいなら、別になんとも思わない。
バカだなぁとは思うけど。
「最近緒方と秋月似てきたよな」
朝練へ向かう通学路。
駅で隣に並んだ山梨がそう言い出した。
山梨はとても良く人を見てる。
細やかな表情の変化を読み取り、適切なアドバイスを行ってくれる。
その山梨が言い出したんだから、そうなのかも。
「例えばどんな所?」
聞き返すと山梨は一つ息を吐いた。
「まずは”間”の取り方」
「”間”の取り方?」
「そう。秋月ってさ、話し方に独特の”間”があるだろ?」
確かに秋月は
「……え」
「……なに言ってるんですか」
等、一定の”間”を取った話し方をする。
「まぁその”間”も、緒方の訳分からない会話に巻き込まれてるうちに身に付いたって感じだけどな」
山梨がカラカラと笑った。
確かに前はそんな話し方はしてなかった気がするかも。
言われれば緒方と付き合い出してから増えたような気もする。
「あれだけ訳の分からない事をポンポンと話されたらね。一考しちゃうだろうね」
思わず笑い返す。
「だよな。緒方も最近似たような”間”の取り方すんだろ。たまにだけどな」
「そう?良く分からないかも」
「今度聞いててみろ。で、秋月は声がデカくなった。あと目に見えて慌てたりするようになったな」
「あーそれは確かに。秋月の声って本当に抑揚ないからね」
秋月はその表情と同じように、声色にもほとんど変化がない。
大声を出す事は滅多にないし、慌てる事も滅多にない。
常に淡々と話しをする。
その秋月が先日図書室で話しをした時には、山梨に
”珍しい大声をここで使うな!”
とまで言わせてたし、まさかの二人羽織をしていた時も、なんだかんだと大きな声を上げてた。
「緒方の影響力ってすごいよね」
「ホントだよな。まぁ秋月は秋月で相当鈍いし、緒方がグイグイ引っ張るくらいじゃないと、きっと一生進展しねぇだろうな」
「やっぱり秋月鈍いんだ」
「あいつはヤベーぞ…駆け引きの意味を知らなかった…」
「え?どういう事?」
「駆け引きって知ってるかって聞いたらさ、返ってきた答えが、数学の話しですか…?だぞ」
「…え、嘘でしょ?」
「大マジ。なんも言えなかった…ド天然同士のカップルだからな。会話も聞いてて呆れる…まぁこれは前からか…」
「緒方は秋月の事鈍くてド天然って言ってたよね」
「ガチで天然なヤツの定義ってのは、自分を天然だと絶対認めない事だと俺は思う…秋月は特に恋愛全般において鈍いんだろ。なんてったって初恋だからな」
「緒方が初恋の相手とか…ハマったら抜け出せなくなりそう」
「確かにな」
そんな話しをしているうちに、学校が見えて来た。
校門へと踏み込むと、少し先に噂のカップルの後ろ姿が見えた。
思わず山梨の顔を見ると、目が合いニヤリと笑った。
気付かれないようそっと近づき、聞き耳を立てる。
「だからあれは子供の頃の話しだろ?」
「……え、だからなんで子供の頃には迷子にならなくて、高校生になった今迷子になるんですか」
「そんなの人それぞれだろ?」
「……人それぞれなんですかね…」
いや、全然人それぞれじゃないでしょ…
本当になんて会話してるの…
笑いを堪えるのが大変すぎる。
「……ホントは違う」
「はい?」
「察して…」
「…はい?」
「だから…察して…」
「……はい?」
「ホンっト鈍い!秋月と手ぇ繋ぎたかったの!それだけです!」
「ちょっ…こんな所でそんな事大声で言わないでください!」
秋月が慌てて声を荒らげてる。
「秋月は照れ屋さんだなぁ」
「照れてません」
「もっとこうさ、緒方さん大好き!って感じ全開にしてくれてもいいぞ?」
「……………」
「秋月…無表情やめて…笑って…スマイルって大切だと思う…」
「俺に笑顔を求めないでください」
「笑って!秋月!笑って!」
「楽しい事もないのに笑えません」
「……え、じゃあ秋月いつも俺といて楽しくないの…?」
「……いや、どうしてそうなるんですか…」
「秋月が大笑いしてるの見た事ない…」
「大笑いした記憶がないです」
「……え、マジで?秋月の笑いのツボってどこ?くすぐっていい?」
「ちょっと!確認しておいて返事聞く前に行動しないでください!」
秋月の口癖そっくりな緒方の口調と、再びの秋月の慌てた様子に、堪え切れなかった笑い声が漏れた。
二人は揃って振り返った。
「……おはようございます」
無愛想な秋月が目を丸くしている。
面白くて仕方がない。
「おはよう。山梨の言った通りだね」
「だろ?」
山梨も再びカラカラと笑った。
「なに?なんの話ししてんの?」
緒方が興味丸出しで食いついた。
「いや、全くタイプが違うはずなのに、お互い巻き込まれて似てきちゃったカップルの話し」
当のカップルは目を合わせ、揃った動きで不思議そうに首を傾げた。
入部当初は全く表情に変化のなかった秋月が、ほんの少しずつだけど色々な顔をするようになった。
常に冷静で冷めてた秋月がこんなに慌てて大声出すなんて、半年前には考えられなかった。
付き合い始めてから緒方を見る表情が柔らかくなった事に、秋月本人は気づいてるのかな。
緒方の前ではもっと色々な顔をしてるのかと思うと、緒方もますます秋月に惚れ込んでいっちゃう気がするけど、まぁ秋月頑張って。
思ってた以上に秋月も緒方が好きみたいだし、いつまでもこのまま、この二人が穏やかに似通ってくれれば面白いと思う。
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