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田沼さんのノート
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語り:陸上部三年 田沼健太
ヤベーよ…
ノートなくした…
かなり大切なノート…
今朝ちゃんと鞄に入ってたんだよな。
なのにない…
って事は学校でなくしたんだよな…
記名してない…
いや、してなくて正解か…
二度と戻ってこないかもしれない…
あぁ…
五月のこんなに爽やかな日に…
ショックだ…
「田沼どうしたの?」
「瀬川…いや、ちょっとショックな事があってさ…」
あんな素晴らしいノートは、もう二度と作り上げる事が出来ない…
「なに?なんかあったの?」
「まぁな…ノートなくしてさ…」
「え?なんの教科?コピーする?」
瀬川いい奴だな…
「いや、大丈夫だ…授業関係のものじゃないからさ…」
「そう…まぁ元気出しなよ。もし見つけたら拾っておくよ」
「おう…サンキュ…」
はぁ…ショック…
「どうした田沼!元気ねぇな!」
「井上…まぁちょっとな…」
「そうか!誰にでもそんな日があるよな!」
お前にはないだろうけどな…
「あっ!そうだ!田沼!俺が元気を分けてやろう!今日いいもの見つけてさ!」
「いいもの…?」
「おう!待ってろ!」
ガサガサと広げた鞄の中から出てきたそれは…
俺のノート!!
「これすごくてさ!元気になれるんだ!」
井上!勝手に俺のノート見るな!
つーか既に見やがったな?!
「じゃあ読み上げるから聞いててくれ!」
読み上げるんじゃねぇぇぇ!
「いくぞー!
『桜前線』
追い掛けてた、笑顔だけだった君。
春の風に揺れる胸の花びら。
赤く染まる頬が、沈む夕陽に溶けた。
当たり前の言葉だらけでも、嘘じゃない、気づいてる?
今すぐ、君に届いて。
懐かしい木漏れ日の中に忘れてきたもの。
零れ落ちた、私のカケラさえ。
いつでも、季節外れの、透明な風が包み込んでくれるから。
きっと叶う。
桜前線は、すぐそこ。」
「……なんだその乙女思考満開なポエム…」
山梨っ…ヒドイ…
ポエムじゃなくて歌詞だよ…
春のー風にー揺れるー胸の花びらー
ってやつだ…
それ最新作で最高傑作なのに…
「まだあるからいくなー!」
やめてくれ井上!
「『おぼろ月』
春の空にかすむ月。
会いたい。
会いたい。
一目だけでいい。
こんなにも月が綺麗な夜は、隣に君がいたらなって。」
「あーそれいいな…」
緒方マジで?!
まぁ絶対秋月の事思ってんだろうけど…
「『コロッケ』
コーンは入った方がいい。
ひき肉入るともっといい。
キャベツがあると、更にいい。
ほくほく、ほくほく。
寒い日には、早く家に帰りたい。」
「なんか急にクオリティー下がってねぇ…?」
仕方ないだろ山梨!
腹減ってたんだ!
「『ホタル』
ふわりふわりと浮かんで。
ふわりふわりとまた消える。
手を伸ばせば届きそうなのに。
捕まえたらきっと、すぐに死んでしまう。
近くで見られるならそれでいい。
君はホタルのよう。」
「なんかいいな…」
緒方…
お前いい奴だな…
「『ハンバーグ』」
「まだあるの…?」
「おう!ノートにびっちり書いてあるぞ!」
だってそれは俺が中学の時から書き溜めたやつだからな…
「井上…なんか心に沁みるの読んで…」
緒方…
体育座り始めた…
「『ハンバーグ』心に沁みるぞ!デミグラスソースがうまそうで!」
「じゃなくて、なんかこう…切ない恋心的なやつ…」
「えー?ちょっと待って…そうだなぁ…」
オススメは『愛しいきみ』だな。
「おっ!これいいな!『ぷりぷりプリン』」
「井上違う!もっとこう切ないやつ!」
「すげー気になるタイトルだけどな…」
そうだろ山梨…
あのプリンのぷりぷり感満載なやつだぜ。
「じゃあ…よし!これだ!
『宝物』
知らなかったよ。
ただただなんとなく過ぎていく毎日。
こんなにも温かい気持ちがあったなんて。
笑顔を見るだけで嬉しくなる。
声を聞けば満たされる。
伝えられなくても、声には出来なくても。
心の中で、何度も君に好きと言うよ。」
「……泣ける…」
「ちょっと緒方…本当に泣かないでよ…」
「これもいいぞ!
『冬の日に』
繋いだ手と手。
伝わってくる君の体温。
吐く息よりも白く、降り続ける雪。
このまま全部真っ白に染めて。
何もかもなかった事に出来るのなら。
曇りガラスに書いた文字。
大好きな君の名前が、涙を流した。」
「………秋月っ…」
「おい緒方!泣くんじゃねぇよ!井上!もうやめろ!収集つかなくなる!」
「ていうかそのノートなに?どうしたの?」
「落ちてたんだ!部室の階段の下に!」
階段…?
あっ!携帯探すのに階段に鞄置いて、一回中身出したんだ!
その時か!
「つーか誰がそんなの書いたんだよ…顔見てみてぇよ…」
ここにいるぞ山梨…
絶対名乗れないけど…
「山梨…秋月に会いたい…」
「お前秋月の事になるとメンタル弱りすぎだ!井上!読め!ぷりぷりプリン読め!」
「おっ…おう!いくぞ!
『ぷりぷりプリン』
ぷりぷりぷりぷり。
ぷりぷりぷりぷり。
見てるだけで幸せ。
なんて甘い、いい匂い。
弾けそうで弾けない。
柔らかいその感触。
触ったら壊れるかな。
それでも触らずにはいられない。
甘くて可愛いぷりぷりプリン。」
「………秋月っ…」
「なんでぷりぷりプリンから秋月思い浮かべた?!」
「秋月可愛いし、いい匂いするんだ…」
「井上!ハンバーグ読んで!」
「わ、分かった!
『ハンバーグ』
ひき肉と一緒に愛情込めて。
丸めて丸めて焼きましょう。
ジューシーな肉汁。
つややかなデミグラスソース。
焼けたその肌にもう首ったけ。」
「……秋月…」
「緒方どうなってんの…?」
「秋月日焼けしてた…」
「よし…もうやめよう…井上、そのノート明日落し物として職員室に届けてこい…」
ちょっと待て山梨っ!
それは困る!
「俺持ってってやるよ!ノートなくしたから明日落し物ないか聞きに行くし!」
「ていうか田沼の落としたノートって、それだったりして」
ギクリ…
「なに言ってんだよ瀬川!俺がこんなの書ける訳ねぇだろ!」
「だよね。田沼彼女いないのに、ここまで繊細な乙女心書けないか」
嬉しいやら悲しいやら…
「鍵閉めるぞー!みんな出ろー!ってなんで緒方泣いてるんだ…」
「渡辺ぇぇぇぇ!」
「うわっ!緒方抱きつくな!なんだこれ!なにがあった?!」
なんとか戻ってきたノート。
なんか緒方に悪い事した…
告白してまだ返事もらってないんだよな…
もう学校に持ってくるのはやめよう…
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