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夏と言えば…
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語り:陸上部二年 山梨拓海
※このお話は現三年生が二年生の頃のお話です。
「みんなで怖いDVD観ない?」
蒸し風呂と化した部活終わりの騒がしい部室。
また訳の分からない事を言い出したのは、いつも訳の分からない井上。
夏合宿が終わったばかりの、夏休み真っ只中、夏真っ盛り。
確かに夏と言えばホラー的な感じはあるけども
「みんなで怖いDVDを観る意味が分からないんだけど…」
それな。
瀬川に激しく同感。
「あれは一人で観るから怖いんだろ。みんなで観ても怖くねぇよ」
そんなもんじゃね?
「兄貴が超超超怖いってDVDを借りて来たんだ!観たいだろ?!でも一人じゃ怖いだろ?!じゃあどうする?!」
俺だったら諦めて観ねぇな。
「みんなで観る!」
はい出た緒方。
「さすが緒方!分かってくれるのはいつもお前だ!」
同類だからな。
「俺パス…怖いの苦手…」
田沼…
ツッコまねぇなと思ったらそういう事かよ…
「どこで観るんだ?」
渡辺は乗り気なのか?
まぁあんまり動じないで淡々と観てそうなイメージはある。
「俺んち!それならみんなまた帰りやすいだろ?」
確かに井上の家ならみんなの家の中間地点てとこか。
今日の部活は午前のみ。
暇っちゃ暇だけど
「こんな真っ昼間から観ても怖くねぇだろ…」
「そうだよ。さっさと帰ろ」
瀬川はめんどくさいだけだな、確実に。
「もしかして瀬川…怖いの…?」
お、井上一丁前に煽ってやがる。
「はぁ?怖がってるの井上でしょ?」
「おう!俺は怖いぞ!」
清々しい程の潔さ…
「だからみんなで観ようよー!夏休みじゃーん!いいじゃーん!」
「俺パス…マジでパス…」
俺って性格悪いのかな。
そんな心底嫌がってる田沼見てたらさ
「よし、みんなで行こうぜ」
って言っちゃうのなんでだろ。
「たまにはいいんじゃね?親睦親睦」
もう親睦は十分過ぎる程深まってるけどな。
「さすが山っち!」
「ジュース奢れよ。緒方行くだろ?」
「行く!」
「よし、渡辺は?」
「行ってもいいぞ」
「よし、あとは瀬川と田沼だけどどうする?」
「俺は行かねぇ!!マジで!!」
むしろ俺のターゲットはお前だ田沼。
「俺田沼の秘密知ってんだよな…」
知らねぇけど。
「えっ?!なに?!俺のなにを知ってんだよ!」
焦ってやがる…
なんか秘密があるんだな…
「言ってもいいのか?」
知らねぇけど。
「ダメだ!ダメに決まってんだろ?!」
「田沼の秘密ってなに?!」
はいナイス食いつき緒方。
「俺も知りたい!」
はいバカ二人食いついたら田沼の答えはもう一つ。
「分かった!行くよ!行けばいいんだろ?!」
よしチョロい。
ビビってる田沼なんておもしろいに決まってんだろ。
「来なくてもいいから秘密が知りてぇ!」
そんで緒方の暴走も想定内。
「緒方…ちょっと来い」
「ん?なに山梨」
「秋月誘うか?」
「えっ?!なんで?!」
はいこれで緒方の興味は田沼から逸れた。
完璧な筋書き。
「一緒に怖いの観たら秋月が抱きついて来るかもしんねぇぞ…」
「だっ…!抱きっ…?!」
「井上、秋月も呼んでもいいか?」
「おう!もちろんいいぞ!」
「って事で家主の許可は取れた。ちょっと待ってろ。秋月ー」
「なんですか」
「山梨待って!秋月なんでもない!なんでもないぞ!」
「はぁ…」
緒方顔真っ赤だな。
「ムリムリムリムリムリ!心臓壊れる!」
このピュアっ子め。
「せっかくのチャンスだろうが」
恋なんてのは見てるだけじゃ始まらないだろ。
ったく毎度毎度しゃーねぇな。
「じゃあ俺が秋月と観たいから、俺が誘っていいか?」
「なんで?!山梨も秋月が好きなの?!」
「ある意味な」
「えっ?!」
後輩としてはいい奴だ。
「ダメダメ絶対ダメだ!渡さねぇからな?!俺のじゃねぇけど!」
「はいはい。って事で誘うわ。お前の為じゃねぇから文句はねぇな?」
「うぅぅぅ…渡さねぇぞ…」
バカか。
そんなじっとり睨むんじゃねぇよ…
お前の為以外になにがあんだよ。
「秋月」
「はい?」
「この後暇か?」
「はぁ…まぁ特に用はないですけど…」
「よし、んじゃ俺らと一緒に井上んち行くぞ」
「……え、なんでですか」
「たまにはいいじゃねぇか。部活以外でも親睦を深めるって事で」
「はぁ…まぁ…はい…」
よしチョロい。
で、最後は
「瀬川、って事でお前も行くよな?」
瀬川って最初はめんどくさがるけど、結局付き合いはいい奴だ。
「……分かったよ」
よし完璧。
田沼には悪いけど、何事もみんなで楽しい方がいいだろ?
今しか出来ねぇ事をするのは悪い事じゃねぇと思う。
まぁホラーである必要はねぇけど、高校生なんてあっという間だって、よく親が言ってんだ。
田沼も大人になったら、あんな事あったよなって、みんなで笑って話せるだろ。
ってなんか俺、裏で手引きして無理やり自分で納得して、なんか嫌な奴みたいだな…
途中コンビニでアイスやらお菓子を買い込む。
お、新発売のポテチか。
おもしろそうだな。
「緒方さん…それ買うんですか…」
「おう!新発売だからな!」
「なぜわざわざそんな危なさそうなものを…」
ん?
緒方なに買う気だ?
「山っち!もし今グラビアアイドルが声掛けてきたらどうする?」
「……は?それはどういう答えを期待してんだ?」
「俺このレモンの輪切り入りのアイスにしよーっと!」
「……おいこら待て井上…俺にその質問をした意図はなんだ…?」
「え?糸がなに?ボタン取れてる?」
意図が糸になったな…
どこまでも噛み合わねぇ会話だな…
「この雑誌付録がお守りだって…買おうかな…」
「田沼どんだけ怖がるの…ていうかそれ縁結びのお守りじゃん…フラグっぽくない?」
「フラグってなんだよ!!」
「幽霊と縁結び的な感じの」
「待て!それ以上言うな瀬川!お守りやめる!ジュースにする!」
「田沼ー、いいの見つけたぞ」
「渡辺…なに…?」
「この雑誌、お守りが付録だぞ!」
「……今そのお守り購入について結論が出たとこだ…」
各々買い物して、既に顔色の悪い田沼を引っ張って井上の家に到着。
「夕方まで誰もいねぇから騒いでも大丈夫だぞ!」
「お邪魔しまーす!」
友達の家に来るなんて久しぶりだ。
「アイスとりあえず後にする?怖がった後にさっぱりと!がよくね?冷凍庫に入れとく?」
「おう、頼む」
井上意外と気が利くな。
「俺の部屋二階な!はい登って登って!」
井上の部屋とか絶対散らかってんだろ…
「あれ、思ってたより部屋綺麗」
「なんだと瀬川!失礼な!」
いや、誰もがゴチャゴチャの部屋を想像するだろうよ。
「まぁテキトーに座ってくれ!俺兄貴の部屋からDVD持ってくるな!」
「ああ、分かった」
さてもうひと仕事。
「田沼、怖いならみんなの真ん中がいいだろ?そこ座れ」
「え…?うん…まぁ…そうさせてもらう…」
顔色めっちゃ悪っ!笑う!
平常心平常心!
「えーっと秋月はホラー平気か?」
「あまり観た事がないのでなんとも…」
「苦手な可能性もあるって事か。じゃあオーラ的に怖いの寄せ付けなさそうな緒方の隣な」
「はぁ…」
緒方DVDどころじゃねぇだろうけど…
はいはい…
感謝の気持ちが伝わる熱烈な視線をありがとな…
ジュース奢らせよ。
「あとは適当に座れば大丈夫だろ」
「お待たせー!ちょっともう一本いいやつ見つけてきちゃった!」
いいやつ?
「じゃーん!エロDVD!」
「それこそみんなで観るもんじゃねぇだろ…」
「山っちノリ悪いなぁ!俺は巨乳派だ!渡辺は?」
唐突に渡辺に振るのかよ…
「俺は大きさより形だな」
真面目に答えやがった…
「田沼は?」
「え…?なに…?」
健全な男子高校生がエロDVDに食いつけない程の恐怖に支配されてんじゃねぇかよ!
悪い田沼!
笑い堪えるの必死だ!
「瀬川は?」
「俺は普通がいいかな」
「山っちは?」
「俺は貧乳派だ」
これは譲れねぇ。
でもロリコンじゃねぇぞ。
スレンダーが好みなだけだ。
つっても結局好きになった相手ならなんでもいいってのが本音だ。
好みのタイプに恋するとも限らねぇしな。
「緒方は?」
「えっ?!俺も貧乳派…かな…」
今チラッと秋月見たな。
貧乳に決まってんだろ。
秋月男だからな。
「秋月は?」
おっ!聞いちゃう辺りさすが井上!
確かに興味ある!
「いや…考えた事ないですね…」
「マジかよ!好みのタイプは?」
「それも特には…」
「スラッとしてるのとポッチャリとどっちがいい?」
「どちらでも特に…」
ここまで興味ねぇのは逆に心配になるレベルだな…
ってこれ以上は緒方のメンタルがまずいか。
いくら夏っていっても異常なくらい汗かいてるし。
「井上、とにかくそれは戻してこい。本来の目的を果たすぞ」
「ちぇっ…じゃあ渡辺カーテン閉めて!」
「カーテン閉めんの?!開けといてよくね?!」
田沼ビビり過ぎだろ!
「だってまだ昼間だぞ?明るいとこで観てもつまんねぇじゃん!」
井上が正論言ってる!
「はぁ?!お前の部屋視聴覚室かよ!」
田沼のツッコミがいつになく変!
追い込まれてる!
「閉めるぞー」
「渡辺やめてぇぇぇ!」
「はいテレビつけまーす!」
「井上やめてぇぇぇ!」
「田沼、これでも食ってろ」
「え…?なにこれ…」
新発売、デスソース使用の激辛ポテチ。
「これ食えば怖いのどっかいくから、信じろ」
多分辛くてそれどころじゃなくなるからな…
右から俺、秋月、緒方、田沼、井上、瀬川、渡辺の配置で、半円を描くようにテレビに向かう。
元気過ぎる緒方と井上に囲まれてりゃ、バカバカしくて幽霊も田沼に近づけねぇだろ。
下手なお守りより効果ありそうじゃね?
それにしても和製ホラーってのは、独特の気持ち悪さがあるんだよな…
「ひゅわっ!」
「緒方さん…苦しいです…」
おい…
緒方が秋月に抱きついてんのかよ…
逆だろ逆…
「なんか今冷たいのが首にぞわぞわって…」
「クーラーですね」
クーラーごときに怖がってんけど、お前が抱きしめてんの愛しの秋月だぞ…
普段のピュアぶりどこ行った…
ガチでビビっちゃってんのか…?
ビビっちゃってんだろうな…
計算とか腹黒い事考える性格じゃねえし、目の前の事に一生懸命な奴だし…
「ん?瀬川、今のどういう意味だ?」
「さっきの女の子が殺されたって事じゃない?」
理解してない渡辺に説明してる瀬川…
井上はすげぇ見入ってる…
その集中力は勉強に使うべきだと思うぞ…
「水っ…水をくれ…」
「ふぇっ…?今の声なにっ…?」
田沼が苦しんでる声だな。
緒方くそビビってるから教えねぇけど…
「秋月…」
「はい?」
「今まで水のシーンなんかなかったよな…?」
「ないですね」
「登場人物で誰かのど乾いてた…?主にお化け系の人とか…」
「……お化け系の人って意味が分からないです。お化けなんですか人なんですかどっちですか」
そこ気になるか?!緒方だぞ?!
やっぱ秋月まだまだだな!
「ん?どういう事だ?」
「こっちのセリフです」
「まぁいいや…お化けのど乾いてた…?」
「そこまで細かい身体的な状況は分からないですけど、多分乾いてないと思います」
「でも水くれって聞こえたぞ…」
「……ああ、それは」
思わず秋月の足をつつく。
「言うんじゃねぇぞ…」
振り向いた綺麗な顔に、無言でそう念を送る。
頷いた秋月。
伝わってるか…?
「そんな声俺には聞こえなかったです」
ナイス秋月!
「えっ?!聞こえたぞ?!」
「水っ…痛いっ…」
「ほらまた!」
また田沼が苦しんでるな。
『やめてっ!来ないでぇっ!』
「ふぃっっ!!!?」
いいタイミング過ぎるぞDVD!
緒方ガチでビビってる!
『キャァァァァァアっ!!』
「うわぁぁぁっ!!」
「うわぁっ!!緒方の声が怖いっ!!」
井上めっちゃビクってした!笑う!
『声が…声が聞こえる…誰かいるの…?』
「水…痛い…苦しい…」
「あああ秋月っ…!俺にも聞こえるっ…!」
田沼の苦しみも絶妙過ぎるタイミング!
やべぇ!腹痛てぇ!
「気のせいですよ。俺には聞こえません」
「水をっ…」
「聞こえるってば!お化けだ!」
「死ぬっ…」
「ほら死ぬって言ってる!」
「言ってません。そもそもお化けなら既に死んでます」
緒方完璧お化けだと思い込んでるし!
マジで腹痛てぇ!
「緒方っ…」
「……………………秋月」
「はい?」
「今その声が俺を呼んだ…」
「気のせいですって」
「緒方っ…水くれ…」
「…………あげない」
くっそ笑う!
ついにお化けと会話始めやがった!
「頼む…痛い…口の中痛い…」
「……あげたら俺の事殺す気だろ…?」
「殺さない…殺さないから…」
「お化けはみんなそう言うんだ…」
「……それ体験談ですか」
ぅおい秋月!
それじゃお化けの声聞こえてる事になるだろうが!
聞こえないフリ続けろよこの天然め!
「そんな体験あってたまるか!なんとなくだ!」
「はぁ…」
緒方気づいてねぇし!
バカ過ぎる!
「俺とお前の仲だろ…?」
「お化けとそんな仲になった覚えはない…」
緒方の奴秋月並に声の抑揚なくなってやがる!
「頼むから…さっきお前が買ってた、新発売の豆乳梅のど飴味微炭酸でいいから…」
コンビニで秋月が危なさそうって言ってたのこれか!
危なさそうってか完全に危ねぇだろ!
つーか田沼さっき自分でジュース買ってた気がするけどな!
それすら忘れてんのか?!
「……なんで知ってんだ…お前いつから俺の事狙ってた…」
「狙ってんのは豆乳だけだ…」
「お前豆乳好きなのか…いいお化けなのか…?」
豆乳好き=いいお化けって方程式なのか?!
なんだこの会話!
笑い死ぬ!
うおっ!
秋月笑い堪えてんじゃねぇかよ!
レア過ぎる!
「お前ペットボトルの蓋開けられるか…?」
緒方急にお化けに優しい!
「ムリだ…」
「じゃあ開けてここ置いとくから…成仏しろよ…」
「この恩は一生忘れねぇ…」
「いや…忘れていいから成仏してくれ…」
「げふっ…これくそ不味い…」
「恩知らずなお化けだな…」
「忘れていいんだろ…?」
「忘れるの早過ぎるだろ…お化け脳みそなさそうだから仕方ねぇか…」
バカだ!
緒方もバカだけどな!
田沼も噛み合ってない事にそろそろ気づけよ!
つーかこのポテチそんなに辛いのか?
食ってみるか…
ん?別にそんなに辛くはねぇ……ぞ………?
「……………………っ?!」
辛っ!つーか痛い!
なんだこれなんだこれ!
死ぬ!
辛っ!
水っ!
豆乳苦手だけどそれでもいい!
「緒方っ…俺にもそれ飲ませてくれ…」
「秋月っ…!また新しいお化け来た…!」
「気のせいですよ」
「秋月…助けてくれ…」
「今秋月って呼んでたぞ?!」
「聞こえません」
秋月このやろう!
死ぬ!
死ぬぅぅぅぅぅ!
ってそんな訳で、DVDの内容なんか覚えてるはずもなく…
田沼もほとんどの時間苦しんでたし、まぁ怖くはなかったからよかっただろ?なんて、勝手に正当化。
「はぁー怖かったな!」
「そうだな」
「最後はちょっとね…」
結局真剣に観てたのは、井上と渡辺と瀬川だけ。
俺達なにやってたんだろうな…
おもしろかったけどな…
その後アイス食って他愛ない話だとかを繰り返した。
緒方は散々秋月に抱きついた挙句、冷静になった途端顔真っ赤にしてフリーズしてた。
やっぱもう少しそのピュアぶりなんとかしねぇと、進展は難しいだろうな。
ぶっ倒れそうな暑さの中、みんなで駅までくっちゃべりながら歩いて、緒方と秋月はまた学校のある駅に逆戻り。
傾き始めた太陽の方向へと歩く、二人の背中を思わず見送ったりなんかして。
でもまぁ収穫はあったんだと思うんだよな。
あんだけ緒方に抱きつかれても、秋月嫌がってなかったし。
元々緒方は誰とでも距離が近めだし、秋月の首に腕回したりはしてるけど。
つーか秋月の首に腕回す時とか、実は心の中でめっちゃ緊張してんだろうな…
まぁ秋月は完璧呆れてるんだろうけど、苦手だとか嫌いだとか、潜在的にそういう意識があれば、あんな近い距離にはいられねぇもんだろ。
少なくとも秋月は、緒方にそういう悪いイメージはないって事だ。
見る限り明らかに友達が多い訳じゃねぇ秋月が、なんだかんだと緒方と一緒にいるんだ。
この先どうなるかは緒方次第…なのか…?
なんて思いながら歩いてたら、井上が
「山っち!家に一人でいるの怖いぃぃっ!」
って半泣きで電話してきたから、結局緒方、秋月以外のメンバーで、井上の家に戻って親が帰って来るまで待った。
井上が再びエロDVD持ち出してきたのを再び制止した、そんな夏休みの午後。
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