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からんと氷がグラスの中で揺れる。琥珀の液体が半分くらい入っていて、俺はそれを一気にあおった。
「ヤケ酒ならもう出さないけど」
「うっせぇな、ヤケじゃねぇよ」
「どっからどう見てもヤケ酒だけど。ヤケじゃないってんならなんでもう6杯目?」
「…黙れ、来ないあいつが悪いんだ…」
万智はため息をついて呆れた、と呟く。時間はあれから1時間。ホテルを出て速攻でここに来た。
…ここに来ればいるかもとか
家に帰るのもちょっと癪だ。折角ヤル気で外に出たからここで引っ掛けようと思ったんだ。まぁほとんどの奴が一夜の相手をとうに見つけてたけど。
ジン、と。あといっぱい飲んだら帰る、そう言って空いたグラスを万智に渡す。本当にあと一杯だからな、と念を押しつつ作ってくれる。
「今日は本当に約束してたのか」
いつもより量の少ないジントニックが出される。カウンターにうつ伏せになりながら俺は頷く。
「俺が明々後日がいいって言って、向こうが明後日って短くしてきた。これ、向こうが約束してきたも同然だろ」
「そうだな…で、待ち合わせ場所も本当にそのホテルだったのか」
「この間のホテルって…有名だったから知ってるし覚えてた」
「お前が間違えてる可能性は?」
「万に一つも」
「…そうか」
ひどいにも程があるってもんだ。てめぇが会いたいって言うから、今日空けてたのに。なんで、来なかった。ちょっと、冗談抜きで泣けてくる。本当、惨めにも程がある。
万智がほらよと何かを差し出して来る。
見れば白い皿にちょっと少なめのリゾットがあって。さっきからしていたいい香りはどうやらこれらしい。俺の好きなトマトチーズのリゾット。上体を起こして差し出されたスプーンを受け取った。
「とりあえずそれ食え。酒ばっか飲んでると身体壊すぞ。どうせ普段からまともに飯食ってねぇだろ」
「アラタが作ってくれる」
「あの人甲斐甲斐しいもんなぁ。美味いの」
「…普通」
そういや今日アラタに夜いないって言い忘れた。でもまぁどうせ想像ついてるだろう。俺はそんなことを考えながらリゾットを口に含む、万智の優しい味付けは酒以外ない腹には優しかった。
半分も食べ終わったころ。
隣に誰かが座った。かけられた声は聞き覚えのあるもので
「珍しい、君が売れ残っているなんて」
「…深幸さん、あんたこそ珍しいじゃんか」
タレ目の、黒髪をオールバックにした男がいた。たまにこの店に来ては俺を買っていく深幸(みゆき)というどこぞの社長。歳は30後半、既婚者、だけどゲイ、それくらいしか知っていることはなかった。
あぁ、あと、俺のことが嫌い。
そんくらいしか知らないカラダだけの関係のこの男。俺の手からスプーンを取って勝手にリゾットを食べる。
「深幸さん、何にしましょうか」
「ああ万智くん、君に会うのも久しぶりだね。じゃあホワイトレディをいいかな」
「わかりました。何か作ります?軽食」
「いやいいよ、これからデザートを食べる予定だからね」
そう言って俺の腰に手をまわしてくる。いつも笑っているような顔がこっちに向けられて、俺もそっちを見た。
「今日はちょっと高くさせてもらいますけど」
「いいよ、君ごときに金を惜しみたくないね。いくらでも払おう、で、いくらだ」
「10。それ以外受け付けない。それとここの代金」
「君らしくないね。営業不振かな」
「別に。気分」
「じゃあよほど機嫌が悪いと見える。捨てられた?」
…捨てられた、か。
そう、そうだね、それが一番近い表現だ。
俺は深幸さんの首手を回した。そして耳元に口を近づけ囁く。これ以上ないくらい甘えた、蕩けた声で
『だから、激しくして?』
と。
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