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忘却と……
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「わからないのよ、貴方には……! あたしがどんな思いでお腹を痛めて悠真を産んだか! 悠真は私と貴方の大事な子供なのよ!? 大丈夫なワケないじゃない! どうしてそんな事が平気で言えるのよ…――!?」
「由香……!」
「触らないで! 出て行って! 一人にして!」
母は激しい感情で言い放つと、部屋から出て行ってと叫んだ。父は何も言い返せずに、言われるがままに部屋から出て行った。中から聞こえてきた話を耳にすると、その場で立ち止まった。母の想いは俺が思っているよりもずっと深刻だった。消えた我が子の身を案じる想いは強い。そこに母親の愛情を感じる。もし悠真じゃなく、消えたのが俺だったら…――。
扉の前で佇んでいると父が中から出てきた。俺は右手にコップを持ったまま父の方をジッと見つめた。持っていたコップを押しつけた感じで手渡すと、そのまま自分の部屋に無言で戻った。その時は何故か、父と話したくない気分だった。そして、自分の自室に籠った。部屋の中は変わらずにあの時の綺麗なままだった。
疲れたようにベッドの上に倒れこんだ。悠真が居なくなってから、まともに寝てない。それに疲れも溜まっている。暗い部屋の中、仰向けになって天井を見上げた。外の雨音がシトシトと降る音だけが静寂に包まれた部屋の中で聞こえた。
――何故かとても虚しい気分だ。
胸の中にある穴が広がる気分だ。もう、ずっと前から感じている。
この胸にあいた穴がなんかのか……。
不意に襲われるこの感情が何なのか。
この世界で俺だけが感じている『孤独』を誰かに口にして出せば、この胸の中にあいた穴は塞がるのか……。
「母親か…――」
何故か忘れていた事を思い出した。そして、そのまま瞳を閉じると夢の世界へ誘われるように眠りへ落ちた。
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