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初めて名前を
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「時にお前、母さん苦手か?」
「い、いえ、いえ!
そんなこと無いです!!」
「無理すんな、
俺でも時々そう思うんだし。
でも俺にとってもあれでたった一人の
親なんだよ、許せな?」
それと、と。
「俺の前では良い子にならなくて良い。
お前らしくいろ。
俺は兄貴だから遠慮なんかすんなよ、
分かったな?零一」
初めて俺の名前を呼んでくれた
優しい声。
俺の頭に手を置かれた時、
一度おさまりかけていた涙腺が
堰を切ったように崩壊した。
「うぁ……ああぁぁぁ」
今まで溜まりに溜まったものが
一気に吹き出て
俺はティッシュ箱の中身が
無くなるまで泣き続けてしまった。
この時の兄の言葉は今も
一言一句覚えてる。
その言葉一つ一つが俺の
宝物だったから。
俺にとって家庭崩壊した極限の中、
兄だけが心の拠り所になっていた。
それでも……
俺は何故あの時、あんなにも
泣いていたんだろうと時々思う。
ついていく事を許された嬉しさか、
兄の声があまりに優しかったからか、
或いは、
――父を置いて行こうとしてる
良心の呵責だったのか。
今、考えてもまだ答えが
出ないままでいる。
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