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その指で
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「ただいま」
早めの夕食が出来上がったのは
六時半過ぎの頃、その声と供に
玄関の扉が開いた。
「おー久しぶりに夕食に間に合った~
美味そうなニオイだな。今日は何?」
「お、お帰りなさい」
予期せぬ事態に声が一瞬詰まる。
最近じゃ滅多に早く帰ってこないのに
何故会いたくない時に限って逆の展開に
なるのは何かの法則だと、むかし
本で読んだ記憶があるけど、
よりによって今日それが起こらなくても
良いだろうにと心の中で愚痴った所で
どうしようもない。
「八宝菜と回鍋肉です」
「おお~中華!良いね」
上着を脱ぐのもそこそこに
座ろうとする兄さんを軽く睨む。
「兄さん、手」
「ヘイ~」
兄さんはいつものように美味いと
連呼し口一杯に頬張りながら食べている。
「……良かったです」
「てかさ、いつもこんなに夕食
早かったっけ?」
「大抵こんな時間です。
最近遅いから忘れたんじゃないですか?」
嘘だ。
本当は兄さんが帰って来る前に
寝るつもりだったから早めに用意していた。
というか顔を合わせたくなかった。
だからって嫌味っぽい言い方に
なってないか?俺。
「悪い悪い」
「別に謝る必要なんかありませんよ、
兄さんは俺と違って忙しいんですから」
「俺だって一緒に食べたいんだぜ、
まぁ今日は間に合ったんだし許せな」
「……ご飯、おかわりをよそいましょうか?」
「ん、頼む」
――今、
よく茶碗を落とさなかったものだと思う。
感電したかのように指が痛い。
ついでに心臓も。
だって受け取った時、微かに指先が触れた。
昨夜、女の人に触れていた……その指に。
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