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呼び鈴
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後日。
案の定、矢代の席に本人の姿はなかった。いつも通りの朝の光景であるが、先日の準備室の件が影響しているのだろうと推測する。それならば、奴は今日無断欠席をするつもりだ。本来の矢代の特徴でもあるし、ましてやあんなことがあった後にわざわざ真面目に登校するような人間ではない。
俺は矢代の思惑を利用しようと思った。
授業終了後の10分休みに、俺は人気のない廊下を進みながらスマホを開いた。 ロック画面の時計は午前10時45分を示している。丁度いい。
薄暗く、ひやりとした階段の踊り場で、俺は矢代へ電話をかけた。 これで出なかったら今考えていることの倍恥ずかしくなることをさせてやろう、と相手の応答を待ちながら企む。
コール音が、一回、二回と着実に累積されていく。
コールが途切れた。
「………なに?」
しばらくの沈黙の後、寝起きの掠れた気怠げな声で応答された。シーツの擦れる音が聞こえたことから、矢代はベッドの上なのだろう。
ろくに授業も受けないくせに、呑気に寝てんじゃねえよ、と内心悪態づきながら返答する。いや、内心ではなかったかもしれない。声の音程に心の内が漏れ出てしまった。
「なんで学校来てないの」
「……別に、関係ないだろ」
矢代の声はつんけんしたものだったが、それでもどこか緊張しているような気がした。 反抗する態度が気に入らなかったので、相手の行動を強制させようと思う。
「……昼休み中に登校しろ。 でも、教室には行かないで、最初に北棟のトイレに来い」
「はぁ? なんで…」
「………お前、前にローター持ってるって言ってたよな? 遠隔操作の。あれ持参して」
「………はあ!?」
俺の考えていることを察したようで、矢代が一気に赤面し、慌てふためく様子が容易に浮かんだ。
以前、不良たちの会話で、矢代が遊び半分でローターを購入したという話を小耳に挟んでいた。きっと、学校で使ったことはないだろう。見飽きたネタではあるが、実際に行えばスリルもあるし、こちらの気分や操作で相手が翻弄されるのを見るのは悪くない。
俺への抗議が電話越しに耳に入るが、それをシカトして矢代に訊ねた。
「……何されると思ってる?」
俺の声に、矢代が反射的に間抜けな声を漏らした。
「な、何って……」
「必ずしも俺とお前の頭ん中が一致してるとは思えないから、確認。」
わざと矢代に問う。躊躇ったような吐息が聞こえてしばらくした後、非常に言いづらそうに、押し出すように矢代は答えた。
「……ローター、着けて、授業出ろって言うんだろ…!」
「…正解。もし持って来なかったり、時間内に登校しなかったら、それ以上のことさせるから。 いい?」
羞恥のためか、無言だ。
「返事」
「っ、わかったよ!」
荒々しく一方的に切られた。
矢代の、いまいち俺との関係性を理解していない振る舞いに舌打ちする。あくまで主導権を握っているのはこちらであるのに、まだ口答えをするし、素直に「はい」と言わない。
知能が猿以下の奴に立場を教え込むのには、いい機会だ。限界までいたぶって、俺と矢代の立場の差をハッキリさせてやる。
スマホに表示されている時刻で、そろそろ予鈴が鳴ることを知る。 俺は陽の当たらない廊下を後にして、教室へ戻った。
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