アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
*無言
-
「っ!!」
突っ伏している矢代の体が一瞬、びくんと跳ねた。
周囲の生徒たちはジャーキングと見なしているだろうが、今のは紛れもなくローターによる反応だろう。矢代の腕に添えている手に、ぎゅっと力が入ったのを見逃さなかった。
弱から強へ、じりじりと振動を強めていく。
時々弱めて、また強にしてはスイッチを切る。断続的に刺激を送る度に、矢代の緊張と感度の良さが、相手の指先に表れていた。快感と緊張からか、カーディガンの裾を引っ掻く指が小さく震えている。
「矢代ー、いい夢でも見てんのかー?」
「あれじゃね、4組のあいつとヤってる夢」
「ぎゃはは、あり得るー」
無視する矢代に構わず絡む不良たちに、心の中で語りかけた。
ーーそいつは起きてるし、ヤッてる夢など見ていないし、むしろヤられてる側だし、リアルタイムであそこにローターついてんだぞ、と。
矢代の実情を知っているのは、この40人近くいる教室の中でただ一人、俺だけだ。
ポケットに隠し入れた左手の親指が、弱と中を行き来する。それを数十分続けた。刺激に慣れたのか、先ほどより少し矢代の指から力が抜けた気がした。そのまま微弱な振動を保ち、右手で問題を解く。我ながら、器用なことをしているな、と自嘲気味に感心した。
一段落ついたので、シャーペンを手から放す代わりに左手に握るリモコンに意識を向けた。ポケットを探る中で気づいたが、振動のパターンを変えられるらしい。試しに不規則にボタンを押してみた。
カタリ、と誰かが机の脚を蹴ったような音が聞こえた。前方から聞こえたもので、きっと主は矢代だ。指先だけでは刺激を逃がし切れず、無意識に足を動かしてしまったらしい。
ローターを使用し始めてから、時間はかなり経過している。あと15分ほどで5時間目の授業は終わる。
授業が始まった頃と比べ、矢代の体が縮こまっているように見えた。そろそろ限界なのかもしれない。
どうする?
イかせてしまおうか、お預けにするか。
ーーー迷う。
ローターの振動をランダムに調節しながら考える。
ただイかせるだけじゃ面白くない。かといって、平和に終わらせてしまってもつまらない。
まだ6時間目の分も残っているのだし、今はこのぐらいにしておくべきか。……ああ、でも連続でイかせて、イった回数分ペナルティを増やすのも楽しそうだ。
それにまず、ローターの振動だけでイくのってどんな感じなんだろう。この状況では、自分で擦ってイくことが不可能であるから、きっと辛い思いをしているはず。
考察しながら矢代を眺めていると、黒板に公式を書き終えた先生が見回りを始めた。相変わらず伏せたままの矢代を、先生がやんわり窘める。
「おーいー、矢代。進路に響いても知らんぞ。早めに起きなさい」
先生がこつり、と矢代の頭を手の甲で軽く小突いた。その瞬間。
矢代の体が、ひときわ大きく跳ねた。
跳ねただけで終わりではない。カーディガンを握りしめていた手指が、先ほどの震えと違ってより苦しそうに、気持ちよさそうに、びくびくと痙攣していた。
……まさか。
「(今のでイったの……?)」
あまりに驚愕的な事実に、しばらく思考が停止する。あの裏庭の倉庫でのやり取りで判明してはいたが、ここまで外部からの刺激に弱いとは思わなかった。
きっとローターによって昇りつめていたものが、矢代の過敏な体に先生が触れたことで決壊したのだろう。
Mっ気のある矢代にとって、興奮材料となるものは色々あったのだろうが、とうとうあいつはイってしまったのだ。
情けねえ。
その上約束を破った。
仕置きは決定だ。
顎を手に乗せ頬杖をつき、下唇を指でするするとゆっくり撫でる。そのまま頬杖をつきながら、矢代の様子を窺った。
何を罰とするか。
それ以前に、この後矢代をどうするか、頭の中で練る。
ここからまた出るものがなくなるまでローターを動かすか。また唐突に強にして、焦らしながら今日の授業を終えるか。
下着を汚したであろう矢代はどうするつもりなのだろう。
動かない矢代の背中を観察する。
しびれを切らした先生によって、呼びかけにギリギリまで抵抗していた矢代だったが、とうとう叩き起こされる。矢代は強制的に顔を上げた。
上半身は伏せたまま、おもむろに前を向いた矢代の顔を見て、先生が目を丸くしていた。先生は心配そうに、矢代の肩に手を置く。
「矢代? 具合悪いのか? 顔真っ赤だぞ」
熱を出したと勘違いした先生が保健委員を呼んだ。
保健委員は俺だった。もう一人の保健委員を目で探したが、運が良いのか悪いのか、その人は身内の事情で欠席だった。
内心渋りながら立ち上がり、スイッチを切らないまま矢代の席へと近づく。俺が接近していることを感じ取り、矢代は再び、顔を腕に埋めていた。矢代の左横に立ち、上から声をかけて促す。
「矢代、立って」
ぎゅうっ、と体を縮こめて、立ち上がることを無言で拒否された。拒否、というよりためらっているのだろう。動こうとしない矢代の耳元に、顔を寄せた。
「じゃないとスイッチ切らねえぞ」
俺の台詞に恐怖を覚えたのか、はたまた、耳にかかった俺の声や息に反応したのかは知らない。瞬間、ぴくりと震えてから、力無く立ち上がった。椅子が耳障りの悪い音を、ためらいがちに立てる。
イッたばかりで辛いのか、矢代の足は震えていた。これでは保健室へも自力で行けまい。心の中で溜め息をつき、矢代へ手を伸ばした。
「…っ!」
矢代の肩を抱き寄せ、重い男の体を支える。
「保健室、連れて行ってきます」
ふいに合ってしまった視線を矢代から逸らし、後方のドアへ向かう。矢代は心底驚いたようで、潤んだ目をぱっちりと見開いて俺を見つめていた。
ふらつく矢代の肩を強く掴む。
重いようで、案外細身だ。そして華奢なようで、年相応の体格であり、触れていて癒されるような柔らかさもない。
ただ、しっかり骨や筋肉を感じるのに、抱き寄せた矢代の体は、どこか頼りなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 20