アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
===第1章===
-
ジリリリリリリ…
「…ん、」
けたたましい音が、俺の安眠を妨げる。
「うるさいよーっ?」という声が共同のスペースであるリビングから聞こえて、俺の意識は徐々にハッキリしてきた。
-これが、今の日常。
やっと手に入れた、俺の、"普通"。
ガチャン、と音を立てて目覚ましを止めると、足掻くようにジリッと呻いた。
「ゆーきー?起きてんのー?」
「今起きたー!」
同室者の問い掛けにそう答えると、俺は少し高さのあるベッドから降りる。
机の上にあるメガネをかけて、部屋のドアを開けた。
「おはよ、雪。」
「蘭、おはよう。」
去年から同室者である彼は既に制服に着替えていて、コーヒーが入っているであろうカップを傾けながらこちらを見た。
「ほら、顔洗っといで、雪。」
そう言って笑う彼の目にはきっと、メガネの奥、まだ乾きらない俺の涙の跡が見えているのだろうけど…、
いつだって、何も聞かない。
俺は、毎日のようにそれに救われている。
これは日常茶飯事。
朝起きると俺の顔は、いつも涙でぐちゃぐちゃだ。
その理由は"わからない"。
一年前、俺はそう「決めた」んだ。
"忘れた"、全部。
一年前のあの日、全部、全部、棄てた。
あの存在を消すことは、それが全てだった俺の存在までも危うくしたけど、
それでも俺は、前に進まなきゃいけなかった。
前に進んでいたかった。
…俺は弱くない、弱くない、 …。
口癖のように呟いて、俺は過去と決別したのだった。
俺のことを知る人がいない世界に飛び込んで、
俺のことを知る人のいる世界にさよならを告げて。
たくさんの物を置いて来た気がするけれど、空っぽになった俺は、他の物があったって何の意味もない。
唯一、大切なものだった。
たった一つの、守りたいものだった。
もしあのとき、神様とやらが俺の願いをきいてくれたとしたら、
ただ一つ、
"あれ"との未来を迷わず願う。
それ以外のものは、何もいらなかったから。
…今の俺だったら何を願うかって?
そうだなあ…、
あの綺麗な過去を、
なかったことにしてくださいって、
迷わず祈ると思う。
いつまで経っても、
俺を解放してくれないあの、美しすぎる過去を。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 223