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9 (彰)
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RRRRRR・・・
遠くで聞こえた電子音に、思考の沼から引きずり出された。
…あれは、生徒会室の電話だろう。
防音に近いこの仮眠室も、扉が少し開いたままなので小さな音が漏れ聞こえた。
雪の傍を離れたくなかったが、仕方なく仮眠室から出て受話器を取った。
「…はい、」
『…彰か?』
「あぁ。」
電話の相手はこの学園の理事長である兄貴で、
そういえば連絡を入れろと言われていたことを思い出した。
「あれだろ、次の行事の企画書。」
『それはもう咲月君から受け取った。
副会長に任せきりじゃ駄目だろう。』
「…。」
『……あれからどうなんだ、』
「…何が?」
『雪に決まっているだろ、』
「…変わらない。俺たちは"ハジメマシテ"のままだよ。」
『…、』
「兄貴は?雪から何も聞いていない?」
この学園に雪を入れたのは兄貴だろ?
だったら俺なんかより、雪の気持ちを知りやすいのは兄貴なんじゃないか。
『…今年の入学式から、雪とは連絡を取っていないんだ。』
「……つまり1カ月以上?」
『あぁ。』
「どうして、」
『……俺は雪を裏切ったんだ、当たり前だろ。』
どんな顔して雪と会えばいいのかわからない、と兄貴。
「……悪い、」
『…別にお前を責めようっていうんじゃないんだ、
ただ雪が心配なだけで。』
「…今日、倒れたよ。」
『……誰が、』
「雪。」
ガタンッと電話の向こうで何かが倒れた音が聞こえる。
それと一緒に『大丈夫なのか!?』と焦る兄貴の声も。
「…今は寝てるよ、後で保険医を呼ぶつもり。」
『どうしてまた…』
「貧血、かな…」
顔色がものすごく悪い。元々細いやつだけど、少し頬がこけた気もする。
目の下の隈も、肌が白いこともあって最近目立ってきた。
「眠れてないのかもしれない。
食べられてないのかもしれない。
詳しいことは、"会長の園田彰さん"にはわからないよ。」
だから同室者にでも聞いて、
そう言ったら胸の奥が締め付けられて息さえ苦しくなった気がした。
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