アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
10 (彰)
-
「なぁ兄貴…、」
俺は、間違っているのかな。」
『…、』
「自信がないんだ、
雪をここまで追い詰めて、
俺の隣にあいつを置こうとするのは間違えなのかもしれないって、」
『…お前らしくないな、』
「あぁ、俺らしくない。
でも、その"俺"は、雪がいたからこその"俺"だったんだ。」
雪が全て。
今も昔も、少しだってそれは変わらない。
だけど。
「雪は、俺なんて必要ないのかもしれない。」
『彰…』
「縋りついているのは俺だけ。
雪は、前を向こうとしてる。」
雪の中では、俺たちの物語は既に完結しているのかもしれない。
それどころか、
過去形で紡がれたその物語は遥か忘却の彼方。
その表紙を無理矢理もう一度開けさせて、どうする?
雪を苦しめるだけなんじゃないのか…?
『…お前、あの時なんて言った?』
「あの時…?」
『"俺はもう、雪を哀しませはしない"、
そう言わなかったか?』
「あぁ、あの時の話か…」
『狂ったように泣いてそう言ったお前に、
雪の居場所を教えたことを俺は後悔したくない。』
「、」
『…まぁ、これは俺のエゴだが…。
とにかく俺は、お前らに幸せになってもらいたいんだよ』
兄貴の声は、なんだか弱々しくて。
兄貴と雪の仲をぎくしゃくさせたのもこの俺、か。
「俺は、諦めないよ。」
自分に言い聞かせるように言ってみたが、
思った以上に小さくて、力の無い声になってしまった。
『一人で抱え込むなよ、じゃあな。』
電話が切れて、ツーツー、という音が耳を通り抜けていく。
できれば諦めたくない。
諦めたいはずがない。
でも。
『泣かせない』、確かに俺は、そう言ったけれど、
俺が近付くことで雪が涙を流すのだったら、一体どうすればいい?
仮眠室に戻ってみると、雪は泣いていた。
目は閉じたままだったけれど、涙が次から次へと流れている。
眉を寄せて、まるで何かに堪えるみたいに。
「" "っ、」
「…!」
その口から漏れでた小さな声に、俺はハッとして雪の口元をみる。
手を握るとぴくりと震えた。
だけど少しだけ、きゅ、と握り返してくれた。
それだけでうれしくなる。
でもどんなに待ってみても、もう一度雪が声を発することはなかった。
…聞き間違い、だったのだろうか。
「雪…」
兄貴に言った言葉は嘘にはしない。
また涙が、ポタポタと落ちていく。
あぁ、どうか、
愛させて。
未だ乾ききらない雪の目元に唇を寄せたあと、
俺は生徒会室を出たのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
56 / 223