アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
俺の話
-
俺は昔から指に特徴があった
と言っても見た目では普通と変わらないし、誰も気付かない
その事に気づいたのは15歳の時だった
知り合いに貸してもらったギターを弾いた時から俺はギターに夢中になった
「しかし、楓の指はどうしてそんな風に動かせるんだ?」
「わからない」
「普通じゃないよな・・・・・と言う事は天才か?」
「・・・・・・・・・・・・・まさか」
そんな言葉におだてられて悪い気はしなかった
褒められれば嬉しい、だからもっと上達したいと思って弾き続ける毎日
そして1年後、俺達はバンドのデビューを果たした
ありえない幸運の持ち主だと世間は騒ぎ立てた
偶然来ていた有名なプロデューサーの目に留まり、田舎のライヴハウスから大きな舞台へのチケットを掴んだんだ
神の手とか言われたら悪い気はしないし、好きな事をやってお金がもらえるんだからラッキーだった
そう・・・・・思っていた
「いっ!」
「どうしたの?」
「いや~、楓の指を見てたら俺にも出来そうな気がしてさ、真似してたら少し指がね」
「そう」
「でも、やっぱすごいわ・・・・・そんな風に弾けないな」
何気ない会話だった
特に気にする事もなく、真似をされても止めたりしなかった
そしてその日は突然訪れた
「いてぇ!」
「大丈夫?」
「やっば!めちゃ痛い・・・・指が・・・動かない」
「えっ?」
忘れもしない
あの日は大きな会場でのライヴ前だった
リハ中に突然ギターが弾けなくなった仲間
少し休めば元に戻るとみんなは思っていた
そして時間通りにライヴが始まり、そいつはやはり俺の真似をしてギターを弾いていた
「・・・っ!」
そしてラストの曲が終わる頃には、指がほとんど動かない状態になっていた
俺は打ち上げをキャンセルしてそのままそいつを病院へ連れて行った
あの日は雨が降っていて思うように車が進まなかった
病院へ着いたのは深夜
ドクターは単なる関節痛だと言ってシップを貼っただけ
次の日も指が動かないと言って病院へ行くと連絡が入ったのが最後だった
そいつの指の神経は完全に壊れていた
理由は、わからない
何も言わずに消えてしまったから
そしてその後もいろんなギタリストが入り、みんな指を壊して辞めて行った
でも、人気は変わらず俺達は忙しい毎日を送っていた
そんなある日、俺は指に怪我をして初めて行く病院で診察を受けた
そして初めて知ったんだ
俺の指の構造とやらをね
どうやら普通の人間とはかなり違う特殊な運動や動き方が出来るらしい
要するに、俺には弾きやすい動きでも他の人間が同じように真似をして弾き続けると指を自ら壊す動きだと言う話を聞いて愕然としたのを覚えている
だから、みんな消えたんだ
ギターだけが何度も入れ替わっていたのも俺のせいだった
でも、どうしようもない
そして新しいギタリストが加入した
まだ若い奴だったけど、技術がすごかった
「俺、楓さんのギターが大好きで・・・・すごく嬉しいです」
「そう」
「いつかは同じように・・・・」
「止めてくれないかな」
「えっ?」
「俺の真似をしないでって言う事」
「ごめんなさい」
「迷惑なんだよ」
泣きそうな顔を見つめ、わざと冷たくした
もう有望な奴を潰したくなかったから
でも、そいつは冷たくしても何故か俺になついてしまった
俺も最後には弟のように思えてしまい、結局いつも一緒にいた
真似をするなと言った日からそいつは俺の真似を止めた・・・・・・と思っていた
「ねぇ、楓」
「ん?」
「どうして真似してはいけないのかな?」
「どうしても」
「でも、実は俺・・・・褒めてもらいたくてこっそり練習・・・・」
「したの?」
「えっ?」
「俺の真似を」
「ごめん・・・でも、一度聴いたら忘れられなくなるんだ・・・そしてどうしようもなく真似したくなる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんね?でも、毎日練習したらすごく上達したんだよ!聴いて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そいつはギターを持ったまま立ち尽くしていた
ピックも持てなくなっていた
「動かない・・・・・どうして」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなはず・・・・・いっ!」
「病院へ行こう」
「うん」
思った通り、診察結果は最悪だった
「二度とその指は動かないでしょう」
「嘘だ・・・だって昨日まではちゃんと」
「予測できない事もあるでしょ?風邪でもそう・・・最初は少しだるいかな程度、しかし放置すれば肺炎を起こし命を落とす事もあるんですよ・・・・指も同じです、気付かないまま自分で壊してしまった・・・・・諦めて下さい」
「そんな・・・・・嘘だ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「嘘だよね?そんな・・・・俺はずっと楓といたい・・・・嫌だよ」
「俺は一緒にいるよ」
「無理だ!バンドを抜けたら俺なんかっ・・・・もう」
「そんな事は無い、落ち着いて」
「楓は手の届かない人になるんだ・・・・そして俺は仕事も失い公園で眠りゴミ箱を漁る」
「そんな事はさせない、ずっと傍にいればいい」
「無理っ!!そんな図太い神経は持ち合わせていないんだ・・・・どうしてギターも弾けない奴がまだいるんだ?ってみんなから言われるだけなんだ」
「とにかく、家に戻ろう」
「・・・・・・・・・・・・・」
そのままそいつの家に行き、黙り込む顔を見つめていた
その日も雨が降っていたっけ
「今夜は泊まるから、明日ゆっくり話をしよう」
「楓・・・・・」
「うん」
「・・・・・・・・・・・ううん、おやすみ」
「おやすみ」
俺はまたギタリストを潰した
でも、ギターは弾きたい
どうすればいい・・・・・・
しばらく休みを取って、こいつと一緒に過そうか
このまま見捨てる事なんて出来ない・・・・
そうしよう
明日の朝、話をして二人で旅行にでも行こう
でも・・・・・次の日、起きてこないあいつが心配になって寝室のドアを開けて呆然とした
「どうして・・・・・どうしてだ!!」
俺は指だけではなく、そいつの生きる希望まで奪ってしまった
目の前で揺れる体を見つめ、初めて泣いた
それから俺は、バンドを抜けてソロで活動していた
メンバーがいなければ心は痛まない
知らない奴が真似をして指を壊しても俺にはわからない事だから
「ごめんね、つまらない話をして」
「それって・・・・・・翔も同じと言う事?」
「そうだね」
「だからあんなに怖い顔で」
「燕羽が大切なんだよ、潰れて欲しくないから怒ったんだ」
「俺・・・・・・」
「でもね・・・・厄介なのはこれから」
「えっ?」
「誰でも上を目差したいでしょ?だから止められない」
「・・・・・・・・・・・・・・でも俺は・・・・翔に嫌われる方が辛いから」
「なら大丈夫、まだ間に合う」
「楓さん」
「ん?」
「ごめんなさい・・・・辛い話を俺の為に」
「もう忘れた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って微笑んだ横顔が、とても悲しそうに見えた
きっと、楓さんは彼の事が・・・・・・・好きだったんだろう
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
90 / 307