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片翼
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「・・・・・・・・・・・・・・・何それ」
翔と別れて歩きながら、ずっと同じ事を呟いていた
皆無は翔の復讐の為に足を?
じゃ、翔の足を潰した奴は本当にあいつ?
確か、初めて会った時もそんな事を言っていたような
(お前らも潰されないようにな)
そんな事を言っていた
意味がわからない
あそこで知り合わなければ何も知らないまま、今でも皆無が隣に居たはずなのに
「皆無、飲み物を買って来たけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ痛む?」
「僕は頑張ったのに・・・・・辛くても頑張って・・・・・・でも、もっと頑張らなければいけなかったのかな」
「皆無」
「だから監督が怒ったのかな」
「違う、もう頑張らなくてもいいんだ・・・・・陸上なんかやめればいいんだ」
「有無も疲れてしまったの?有無はハイジャンがとても好きだったじゃない」
「えっ?」
「じゃ、僕が頑張らなければいけないね・・・・・そうすれば有無はもっと高く跳べるはず」
「皆無?」
「お兄ちゃんだし、もっと頑張らないと・・・・・・・」
「もういいんだ・・・・頑張らなくてもいいんだ」
「でも、有無はとても楽しそうに跳んでいたじゃない・・・・・どうしてやめてしまうの?待ってて・・・・すぐに治してまた一緒に跳ぼうよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「でもね・・・・・・・おかしいんだ」
「何が?」
「僕の足・・・・何も感じない・・・・・おかしいよね・・・・・血は出るのに痛くないんだ」
「えっ?」
慌てて布団をめくると、皆無の足は真っ赤に染まっていた
「何してるの!」
「ダメだね・・・・僕、お兄ちゃんなのに・・・・・・」
もう泣きたい
どうしてこんな事にっ・・・・!
「皆無・・・・・しっかりして!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・もっと頑張って・・・・・頑張って・・・・」
すぐに皆無はオペ室に運ばれた
床にもたくさんの血
どうして目を離してしまったんだろう
どうして・・・・・・
そして皆無の足は完全に動かなくなった
神経が切断されて手の施しようが無かったらしい
「馬鹿だな・・・・・一緒に跳ぶんじゃなかったの?ねぇ・・・・皆無」
そして皆無はどんどん精神的にもおかしくなってしまった
「有無、ママは?」
「えっ?」
「おかしいな・・・・・・ママがいないんだ」
「ママはもう死んだだろ?」
「嘘言わないで、さっきいたのにおかしいな・・・・・」
「皆無・・・・・・・」
「ママ、ママ!!」
「落ち着いて聞いて・・・・・ママは死んだんだ、事故で・・・・・だからもういない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
「うん」
毎日繰り返される会話
もう溜息すら出ない
翔・・・・・・・あいつ・・・・・どっちが悪い?皆無をこんな風にしたのは誰?
「有無」
「うん、どうしたの?」
「僕はどうしようもないお兄ちゃんでごめんね」
「えっ?」
「すごく弱くてごめんね」
「そんな事無い!そんな事言わないでよ」
「有無は疲れてしまったんだね・・・・・ごめんね」
「皆無のせいじゃない!」
「・・・・・・・・・・・・・・そっか」
「そうだよ」
カーテンが揺れて風が吹き込んだ
今日はいい天気だったんだ
「有無、悪いけど売店で雑誌を買って来てくれないかな」
「雑誌?」
「うん、未来の陸上って言うやつなんだけど」
「わかった、すぐ買ってくるから」
「うん・・・・・・・・有無」
「ん?」
「・・・・・・・・・・・・ううん、何でもない」
「じゃ、買ってくるね」
「うん、ごめんね・・・・・」
「いいよ」
皆無が久しぶりに笑っていた
揺れるカーテンと青い空
このままよくなったら、一緒にどこか出かけよう
でも、いくら探してもそんな雑誌なんかなくて
売店の人に尋ねたら、雑誌自体存在しないと言われて戻ろうとしたら悲鳴が聞こえて
そして・・・・・・
すごく歪んだ人のうねりが見えて
悲鳴とかなんか色々なものがモノクロに見えて、僕もそのうねりの中にいつも間にか入っていて
「皆無っーーーーーー!!」
その中心には皆無がいたんだ
あのごめんねってそういう意味なんだと漸く気付いた僕は泣きながら皆無を抱きしめた
「皆無・・・・皆無?目を開けて!!」
僕はまた油断してしまった
歩けなくても這う事は出来る
カーテンが揺れていたから窓は開いていたんだ
どうして・・・・・僕は
でも、奇跡的に皆無は一命を取り留めた
だけどここから見える草木と同じ
生きているけど二度と目を覚ますことは無い
話をする事も無い
それでも・・・・・いい
皆無がいるだけでいい
殺すなんて出来ない
安楽死なんて・・・・絶対いやだ
「皆無、そろそろ窓を閉めるね」
少し開いた窓を閉めようとしたら、急に風が吹いてカーテンが揺れた
「手紙?」
どこに落ちていたんだろう
今の風で飛ばされてベッドの下に落ちていた
「皆無の文字だ」
いつの間に書いたんだろう
少し小さくて丸い文字が白い紙に並んでいた
ー有無へー
僕は有無が嬉しそうにバーを跳ぶ姿が大好きだった
僕はもう跳べない
だから有無も陸上をやめると言ってくれた
嬉しかったけど、悲しかった
僕がいる限り有無が自由になれないといつもいつも考えていたんだ
だから僕は有無が鳥になれるにはどうしたらいいかを考えた
僕が空を飛べばいいと気付いたんだ
僕は全然悲しくは無いんだよ?嬉しいんだ
有無を一人にしてしまうけど・・・・・許してね
僕はずっと空から有無を見ているから
好きな事を僕の為にやめたりしないでね
本当にダメなお兄ちゃんでごめんね
大好きだったよ
ー皆無ー
「・・・・・・・・・・・・・皆無っ!」
紙を握りしめながら泣いた
全部気付かれていたんだ
「僕にハイジャンを続けろと言うの?・・・・・どうして・・・・・・無理だよ、皆無っ」
しばらく俯いたまま電子音を聞いていた
「メダルを・・・・・見せてあげるから・・・・・・待っていてね」
でも今はまだ悲しくて何も出来ない
だけど、皆無の気持ちはわかったから
もう少しだけここにいさせてね
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