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溜息をつきながら、一人で船に乗り窓際のテーブルに向かった
本当は2ヶ月前から予約していた特別席
「お一人様ですか?」
「うん」
「では、ジャンパンを」
「そうだね」
沈みかけた夕陽を見つめながら、やはりこんな運命なのかな・・・なんて考えていた
「お待たせいたしました」
「うん」
綺麗なグラスに注がれたシャンパンの泡を見つめながら、小さな声で呟いた
「Happy Birthday to me」
今年もまた一人ぼっちの誕生日か
俺にはお似合いだね
「楓」
「えっ・・・和海?」
「先ほど翔から3人で映画に行くと連絡が」
「そう、でもどうしてここが?」
「勘です」
「勘ね・・・・・」
「邪魔なら消えましょうか?」
「相変わらずだね」
そういいながらシャンパンを注いだ
「お誕生日おめでとうございます、楓」
覚えていてくれたんだ
嬉しいな
「ありがとう」
「私は、貴方が従兄弟で嬉しいですよ」
「どうしようもない従兄弟だと思うけどね」
「本当です、小さい頃から貴方はいつも一人でしたね」
「忘れた」
「何故生きているのかと言う質問にはお答えできませんが、死に急いでしまったらその答えも解らないままですよ」
「かもね」
「燕羽の気持ちを振り向かせる事はしないのですか?」
「しない」
「貴方らしいですね」
「好きな人がいるのにそんな事は出来ない」
「優しい殺し屋ですね」
「うるさいよ?」
「そうそう、プレゼントを」
「プレゼント?」
「ええ、どうぞ」
「・・・・・・・・・・・ありがとう」
プレゼントをもらうのは初めてで嬉しかった
「開けてもいい?」
「はい」
黒い箱に金色のリボン
そっとリボンを外し、箱を開けた
「綺麗・・・・・・ダリアのピアス」
「お似合いだと」
「すごく気に入ったよ、ありがとう」
「つけてみますか?」
「うん、じゃここに」
「はい」
ピアスを外して髪をかきあげた
「また増えましたね・・・・・心の傷が増えている証拠です」
「気のせい」
「そう言う事にしておきましょう」
和海の手はとても冷たかった
長い髪が俺の肩に触れるほどの距離
「出来ましたよ」
「うん」
「とても似合います」
「ありがとう」
夕陽は沈み、大きな月が輝いていた
持っていたグラスを動かし、シャンパンの中に月を映した
「昔、月が欲しいと言って困らせた事がありましたね」
「だね・・・・そんな俺を庭に連れて行って、綺麗な入れ物に水を入れて月を俺にプレゼントしてくれた」
「何度も掴もうとしていた楓は可愛かったですよ」
「・・・・・・・・・・・・昔の話でしょ」
確かにそんな事もあった
すっかり忘れていた事だったのにね
でも、そんな無垢なままではいられない
今の俺には昔の思い出なんかいらない
そんな俺の手をそっと握り締めて和海が言った
「思い出を忘れようとはしないで下さいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「浮気だよ?」
「違いますよ」
「冗談なのに真顔にならないでよ」
「後で少しデッキに出てみませんか?」
「うん」
ディナーを済ませ、二人でデッキに出て潮風に吹かれた
和海の髪は月の光で綺麗に輝いていた
「気持ちいいね」
「余り乗り出すのは危険です」
「平気・・・っと!」
海にそのまま落ちてもいいなんて考えていた俺を支えてくれたのは和海だった
「死にたいのですか?」
「手が滑ったらしい」
和海がいなかったらそのまま海の中に落ちていたのにね
「座りましょう」
「うん」
目立たない場所を選び、二人で腰掛けた
「昔の和海なら、翔を誰かと遊びに行かせる事なんて絶対にしなかったのにね」
「そうですね」
「心配じゃないの?」
「正直な話・・・・・・私が今心配しているのは貴方の事です」
「えっ?」
「暗い闇の中にずっと居座るつもりですか?」
「どうかな」
「仕事は楽しいですか?」
「どっちの?」
「裏」
「わからない・・・・・でも、理不尽な殺しはしない」
「そうでしたね」
「だけど、殺す事には変わりは無い・・・・俺の手は血で染まって真っ赤だしね」
「そうですか?私にはそうは見えませんが」
そう言ってまた俺の手を握り締めた
「何がしたいの?一夜限りの遊びでも無理だよ・・・・相手が和海なら尚更ね」
「それは翔の為ですか?」
「そうだね」
「でも、翔の気持ちも傾き始めています・・・・・・わかるんですよ、何となくですけどね」
「燕羽に?」
「ええ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「貴方は失恋決定ですね」
「ホント、嫌な奴」
「私も楓に言われて気付きました・・・・・・翔の事は愛していますが、どうやらこの愛しているは違うようです」
「今更何を言ってるの?」
「確かに出会った時は愛していました・・・・しかし翔の事を愛しているのなら本当に翔が求めている人のところに行かせてあげるべきではないかと」
「和海の口からそんな発言が出るなんてね」
「そして、愛を知らない誰かさんに愛する事を教えるべきだとも」
「誰の事?」
「楓・・・・貴方です」
「冗談でしょ?」
「今すぐとは言いません・・・・・楓が私を受け入れてくれるのなら、翔は燕羽に任せます、ですから燕羽との賭けは無効ですね」
「ずるいね」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
ある意味、交換条件じゃないの?
納得いかないな
「楓の事を一番理解しているのは私ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう囁いた和海の上には大きな月
そして風になびく綺麗な髪が頬を撫でた
「翔と燕羽が上手くいったら考えてもいい」
「わかりました」
危うく、流されそうになった
でも、失恋の痛みの方が大きかったから視線を逸らし空を見つめた
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