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検査結果が出たのは、太陽が沈みかけた頃だった
と言う事は、今は夕方なのかな
「楓、行きましょう」
「うん」
案内された部屋に向かい、ドアを開けるとそこには椅子とテーブルとホワイトボードがあった
診察室ではなさそうだ
そしてドクターがやって来た
「お待たせしました」
「いえ」
「結果が出ましたが・・・・・・」
「全て伝えて下さい」
「えっ・・・よろしいのですか?」
「楓、それでいいですね?」
「うん」
ドクターは少し困っていた
でも、すぐに腰掛けて丁寧に説明をしてくれた
時間的に1時間はかかっていないはず
でも、話を聞くうちに時間の感覚がわからなくなった
「まさか・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は医者としてこのまま入院をお勧めします」
「楓、そうしましょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「楓?」
そうなんだ
俺・・・・・・死ぬんだ
こんなに簡単に自分の死を知ってしまったなんてね
説明はわかりやすかった
どうやら俺の頭には腫瘍があるらしい
しかも悪性のね・・・・脳腫瘍ってやつ
今まで気付かなかったのがおかしいと言われてしまった
そして手術が出来ない場所にその腫瘍はあるらしい
ようするに、このまま入院しても無駄に生きる事が苦しいと感じるだけ
延命治療をしても余り意味は無い
意識が朦朧としたまま、命を延ばしても仕方が無いしね
だったら残された時間を好きに使いたい
俺は限られた時間をどう生きたいの?
「楓・・・・・・・・・・」
「帰ろう」
「えっ?」
「命に限りがあるのなら俺は好きに生きたいから」
「しかし」
「お願い」
「・・・・・・・・・・・・わかりました」
俺の選択は、最期まで翔と居る事だった
好きになってもらえなくてもいい
俺が好きならそれでいい
情けないけど、それでいい
同じヘリに乗り込む時、目隠しはされなかった
「初めての規則破りです」
「ありがとう」
「いえ・・・・苦痛を少しでも和らげたいので」
夜空を見つめながら、今までの人生を考えていた
俺に残された時間は残り少ない
俺は与えられた仕事を遂行出来ないだろう
時間がないしね
このままあそこで死ねば、会社に連絡が行くだろうけど責められる事はない
任務失敗で報酬がもらえないだけ
だったら、病気の事を話して自由になる事も可能かも知れない
でも・・・・俺はそれをしようとは思わない
翔のいない空間で生きるなんて死ぬより辛いと思ったから
違うな・・・・・
翔だけじゃない
和海も・・・・・そう
同じように好きだから俺は戻る選択をした
「薬を渡しておきます」
「うん」
「強い薬ですので」
「そうだね・・・見ればわかるよ」
「そうですか」
末期患者が使う薬ぐらいわかる
痛みは和らぐけど、きっと眠ったままになるんだろうな
だから使わないけど一応受け取った
「もうすぐ到着します」
「うん」
ずっと海の上を飛んでいた
やはりここは孤島だった
かなり大きな孤島
ヘリを降りると、寒さで思わず目を閉じた
肌を突き刺すような寒さ
昨日の肌の痛みはほとんど消えていた
と言うか、余りにもショックすぎて忘れてしまったのかもね
「大丈夫ですか?」
「どうかな・・・・でも、暴れたりはしないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ現実を受け入れられないだけだから」
「何とかしてあげたいのにっ・・・・・僕は何も出来ないなんて・・・・悔しい」
「俺は感謝しているよ」
「楓」
「残された時間がわかっただけでもよかった・・・・もし知らないままだったら適当に生きていただろうしね」
「こんな場所で頑張っても・・・・」
「いいんだ、俺にはここが似合ってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃ、戻るよ」
「もし・・・・もし何かあったらすぐに」
「うん」
そしてまた薄暗い場所に戻って来た
100人中99人が戻るなんて馬鹿だと言うかも知れない
でも、お帰りと言ってくれるたった一人の人間は翔だと思いたい
そんな事を考えながら、悲しく微笑んだ
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