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そのままタクシーに乗り、駅前のホテルに泊まろうと思ったけど気が変わった
「おばーちゃん、深夜バスがあるからこのまま温泉行こうよ」
「いいよいいよそんなにお金使わなくても」
「いいから」
「じゃ、おばーちゃんもお金出すから」
「いいの!バスだから疲れちゃうけどごめんね」
「いいんだよ」
そしてそのままバスに乗り、目的地に着いたのは朝だった
「眠れた?」
「ああ、ぐっすり」
「よかった」
その日はおばーちゃんに負担が掛からない程度の観光をして、温泉のある旅館で宿泊する事にした
「本当に嬉しいよ、温泉は何十年ぶりだろう」
「たくさん入って長生きしてね」
「翔・・・・・」
「もう、泣かないの!料理が冷めちゃうよ」
「ああ、美味しそうだね」
「うん」
久しぶりに美味しい食事をした
いつもは食べないかコンビニで済ませていたしね
あの女は食事すら作らないし、どうせ家に帰っても誰もいない
「翔はちゃんとご飯食べているのかい?」
「うん」
「もっと太らないと」
「あはっ」
「新しいお母さんは優しくしてくれるかい?」
「それはおばーちゃんが一番わかってるでしょ?」
「・・・・・・・・・・本当にすまない」
「いいんだよ、俺の家族はおばーちゃんと・・・・・・弟だけ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
弟の居場所はおばーちゃんも知らない
最後に母親が弟を連れて会いに行ったのは、母親が倒れる一ヶ月前だと話してくれた
その時に、もし何かあったら弟を引き取って欲しいと言われ住所が書かれたメモを残していったらしい
母親は自分の事がわかっていたのかもね
その後、母親が死んだ事を一ヶ月遅れで知り、急いで弟を引き取りに行ったけど住所の書かれたアパートにはもう違う人が住んでいたらしい
そのまま弟の行方はわからず、おばーちゃんは自分のせいだと後悔して思い詰めて半年間、寝込んでしまった
最後に見た弟は昔はやけに大人びた印象しか残っていないらしい
昔は元気な子供だったのにね
それも全てあいつのせい
「もうやめよう、あっ!これ好きだよね?あげるね」
「翔がお食べ」
「俺はその代わりにりんごのゼリーをもらうね」
「ああ」
おばーちゃんのお膳に煮魚を置いて、微笑んだ
「本当に翔は優しい子だ」
「おばーちゃんだからだよ」
そう
俺が優しくするのはおばーちゃんだけ
他人には優しくなんてしない
する意味もない
食事の後、もう一度温泉に入り同じ布団で眠る事にした
きっと俺は人の温もりに飢えていたのかも
「翔は本当にあの子にそっくりだ」
「ママ?」
「ああ、まるで昔に戻ったみたいだよ」
「一緒に寝てたの?」
「寒い所だったからねぇ」
「そうなんだ」
その後も、色々な話を聞かせてくれた
あの男は結婚してからおばーちゃんに会いに行く事を許さなかったらしい
でも、たまに公衆電話から電話をかけて来てくれたと言っていた
あの男は変なところで嫉妬深く、携帯や家の電話の着信履歴を全て確認していたらしい
情けない男だ
だったら浮気なんかしなければいいのにね
そしておばーちゃんはいつしか眠っていた
きっと疲れていたんだろう
「苦労してるんだろうね・・・・・・」
高校を卒業したら、家を出て一緒に住んで幸せにしてあげるからもう少しの辛抱だよ
その時は弟も一緒に暮らせたらいいな
俺はあの男のようにはならない
金なんていらない
家族の温もりが欲しい
でも、仕事もしなければ生きてはいけない
その為に、高校は卒業しておかないとね
俺が認めた家族にだけは優しく出来る
でも、それ以外はみんなゴミだ
仲良くする必要もない
友達もいらない
でも、りんごを見ると心が和む
だから少しだけ優しくなれる
昔は、弟と一つのりんごを仲良く食べていた
俺に残された優しい思い出だった
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