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俺の事
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バンドを組んで2年
たったそれだけの時間で俺達は有名になった
昔一緒にバンドを組んでいたやつに誘われて加入したけど、一年後そいつが抜けて俺も辞めようと思っていた
ここには俺の求めているものが何もない事に気付いたから
でも、説得されて何とか頑張って来たけど、そろそろ限界だった
メンバーはバラバラで会話もない
練習も不真面目でうんざりする
俺は別に名声など欲しくなかった
ただ、好きな音楽を気の合う仲間とやりたかっただけ
最初はみんな必死に頑張っていたように見えた
でも、人気と共に金に溺れるようになった
そのあたりから俺は今のバンドに見切りをつけていたのかも知れない
ずっと不思議だったのは、明らかにレベルが低いうちのバンドに何故大きな仕事が舞い込んでくるのかと言う事
その答えを知ったのが一年前だった
ようするに、リーダーが体で仕事を貰っていただけ
ドラマの主題歌の時はプロデューサー
CMの時はその会社の社長
男でも女でもお構いなし、言い方を変えれば枕営業みたいなものだろうね
でも、この世界は1、2曲ヒットしてしまえば意外と次もヒットしてしまう
雑誌の表紙も飾れてしまう
ホントにおかしな世界
そんなやり方にもうんざりしていた
だから今回の仕事を最後に今度は気長に気の合うメンバーを捜すつもりでいた
まともに練習しない奴らを見ているのはムカつくので、下見を兼ねて一人で会場となる場所に向かった
少し車で走れば、すぐに田舎道になるような場所だった
あいつらはそんな事どうでもいいんだろうけどね
いつマネージャーに話を切り出そうかずっと悩んでいた
今度は引き止められても辞める覚悟は出来ていた
ぼんやり運転をしながら鹿の看板を見つつ、田舎道をひたすら走った
そして突然、何かが飛び出してきたので思い切りブレーキを踏んだ
最初は鹿かと思った
でも、飛び出して来たのは鹿ではなく、バンビのような男の子だった
服装を見ると、明らかにおかしかった
靴も履いていない
普通ならそのまま警察を呼ぶか置き去りにするんだろうけど、何となく気になったので2,3質問をしてみた
すごく怯えている
一体何があったのだろう
両親はいないと言っていたのでとりあえず連れて行くことにした
もし、両親がいたのなら2,3日頭を冷やせば帰ると思っていたけど、彼の話はそんなに軽いものではなかった
嘘をついているようにも見えない
逃げて来たと言うのは本当なんだろう
お腹を空かしているようなので高速のパーキングエリアで食事をした
食べ方が・・・・・・・・・・・・・可愛い
なんだろう
両手で持つところがリスみたい
歳よりもかなり若く見えるし小さくて可愛い
ますます連れて帰りたい
彼にも生きる権利はあるはず
これからの人生を考える時間を与えたいと思った
そして俺達は一緒に暮らす事になった
繭は最初に会った時よりも笑うようになった
掃除や洗濯もしてくれた
食事は・・・・・無理だったので俺が作っていた
ずっと一人だったから、帰るのが楽しみになっていた
おかえりと言ってくれる人がいる幸せは、寂しい思いを経験した者にしかわからない事だろう
バンドを抜けたら、しばらく二人で旅行にでも行こうかな
きっと楽しいはず
そして今日も繭の好きなお菓子を持って笑顔で玄関を開けた
「ただいま」
あれ?
いない?
でも、一人で外には出ないはず
「繭?」
玄関を見ると靴がない
急いで部屋に向かうと、テーブルの上に小さな紙切れが置かれていた
「えっ?」
その紙切れを取り、目を通してそのまま外に飛び出した
「繭・・・・・・」
小さな紙切れには可愛い文字で「さようなら」の5文字だけ
どうして?
朝は今夜何を食べようかと笑顔で話をしていたはずなのにどうして?
その日、深夜まで繭を捜したけど見つからなかった
家にも戻って来なかった
一体何があった?
もしかして、見つかった?
まさか・・・・・ね
毎日新聞には目を通していたけど、繭の事は何も書かれていなかったしこの場所がわかるはずもない
「繭・・・・・」
眠れないまま、仕事に向かうとマネージャーに呼び出された
仕方なくデスクに向かうと、いきなりチケットを渡された
「何?」
「ロンドン行きのチケだ」
「どうして?」
「実はみんなにはまだ言っていないんだが、楓をソロでデビューさせたいと言う海外のレコード会社からオファーが来てね」
「突然すぎだし、そんな事は考えていない」
「よく考えろ、バンドを抜けるつもりだったんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あいつらはお前がいたから今までやって来れたんだ、しかしあいつらの実力ではそろそろ限界だろう」
「見捨てるつもり?」
「お前もだろ?」
「俺は・・・・・・・」
やろうとしている事は同じだ
結果的には見捨てる事と同じ
「行けない理由でもあるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
行けない理由はもう無い
繭はもう戻らない
理由が知りたくてもどうにもならない
だったら全て忘れて一からやり直すのもいいかも知れない
「ソロなら楓の実力も発揮出来るし、いいチャンスじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「バンドを組みたいのなら、戻ってから考えればいいだろ?」
「わかった・・・・・」
「そうか、頑張れよ!じゃ先方には連絡を入れておくから」
出発は明後日
もし、それまでに繭が戻って来たら俺は行かない
でも、戻らなければ・・・・・・・だから戻って欲しい・・・・お願いだから
だけど俺の願いは叶わなかった
結局繭は戻らなかった
俺は、雨に濡れながら空港へ向かった
俺の心と同じようなどんよりした天気だった
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