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ーハネルココロー
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空は快晴、雲ひとつ無い青空
その青空に白い飛行機雲が長く伸びていた
そして今の俺は、いまだかつて味わった事の無い緊張に包まれていた
競技場は、全ての競技が終わり今まで余り注目されなかった種目に視線が注がれていた
そう・・・・フィールドでの競技ハイジャン
いつもは余り注目されない競技だった
やはり、華のあるトラック競技に声援を持っていかれていたしね
でも・・・・今日は違う
俺はもう一人の選手と二人で優勝を争っていた
そして相手の選手が走り出した
「・・・・・・・・・・・・・・・あっ」
会場は落胆の声
そりゃそうだよね
彼は毎年優勝している選手だし
でもでも、俺だって頑張って来たんだ
その結果が今なんだ
落としたバーを戻すのを確認して2,3回その場でジャンプした
もし、俺が跳べば優勝が決まる
でも、跳べなかったら・・・・・・・・・・
心配なのはそろそろ限界に近い足
出来れば決めたい
そして自分を信じて走り出した
歩幅はバッチリ
絶対跳べる!!
「やばっ・・・・・」
バーが当たった
マットの上から揺れるバーを見つめていた
「お願い・・・止まって」
その願いが通じたのか、バーは落ちずに何とかとどまってくれた
その瞬間、俺は拳を空に突き上げ思わず叫んだ
「やった・・・・・やったぁーーーーー!!」
この歓声は全て俺の為のものなんだ
すごく嬉しい・・・・どうしよう
「ん?」
えっ・・・・誰?
と言うか、誰??
喜んでいる俺の横をすり抜けて・・・・・・
「えっ・・・・」
嘘
バーの高さを変えてる
しかも10センチも高く
それって・・・・・高校の新記録を上回る高さ
ありえない、こいつの身長から言ってありえない
突然やって来たそいつはとても綺麗で、太陽に反射した髪が眩しかった
普通なら怒られても当然の事をしているのに、あまりにも堂々としすぎてみんな唖然と見つめるしかなかった
そしてそのまま戻り、軽く屈伸をして一瞬俺を見た
「えっ・・・」
「クスッ」
な、なに?
何で笑われてんの??
その後の事は一生忘れない
いい意味でも悪い意味でもね
彼が飛んだ瞬間、白いジャージが風を含み羽のように広がった
まるで背中に羽が生えたみたいに軽やかにバーを跳び越した
「嘘・・・・だ」
バーにかすりもしない跳躍力
普通ならジャージがバーに接触してもおかしくないのにまだ余裕すら見えた
それを観ていた観客も言葉をなくしていた
う、嘘!
これってどうなるの?
でも、彼はそのまま消えてしまった
もちろん選手ではなかったので俺が優勝したんだけど・・・・嬉しくない
普通に戦っていれば、彼に優勝を持っていかれていたんだ
しかも、新記録まで出してね
「クソッ!」
その日、俺ははじめて悔しくて帰り道で泣いた
俺が必死に跳んだバーの高さ以上をあいつは軽々と跳んだんだ
屈辱・・・・その言葉しか浮かばない
でも、俺はあいつを知らない
知らない奴に全て奪われた気分だ
「最悪・・・・何なの?」
「まぁまぁ、でも優勝・・・」
「嬉しくないよ!むしろ惨めだし」
「でも、マジですごかったな・・・・選手ではないみたいだし」
「ううっ・・・・・」
「思わず見惚れてしまったし、やばいわ」
「うるさいよ?なんなの!」
「ごめん」
俺は短距離のタイムも中途半端
長距離は苦手
ハードルも無理
でも、陸上が好きだから頑張って来たのに
やっと俺でも頑張れる競技にめぐり合えたのに・・・・何でだよ
俺にハイジャンを勧めてくれたのは先輩だった
何もわからないままのスタートだった
でも、俺は人並み以上の瞬発力と跳躍力があったらしい
コツさえ掴めば意外とすぐに跳ぶ事が出来た
だから人一倍努力したし練習もした
ハイジャンがすごく楽しいと感じていたのに・・・・・
「もうやだ・・・・」
「ハンバーガー奢ってやるからいい加減機嫌を直せ」
「むぅ・・・・・」
「な?」
「シェイクも」
「はいはい」
試合の帰り道
本当なら嬉しい帰り道
でも、全然嬉しくない帰り道
「おわっ!!おいおい」
「うるさいよー、何?」
「あの広告塔・・・・ほら!」
「ん~?・・・・・・・・・・・ああっ!!!」
何で?
モデルだったの?
俺はモデルに負けたの?
くっそぉぉーーー!!
「綺麗なはずだよな」
「うるさい!!」
「しかも男なのに口紅の広告だぞ・・・・マジで綺麗過ぎるだろ」
「ふんっ!」
何さ!
モデルならモデルらしくしていろっての!!
その後も、ムカつく事にそいつの話題で持ちきりだった
「帰国子女だってさ、ずっとフランスにいたらしい」
「・・・・・・・・・・・・マカロン食べてろよ」
「むこうでモデルにスカウトされて海外では有名な奴らしいぞ」
「・・・・・・・・・・・・・なら帰国するなよ」
「写真もあるな・・・・うはっ!超綺麗」
「・・・・・・・・・・・・・・・むかつく」
「えっ!まじかっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・うるさいな」
「日本に帰国したのは高校に通う為らしいぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・どうせ単位が足りなくなるね、ざまー」
「いや、モデルは休業らしい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・今度は俳優ですか、そーですか」
「あのな・・・・お前毒吐きすぎ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「悔しいのはわかるけどさ、と言うか・・・・・やばくね?」
「何が」
「日本に戻って来たと言う事はさ」
「うん」
「次の大会でお前と・・・・もしかして今日のは宣誓布告じゃね?」
「・・・・・・・・・・・・・・ぅ」
「陸上をやるならそうなるよな」
「・・・・・・・・・・・・・・ぅう」
目の前が真っ暗だ
勝てる気がしない
俺の人生は終わった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・がんば!」
「何、そのかわいそうな捨て犬を見るようなさ・・・・」
「あ、あはは・・・・」
でも、そうなるよね
あいつがどこの高校へ行くかは知らないけど、同じ東京でいつか争う事になるんだ
どうしよう・・・・・勝てる気がしないよ
もう負けを認める自分も悔しいけど、やはり天性の才能ってあるのかも知れないなんて思ってしまったんだ
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