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何処となく視線を感じるが、敢えて気付かないフリをする。
ダメだ。ミキさんの言葉を素直に受け入れては…だって、受け入れると言うことは自分の気持ちに気付くと言うこと。
そんなことあってはならない。それは俺にとって必要のないものだから。
1人で生きていくと決めている俺にとっては、足枷となってしまうのだから。
「…ナナちゃん、気になる人でもいるのか?」
「…何ですか急に?」
「あからさまに話を切られたら、誰だって勘付くでしょ」
カウンターにいるミキさんと少し離れたテーブルにいる俺。確かにそこには距離がある筈なのに、それを感じさせないミキさんの声が耳に残る。
触れて欲しくないから話を切ったのに…そう思っても後の祭り。あからさまな態度を示してしまった自分が悪い。
互いに手を止めて見つめ合う。
最近、こうして人と見つめ合うことが増えたな…なんてどうでもいいことを頭の片隅で考えた。
どうして人は、踏み込んで欲しくないことに対して踏み込もうとするんだろうか?放っておいてくれればいいのに…。
そんなことを考えていたら、カランコロンと音が響いたことによって交わっていた視線のベクトルが変わった。
「こんばんはー…って、ナナちゃん?今日は同じシフトじゃなかったよな?」
「あ…単純に遊びに来ただけですから」
「そうなの?残念。1人増えてくれるのかなーって思ったのに」
視線の先には今日のシフトが入っているであろう人が店にやって来た。ここは社員やバイトを含めても15人程度しかいない。
だから、全員の顔と名前は一致するのだ。
その人は準備をするために店の裏へ回った。今までの何処か緊迫した雰囲気が和らぎホッとした。
俺はその話は終わりだと言わんばかりに、ミキさんに背中を向けて作業をする。
「…ナナちゃん」
「何ですか?」
「君がどうしてそこまで1人になりたがっているかは知らないけど、運命には逆らえないぞ」
「運命なんて…」
「信じない?俺は運命があるって信じてるけどな」
「……」
…運命、か。昔は信じていた時もあったかもしれないけど、そんな綺麗事な言葉、信じる価値なんてない。
人によって"運命"は色んな意味を成す。
その例えの一つが恋愛だ。
目が合った瞬間に恋に落ちる…まさに、運命の人に出逢えたと言うだろう。
でも、"運命"は良いことを表すだけじゃない。悪いことだって"運命"と言う言葉で片付けられてしまうから。
"あの日"、俺の身に起きたことも"運命"と言えるだろう。俺の存在が邪魔であると分かった日、ああなることは"運命"だったと……。
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