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それから暫くして、昂ぶっていた気持ちを落ち着かせると、今日は諦めて帰ることにした。
何となくミキさんに声を掛けるのが戸惑ってしまったので、今日の飲み分を給料から引いておいて欲しいことをミキさんに伝えるようにバイト君に言って店を出た。
外に出ると来た時よりも人が多くなっている。スマホで時間を確認すると、日付けが変わる2時間も前を表していた。
いつも、バイトの時は日付けが変わる1時間前ぐらいに店を出ているからか、この時間に外の風景を見るのは新鮮に感じる。
仕事帰りのサラリーマンや呼び込みをしているキャッチの姿。夜の街には不釣り合いな中高生や派手な髪や化粧やドレス姿のキャバ嬢。
時間が1時間ぐらい違うだけで余り見ない人達が視界に映る。
「…落ち着くんだよな…ここは」
ポロリと溢れる言葉は本音だった。
この薄汚いけれど何処か魅力を感じる場所に魅了される。
ここは唯一、自分が自分らしくいられる場所。特殊な性癖も隠さなくていい。汚い感情を共有することも出来る。
俺にとってはここがエデンの園だと言っても過言じゃないから。
数時間前に通った道を辿り家路に着く。
玄関を静かに開ければ、リビングの部屋から光が漏れていたのが分かった。
日付けが変わる前だから誰かがリビングに居てもおかしくはない。
でも、わざわざ顔を出す必要はないだろうと判断した俺は、足音を立てずに階段を登り自分の部屋へと向かった。
鞄をいつも置いてる定位置に置いてから、ベッドへとダイブする。右にゴロゴロ、左にゴロゴロと意味もなく寝返りを打つ。
電気を点けずに窓から差し込む月光だけが辺りを照らしている。照らすと言っても闇の方が勝っているから視界に何か映る訳じゃないが…。
意味もなくゴロゴロと寝返りしていたのを止めてムクリと身体を起こす。真っ暗闇でも自分の部屋がどんな造りになっているかは分かっている。
徐に立ち上がり、勉強机のスタンドのライトを点ける。そして、引き出しから寝かせて置いてある写真立てを取り出した。
「…"運命"なんて…俺には無関係なんだよ…」
写真に映る"家族写真"を見ながら呟く。
そこにはまだ家族が"5人"で幸せだった時の写真だ。
何処かに旅行に行った時に撮ったと思う。写真に映る誰もが笑顔を浮かべている…今では絶対にあり得ないことだ。
今日ミキさんに言われたことを思い返した。
"運命"には逆らえない…果たして本当にそうだろうが?俺は寧ろ、"運命"は逆らうべきだと思う。
逆らって、足掻いて、違う"運命"に変えてやる。誰もが幸せになるために"運命"があるなんてバカらしい。不幸になるための"運命"だってこの世にあるのだから。
そう思いながらもう一度写真を見て、再び引き出しにしまった……。
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