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「チッ、何なんだよお前は!」
「だから、この子の連れだって言ってんだよ。1回で理解出来ないとか、その頭ヤバイんじゃねぇ?」
「っっ!」
徐々にナンパ男は返す言葉が見付からず、言い返せなくなった。
紫波さんはそんなナンパ男の姿を見ると、一つ大きな溜息を零した。
「これに懲りたら、この子に近付くな。勿論、こんな子どもが集まるとこでナンパなんてするんじゃねぇ」
「チッ、うぜぇ」
それだけ言うと苦虫を噛んだような表情をして店を出て行った。
ガヤガヤと騒がしかった店内がシーンとなり、気まずさを感じた。
自分よりも一回りは違う大きな背中を見つめているとドキドキといい意味で胸が高鳴る。
すると、紫波さんが身体の向きを180度回転させて俺を見下ろした。突然のことだったからビクッと身体が震えた。
「大丈夫、薺君?」
「えっ、あ、はい。ありがとう、ございます」
「図書館で君が出て行く後ろ姿が見えたから追いかけてみたけど…」
「助かりました。あの人、しつこかったので」
紫波さんと目が合わないように視線を逸らしながら話していたら、「薺君」と有無を言わせない声に、渋々目を合わせた。
前回の別れ方がいいとは言いがたいから、何処となく気まずさを感じていたし、彼の顔を見たら隠された感情に気付いてしまいそうで怖かった。
目を合わせると紫波さんは安心しきった表情をしていた。
何故そんな表情をするのか、俺には理解出来ない。
「…うん、大丈夫そうだね。ただ…」
そう言って、さっきまでナンパ男に掴まれていた腕を、まるで壊れ物でも扱うかのように優しく持ち上げた。
「コレ、痛くない?」
「見た目以上には痛くないし、直ぐに消えますよ」
男なのに気味が悪いくらい白い肌にくっきりと残る手の跡。
思いっきり掴まれていたから手跡が残ってしまったらしい。
特に気にもしていなかったら、「俺がもっと早くに間に入ってれば良かったね…」と目を伏せて紫波さんらしくない声色で呟いた。
…本当、調子狂う。
避けなければいけない筈なのに、そんな風に心配されたら避けられなくなってしまう。
「何か冷やすものがあればいいんだけど…」
そこまで言うと、あっ、と声を発したと思えば「ちょっと待ってて」と言って店のカウンターに向かった。
周りはいつの間にか騒々しさが戻っていて、自分達のことに夢中だ。
俺は紫波さんの後ろ姿を眺めながら席に着いて、温くなった抹茶オレを一口飲んだ。
そこでやっと、ホッと一息吐けた気がする。今までだって何度もああやって男にナンパされたこはある。
けどまぁ、慣れって怖いよな…男である俺が男に性的な目で見られることが当たり前になっている。
それでも、恐怖を感じないわけじゃない。いつもいつも「助けて」の言葉を言いたかったのだから。
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