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「お仕事帰りですか?」
「そっ、定時に上がれたから棗に会いに来た」
そう言ってソファに座って両手で顔を押さえている兄さんの頭を撫でながら答える。
見ての通り、直前までここでイチャイチャしていたことが僕にバレていることに対して、恥ずかしいのか顔を見せない兄さん。
その姿に思わず苦笑いを零した。
いつ誰が入ってくるか分からないリビングでナニかをしなきゃいいのに…。
けど、学生と社会人の2人には、なかなか同じ時間を過ごすことは難しいのだろう。
今の僕とキョウ君だって、多い時でも1週間に4回、少ないと1週間に1回程度だ。
多分、兄さん達はそれ以上に会えないのかもしれない。
「…もう、リビングでは何もしない」
「でも、部屋には入れてくれないだろ?」
「だって!我慢出来なくなるって蓮が…っ!」
「あぁほら、そう言う顔をするから我慢出来なくなるんだよ」
……驚いた。兄さんは僕と違ってサバサバした性格で好き嫌いはハッキリしてる人だ。
僕達弟には、見た目とは裏腹にしっかり者で頼れる存在だけど…。
蓮さんを前にするといい意味で甘えたになっている。
そして、そんな兄さんを抱き締める蓮さんの表情は慈愛に満ちていて、何故かキョウ君を思い出させた。
「っ、意地悪。久々に会ったんだから甘やかしてよ」
「ふっ、悪い悪い。棗が可愛くてつい意地悪したくなっちまう」
蓮さんのお腹に顔を埋めた兄さんは、弟の僕から見ても可愛いものだ。
いつもキョウ君に可愛い、可愛い言われてる僕が言うのも何なんだが…。
そんな2人の姿にホッコリと心が温まり、無意識に口元が緩んでいた。
「…ちょっと見ない内にいい顔するようになったな…」
兄さんしか見えていないと思った蓮さんが、僕を見てそう言ったことには驚いた。
ハッと思い蓮さんを見ると、優しく微笑んでいて気恥ずかしい。
「そ、うですか?いつもと変わらないと思いますが」
「いや、変わったな。雰囲気が柔らかくなった」
「でしょ?本人は無自覚だけどね」
蓮さんの腰に腕を回したままの兄さんは嬉しそうにこっちを見る。
2人のその表情と瞳にどう反応すればいいか分からなくて、視線を逸らすことしか出来なかった。
クスッと笑い声が聞こえると思って視線を戻せば、兄さんを抱き締めていた筈の蓮さんが僕の前にいた。
そして、手をゆっくりと上げて頭を撫でようとして来たが、僕の中の恐怖が身体の震えとして表に出てしまった。
「あ、悪い。触られるの嫌いだったな」
「…ごめんなさい」
少し…本当に少しだけ、傷付いたように表情を歪ませた蓮さんにそう言うしかなかった。
…あぁ、本当に嫌になる。人を傷付けることしか出来ない自分に…未だに拭えない"あの時"の恐怖を克服できない事実に。
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