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副耳 ─ fukuji ─
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さっきからずっと漫画のページがめくられる音が、していない。
…もしかしたら…
嗚呼、見られているのか。
─ ドクン ─
そうか。観られているのか。
─ ドクン ドクン ─
目の前のテレビから不必要な情報が右から左。それなのに、すぐ脇の彼をチラとすら見ることが出来ない。
今まで気にしたことのなかった無言の時間。
入らないテレビの情報。
見えない彼。
見えない視線。
しかし、感じる視線。
─ ドク ドク ドク ─
何を観ているのか。
彼の瞳に収まるものは何なのか。
─ ドクッ ドクッ ─
きっと…。
それが何なのか、僕はもう分かっている。
それは ──
「このイボ。何なん?」
長い間日焼けを知らない耳に鎮座するそれを、彼の冷たい爪の先が揺らす。
ブルッと背中を仰け反らせたそれは、僕の唯一と言ってもいいコンプレックス。
背筋が伸びて、まるで金縛りにでも遇ったかのように固まる身体は、呼吸すら止める。
「コレ病気?うつる?…まさか、な?」
うって変わって囁くように、とはいえ彼の爪の先は尚も副耳を掻くように揺らしている。
拒絶されるのかと血の気が引いた思いがしたが、彼からの継続した接触に、僅かばかり力が抜けていく。
「安心し。うつらんし」
普段通りの声が出て、もう一つ力が抜けた。
「ホンマか。なら、えぇか」
彼の安堵した声と共に高い体温を感じる彼の指の腹で、ソレはこねられる。
「副耳。聞いたことないん?」
生まれつきのコレは目立たないようでいて、実際は目につく存在。あまりお仲間には巡り遇わないが、そんなにレアというほどのモノでもない。
しかし物珍しさからか、はたまたその形のせいか。
幼少期には、心無い言葉に何度傷付いたことか。何度喧嘩したことか。そして何度握りつぶし、何度切り落とそうとしたことか。
長い間隠すように伸ばした髪は、しかし就職活動を機にバッサリと切り落とされた。
久方ぶりに見た自分の耳の全貌に驚き、スースーと心許ない耳元を手で覆った帰り道。
下着なしの…『露出行動』に近い感覚。
耳元に並ぶ大小二つの副耳は、それはまるで性器にも等しいと気がついた。
ソレを彼の指先が尚も弄んでいる。
「副耳?聞いたことないわ。痛ないん?」
「どっちかゆうたら、こそばゆいわ」
二センチと無い副耳にも血は通い、鈍いながらも痛覚があるにも関わらず、ソレを持たない者の触り方は無遠慮と言うに相応しい。
撫でたり捏ねたり弾いたり。こちらの気も知ろうともせず、新しい玩具を見付けたように執拗に絡ませる。
「なんか……なんでやろな。これ、エロいな」
「ッバ!」
飛び退くように横にずれると、またすぐに離れたばかりの指先をこちらに伸ばしてくる。
「馬鹿か。何言うん!全っ然、エロないわ」
咄嗟に隠した耳を覆う自分の手がひどく冷たく感じ、そこで初めて異常に発熱していると気がついた。
「いんや。コレ触ってる間のお前、かなりクる顔してたわ」
「…こそばいって言ったろ」
誤魔化すようにゴシゴシと力任せに耳元を拭う。
「むしろ。触る前からやん。顔も赤なって」
副耳だけを見ているのかと思っていたが、彼は僕までも視野に入れていたようで。
「恥ずかしそうと言うんか…。ぶっちゃけエロ顔」
耳を覆う手の甲をゆっくりと剥がし再び晒され、彼の勿体ぶるような落ち着いた低い声で囁かれた。
「…感じてたん?」
剥がされた手は床に縫い付けられ、彼は身体ごと近付いてきた。
膝から落ちた漫画には見向きもしないで、彼はにんまり笑う。
「なんか髪切ったら…今までとは違って、急にかわいらしない?」
「んな訳ないやろ」
「頬赤らめるとか、モジモジすんのとか、なんか…なんかたまらん」
彼の身体に抑えられ、あっと言う間に僕の身体は床に倒されていた。
鼻息の荒くなった彼から逃げるにも、あぐらをかいたままで乗り上げられて逃げようも無い。
好きだと告白して始まったお付き合いは互いに気を遣い、最期の一手にどちらも手を出さぬままでいた。いつかはこんな場面もと期待していたそれが、まさか副耳、コンプレックスをキッカケに動き出すとは思いもしなかった。
「俺、ギャップに弱いんだわ」
近付いた彼の熱い息と視線に身体を強ばらせ、彼を凝視する。
「つか、もうヤバくて」
ねとっとした舌が唇から頬、副耳へ這わされ、情けない声が漏れていく。
耳元に厭らしい水音が聞こえ息を殺した刹那、僕のソレは彼の唇に吸われた。
「ヒャアアア」
背筋を走った何かを逃がさないとばかりに口をも塞がれ、どう見ても襲われている姿だ。
「なぁ、ヤらせて?」
ひきつる笑みの合間にその言葉と口付けを繰り返す。
余裕の無い表情をしていても、合意の行為になるまでは我慢してくれているらしい。
「もっとお前の事、知りたい」
まるで乳首のように副耳を吸い上げ、彼の舌が発する全ての音を僕の鼓膜が丁寧に拾う。
嬌声だか奇声だかを発しながら、自分とは信じられない程に身体をくねらせ逃げようともがくけれど─
恥ずかしさでおかしくなりそうだ。
「…もう。お前を、抱くからな」
彼の肉厚な舌先が耳の穴に挿入され、頭はパンクしたように思考が止まった。押し潰される身体に彼の硬い一部が擦り付けられ、しつこい程の大音量の水音が離れ再び副耳を荒々しく吸われた。
「いいよな?俺がシても」
一度だけ頷いて、彼の背中に腕を回した。
彼は薄く目を瞑り、唇を重ねた。
「副耳か。もう忘れられそうもないな」
【コンプレックスってわりと性感体だよね!て話】 20170106 副耳編
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