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【恋人にリンゴを】悟とレナードの未来の話
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注意!
本編完結後のお話になります。
「楽しそうですね、奥様」
「うっ……」
悟は、鏡の前に立っていた。
なぜかというと、昨夜、出張から帰ってきたレナードと久しぶりのデートで、なにを着ていくか服を合わせるためである。ただでさえ目立つレナードと対等に歩くため、服装選びは大変だ。レナードは気にする必要ないと言うが、こういうデートの時に周りのレナードへの視線を見てしまうと、そういうわけにはいかなくて。
そこで、濃紺と薄茶のジャケットを選んでいたのだが……とある一言に眉を寄せた。
「なにか?」
その声の方向に目を向けると、ニコニコとしているアルバートがいて。どちらかというと、アルバートのほうが楽しそうである。
そんな姿に悟は小さく溜め息をついた。
「……アルバート。その呼び方やめて……」
「奥様?」
「それ!」
すると、アルバートは声を上げて笑いだす。
その笑い声は止まりどころがなくて、悟は唇を尖らせた。
「アルバート、笑いすぎ」
「いいではありませんか。間違ったことではないですし……それに楽しいですから。……主に俺が」
そう言いながら、アルバートはモーニングティーを片付ける。その手は執事見習いの頃とは違って、かなり手慣れたものだ。もしかすると、技術面は悟よりアルバートのほうが上をいくかもしれない。
「最近、意地悪になったよね……話を変えるけど、ジャケットどっちがいいかな?」
「どちらでもお似合いですよ」
さらっと答えるアルバートに悟はムッとした。それでは聞いた意味がないではないか。
「俺、服には疎いんだ……どっちか答えて」
「俺に聞くと俺の好みになるので、レナード様の好みのものをと思ったのですが……では、今日の服装見るからに右側の薄茶ので」
「わかった。ありがとう!」
アルバートの言う通り、濃紺のジャケットをクローゼットにしまって薄茶のジャケットを羽織る。あとは腕時計を、というところでアルバートがさらに追い討ちをかけてきた。
「それより……お時間はよろしいのですか?」
どうやら迷っていた時間が長かったようだ。時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていた。
「え?……ってなんでそれを早く言ってくれないのかな! いってきます!」
「はい。いってらっしゃいませ、奥様」
「やめて! 嫌いになるよ!?」
「それはイヤでーす。お気をつけてー!」
外へ出ると、すでに車が止まっていて運転手が外に出て悟が来るのを待っていた。
運転手は悟が来たことを確認すると、後部座席のドアを開ける。中には本を読んでいるレナードがいた。
「すみません、お待たせしました」
仕事の時とは違ってスーツではなく、お洒落なパンツにニット、チェスターコートとラフな格好をしているレナード。やっぱりなにを着ても様になっていて、羨ましい。
悟が車へ乗り込むと、レナードは本を閉じて微笑んだ。
「おめかしは済んだのか?」
「そんなこと……してません」
はい、と言ってしまえば、このデートに期待しているようで、悟は思わず違うと言ってしまう。しかし、ある程度待ったレナードにはそれがお見通しのようで、ふっと笑われてしまった。
「そうか……そのジャケット、よく似合っている。じゃあ、出してくれ」
迷っていたジャケットの件を褒められて、悟の頬が微かに染まる。
素直に嬉しかった。……お礼にアルバートへ何かお土産買って帰ろう。
そう思っていると、車が発進した。今日のデートはレナードに任せている。
というのも、遡れば出張前日のこと。
当分の間、イギリスの本社で仕事が出来ると言っていたレナードに急遽出張が入ったのだ。それは、どうやら急ぎのものらしく、出張中に約束していたデートも中止になってしまったのである。
これはそのお詫びも兼ねて、ということらしい。
「今日は美味しいアップルパイの店を見つけたから、先にそこへ行こう」
「アップルパイ?」
悟の瞳が輝いた。
「ああ。好きだろう?」
「……あ、ありがとうございます」
それをレナードに察知されて、ポッと林檎のように悟は赤く染まる。控えめにレナードへ礼をすると、レナードは主導権を握ったようでニヤニヤとし始めた。
「礼はいらないんだがな」
悟はドキリとする。レナードの手が悟の手を包んだからだ。そのまま指が絡んでいき、鼓動が高鳴る。
「……すき、ですよ」
レナードが欲しい言葉を小さな声で言えば、レナードは満足そうに笑った。
「俺の奥さんは可愛いらしいな」
「っ、貴方が言わせたのでしょう!」
「サトル」
今度は左側の手が取られて、ちゅ、と唇が降る。落とされたのは薬指にあるリング。
レナードは、これを愛情表現だとしょっちゅうしてくるが、悟はなかなか慣れなくてヒクと肩を揺らす。
「出張の件はすまなかった。そして、今日という日を待ち望んでいたよ。今日は楽しんでくれると嬉しい」
そして、追加された愛の言葉がくすぐったい。そのくすぐったさに悟の口も弾んで。
「貴方と行くところだったら、どこでも楽しいですよ……レニー」
愛称も一緒に呼べば、レナードは嬉しそうに悟へキスをした。
唇の感触は優しくて甘い。悟は、そんな口づけに到着するまで溺れてしまったのだった。
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