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【恋人にリンゴを】“Yes”or“No”?
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悟の表情が引き攣った。
「サトル、これはなにか意味があるのか?」
なんでそれをチョイスしたの。なんで今それを聞いてくるの。その思いでいっぱいである。
悟とレナードは日本のディスカウントストアに訪れていた。そのお店はとにかく安いことで有名で、食料、衣類、玩具などと、ここに行けばだいたい揃うのではないかというくらい、とにかくなんでも売っている。そして、日本に来るたびにレナードが行きたがるものだから、レナードのお気に入りのお店となっているらしい。
レナードにとっては珍しいものばかりで、新しいコーナーに来てはいちいち商品に反応している。そこがなんだか可愛いと思ってしまって。悟もニコニコとしながらレナードの隣を歩いていた。
しかし、それも今のうちだけのことなのだが。
「サトル、見てくれ!」
と、レナードから楽しそうな声が聞こえてきて、悟は振り返る。
そこから空気が一変した。
悟の瞳に映るのは、レナードが枕を持って悟に見せている姿だ。それが単なる枕なら許せる。だが、レナードが持っているのはイエス・ノー枕だ。しかも、見せられている面がピンクの生地で大きなハートマークの上に“YES”とプリントされていて面で、ますます居心地が悪い。
勘弁して欲しい。なぜそれに興味を持った?
「なかなかに面白いデザインだよな。なにか意味があるのか?」
「いや……レナード様……」
早く商品を元の位置に戻して。
「サトル」
悟の希望が叶わないどころか、レナードは悟に近寄ってくる。
(それを持ってこっちに来ないでー!)
悟は慌てて周りを見渡した。幸いにも今日は平日で元々人が少ないため、今のところいないようだ。
ほっと安心したものの、それは束の間のこと。レナードの対応をどうするべきか。ちらっとレナードを見れば、悟の答えにワクワクとしていて、悟は乾いた笑いを零したあと深く溜め息をついた。
逃げられない。
「そ、それは……夜の営みをして良いか、駄目かの意思表示する枕ですよ」
「……ほう。なにかクイズでもするのかと思った」
(そうやって答えとけば良かった……!)
せっかく意気込んで答えたのに、なんだろう、この気力の無駄遣いは。一気に疲れたような気がして、悟は額に手を当てる。
自分もなんで素直に答えてしまったのだろう。今となれば後悔でしかない。
すると、レナードの表情がぱあっと明るくなって。
「素晴らしい! 買おう!」
「買うんですか!?……え、というか一つだけ? 誰が使うんですか?」
「サトルに決まっているだろう」
「……ですよね」
当たり前だと言うかのように真顔で枕を押しつけてくるレナード。悟はそれを丁重に押し返す。
レナードは買うとなったら意思を曲げない。多分、今回も負けてしまうので、レナードの分も購入するという形で終息することにした。だが、果てにはレナードから俺はもう答えが決まっているからと言われ、枕越しにレナードを思いっきり叩いてやった悟だった。
それから、イギリスへ帰国した夜のこと。
悟はベッドの上で正座をしていた。目の前には、やけに目立つピンク色の枕が二つ。買う時も嫌ではあったが、さらに置いてみると後ろめたい気持ちが大きくなる。
悶々としながら、一つ裏返してみる。すると、ピンクの面とは対でブルーの生地を使用していて、大きなハートマークの上に“NO”とプリントされた面が露わとなった。
“YES”と“NO”が並んだベッド。悟は大きな溜め息をつく。なんでこんなことに。
通常なら“NO”と押し切ってしまいたいところだが、なんだかそれはレナードに負けているようで悔しい気がした。静かに再びピンクの面を上にして、ばふっと枕に埋もれる。
ええい、ここは“YES”である。抱かれる側だとしても、男なら黙って“YES”だ。
一人葛藤をしていると、レナードが部屋の中へ入ってきてドキッとする。悟が枕に顔を埋めていて文字は見えないが、色で意図は把握出来るだろう。発情期以外でセックスしたいと意思表示をすることがあまりないから、恥ずかしさが募った。
しかし、レナードはベッドに入ってもなにもする様子がなくて。
枕から顔を上げた悟は、少し寂しそうにレナードを見つめた。
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