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この数日間で決着をつける。俺には迷っている時間などないし、今のままだとハルオミに合わせる顔もない。鬱憤を吐き出した俺はサトルへ近づいていく。
「……使え」
ハンカチを取り出して突きつける。
それまでサトルは自分の世界に入っていたのか、ずかずか歩み寄っていた俺のことには気づいておらず、ようやく肩を揺らして振り向いてくれた。
「え? あ……レナード様ですよね……?」
近くで見れば、これまでに何度も泣いていたらしく、目尻が黒ずんでいて酷い顔だ。その姿に眉を寄せると、サトルは慌てて涙を拭こうとする。
「いいから、使え」
「あ、ありがとうございます」
手に握られたハンカチは涙を拭いて、そのままぎゅっと大切そうに握り締められる。
「あれからどうしていた。音沙汰がなくて心配した」
「あ……えっと、申し訳ございません。恥ずかしいことに……あれから、何も変わらない日々でした。なかなか抜け出せられなくて……情けないです」
苦笑するサトル。しかし、それは歪みがあって、笑っているようなものではなかった。泣いてばかりで、笑い方を忘れているようにも見えた。
人の死はいつかやって来るものだから、どうしようもない。それに、ハルオミも死を直前にして、もがき苦しんだのだろう。それはわかっている。わかっているはずだけど、ハルオミはとんでもないことをやってくれたと思う。
サトルの笑顔を奪ったこと。やりようもない怒りを俺は覚えた。
「それだけ主を想っていたんだろう。だが、早くお前に来て欲しい俺としてはそれは困る」
「そう、ですよね……」
「お前は勉強熱心で、主を想う優秀な執事だとハルオミから聞いている。是非、俺の屋敷に来てもらいたい。俺の屋敷ではやることがたくさんあるからな……それに打ち込めば、その悲しさからも少しは抜け出せれるんじゃないか?」
「レナード様……」
サトルは大きな瞳を丸くして、俺を見上げる。
この時の俺は、とにかく必死になっていた。外へポツンと投げ出されたサトルを、早く拾って俺の物にしたかった。その切羽詰まった様子は、独占欲が丸出しで、醜いものだったかもしれない。
それでも、手にしたくて、言葉を何度も重ねていく。
「優秀な人材を、他のやつには取られたくない。どこか仕えようとしている場所はあるのか?」
「それは……ありません」
「ならば、覚悟を決めろ。泣いたって二度とハルオミに仕えることは出来ない。俺は、お前を迎えに来たんだ。日本へは数日間滞在することになっているが、イギリスへ戻る日は、お前を連れて帰りたい」
想いをありのままぶちまけてから、俺に冷静さが戻ってくる。サトルを見ると、瞳を丸くしたままポカンと見つめていて、言い過ぎたかと少しばかり後悔した。でも、言いたいことは伝えた。
俺は携帯とメモ帳を取り出すと、宿泊先のホテル名と連絡先を書いてサトルへ渡す。
「ここのホテルにいる。何かあったら連絡をくれ」
そう言って踵を返そうとすると、その瞬間、サトルに腕を掴まれた。
「待ってください! 私はレナード様をずいぶん待たせてしまったのです。申し訳ございませんでした」
「気にしないでくれ。責めてるつもりはなかった」
「いいえ、その言葉で目が覚めました。ありがとうございます。これも何かの縁……一緒に行かせてください。貴方の執事として仕えさせてください」
その時の瞳は揺るぎないもので。俺はふっと笑って、サトルと握手を交わした。
こうしてサトルが俺の屋敷の執事になったわけだが、ハルオミには世話になっていたから、サトルの知る範囲でまだ迷っている者がいれば、受け入れることにした。だが、やはり国外の活動となるため、難しいらしく、遠慮する者が多かった。結果、サトルとサクラの二人を受け入れることになったのだ。
そして、このことはハルオミとの約束の序章にしかすぎない。
End
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