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言葉の重さ
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クレスの必死な説得に頷くスアム。
「さて、クレス。オレは失礼しようか」
「えー、待ってください。今日はヨルが美味しいケーキ作ってきてくれたので、一緒食べてからじゃダメですか?」
立ち上がろうと上げた腰をソファーに下ろしたカメリアは溜め息をついて、ケーキが出てくるのを待つ。
自慢の息子を思い出してか、クレスが心底嬉しそうに言うのだから断れない。
それから、あれこれ話しながらヨルの作ってきたケーキを食し、お茶会はクレスが仕事に戻ると同時にお開きになった。
「カメリア様、学校行くって言っちゃいましたよ」
「オレは知らない」
答えたのはスアムだ。カメリアは関係ないとばかりにスアムの泣き言を聞き流す。
「おい、お前の家はどこだ?」
「あ、こっちです」
ようやく自分の願いが叶うと思ったのか、足取り軽く家へと案内していくスアムをよくよく見る。
無邪気で、真面目で、頑張り屋で、一般庶民。
魔法の知識が無いだけ純粋で、一途に信じ続けることが出来る。
これが守るべき民の姿。
そう思うと、これから告げるべき言葉が重くて今すぐ逃げ出したくなる。
「カメリア様?」
「なんだ?」
「あ、いえ……。あ、この家です」
普通と言われるサイズの家を前にして、スアムを見るとムッと頬を膨らませた。
「なんですか?文句なら受け付けませんよ」
「いや、なんでもない」
足を進めて家に入るとスアムが帰ってきたことに両親が喜んだ。スアム後ろにいたカメリアを見ると驚いた様に目を丸くして、スアムに誰かと確認する。
無理もない。カメリアはあまり都に降りない上に出不精だ。
カメリアだと告げるスアムにさらに驚いた両親は急いでお茶を出そうとするが、カメリアは断った。
スアムの案内でスアムの祖父がいる部屋へと行く。
「おじいちゃん、ただいま」
見るからに憔悴していて、先が長くないことが知れる。
「カメリア・ミロ様連れてきたんだ。だからまだ、生きられるよ!!」
ようやく重たい瞼を上げた老人はカメリアを見た。その瞳は嬉しそうで、悲しそうで、申し訳なさそうで、すぐに伏せてしまった。
「カメリア様……この子の、ご無礼を……どうぞお許しください…………」
これだけ生きていれば自然と知っているだろう。延命の魔法などない、と。病気でも治癒魔法は万能ではない、と。
「大丈夫です」
「そう……言って……もらえて、嬉しゅうございます……」
当のスアムは何の話をしているのかさっぱりわからない様子。
「貴方様方が、守って下さったこと……いつまでも……覚えております……。私達商人が逃げ惑う……中、上空で争いごとの渦中へ向かう姿は……正義そのもの……」
数十年前、天界から来た軍に攻撃されて魔界は大打撃を受けた。その戦争を終わらしたのは先代魔王テラ・エンギニスト。全力で発動した禁忌の特大魔法でその命が尽きる時、現魔王クレスに座位を継承させた。
その時のカメリアといえば、街や施設に影響がないように、主に守を得意とする者を集めて巨大な防御璧を張る指示をして戦況を見守ったくらいだ。
「それは、貴方から見た感想ですね。戦闘は私達の役目ですから争いの渦中へ向かっていくのは必須事項。なので、ゆっくりとお休みください。私には何も出来ないと分かっているのでしょう?」
地位としては遥かに下だが、歳としては遥かに上だ。その者の命が尽きようとしているのだから真摯に向き合わねばならないと思う心がカメリアの口調を丁寧にする。
「あぁ。……スアム、お前は好きなように生きなさい……」
「おじいちゃん?カメリア様、早く!!」
「無理だ」
「なんで!?」
「魔法は万能じゃない」
「カメリア様はなんでもできる!!噂だって……」
「噂なんて嘘だろう?オレの頭の中には今までの魔法や技術があるが、延命の魔法なんてないし、治癒の魔法だって万能じゃない。最も、寿命は理だ。諦めろ」
「っ!!」
悔しそうにカメリアを睨みつけるスアムだが、やがて目に浮かぶ涙が隠しきれないと分かったのか、顔を伏せる。
「カメリア様なんて……カメリア様なんて嫌いだ……」
スアムの告げた言葉が不覚にもカメリアの胸に突き刺さった。
「そうか……」
「もういい!!出て行けよっ!!」
「っ、ああ。言われなくても」
潔く体を翻して、カメリアはスアムの家から出て行った。
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