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思い出
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「ここは…………」
「オレの邸」
「てことは北の…………」
「いや、都。オレの育った邸だ」
暗く、自分達以外の気配はない。
歩く度に廊下の燭台が火を灯していく。
「ここはあまり好きじゃないんだがな……なんだか……お前に見せたくなった…………」
「…………とても綺麗な御邸ですね」
廊下の絨毯の模様から壁の緻密な彫りまでとても凝っている。
「母が凝り性なものでな。オレと遊びに来たはずのリフラが楽しそうに壁を眺めて一時間も動かなかった時もあった」
クスクスと笑うカメリア様は懐かしそうにそっと壁の彫りをなぞる。
「カメリア様は楽しかったですか?」
「…………分からない、な。でも……岩山の上での生活の方が楽しいな」
顔は確かに笑っているのに目には悲しみを抱いていて、こういう時何を言っていいのか分からないから、僕はぎゅっとカメリア様の手を強く握り返した。
こちらを見たカメリア様は嬉しそうに笑って昔を語り始めた。
幼い頃は純粋に周りの子達と同じように興味を抱き、真似をし、理解し、覚えていく。疑問を抱けば問える大人はたくさんいたし、書物も不足することなく書庫に納めてあった。
ミロ家は歴代の中に魔王に選定された者もいたのでベストルド家、レスファイア家、ランクル家にも並ぶ優秀な貴族であり、研究者が多くいた。
そんな家系に生まれたカメリアは勉強が好きだった。実験が好きだった。本を読むのが好きだった。
本を読んでいれば、同い年のリフラがドアを叩き、遊ぼうと声をかけてくる。本に書いてあった実験の応用を用いてイタズラをしリフラと共に笑って遊んでいた。
やがて学校に通うようになると自分の知識が他の者達よりも優れていることが分かる。先生に褒められれば嬉しかったし、その反面嫉妬されることも疎まれることもあったがそんなものは気にしなかった。
リフラも普通に接してくれたし、何より学校で優秀な成績を収めているのだから親に褒められる。本当に楽しかった。けれど中等部に上がると周りの視線がガラリと変わる。
自分よりも優れている者に近付く。それは当然といえば当然だ。得るものが多いし理解も早くできる。何がどうであれ近付くのならそれなりの外面が出来るわけだ。カメリアにはそれが顕著にわかった。いや、わかるタイミングが他の者より多くあったと言うべきか。だから外面だとわかり次第切り捨てた。その分は時間が出来るからひたすら研究を深めて行った。
高等部に上がれば周りはカメリアを変わり者という枠に収めて近づかなくなった。研究が成果を出したのでそれを論文にまとめ世に出せば、たちまち注目を浴びた。何度も何度も。
でもそうしていたら母が息子であるカメリアを恐れるようになった。何故だろう?とリフラに尋ねても苦笑いが返ってくるだけだ。自分で考えなければ意味が無いのだと悟ったカメリアだが一向に思いつかなかった。
幸いにして兄がいたので尋ねてみると優しく教えてくれた。
強すぎる力が災いを呼びやすいように、多すぎる知識は全てを見てしまうという。隠したいことも、言いたくないことも、見てはいけないものも全て。
別にそこまで辿り着こうとも思ってない。ただ、知りたいだけなのに。
どうしたらこの状況を打破したらいいのか兄に聞くも、分からないと返ってきた。なんでも知っている兄でもわからないことがあるのだ。
取り敢えず、相手の心が定まるまで触れずにジッと待っていろと教わった。
様々なところでその教えを発揮していたら、いつの間にか完全に変わり者の括りに入れられたけれど。
母を待ったが結局最期までカメリアを見ることはなかった。
待った分だけ心が麻痺したのか、こちらを見てくれなくても構わないと思った。失意も何も無かったから。元々ないものとして処理をした。
それから何かに執着することがものすごく減った。あるのは探究心。それだけで充分だった。
「充分だったんだよ、スアム」
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