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月影
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なんとなくの気配を辿って行くと、広い庭の薔薇園へとたどり着いた。
赤一色で統一された薔薇は見事で、誇りという言葉が似合う景色だった。
「カメリア様?」
呼んでも応えてはくれないだろうけど。
「スアム」
返事があったことにびっくりして、恐る恐る薔薇園へと足を踏み入れてカメリア様の方へ向かう。
サラサラな黒髪を揺らしてこちらを見たカメリア様が気まずそうに目をそらしてしまった。
カメリア様の隣に座って言葉を待つも、沈黙が続くだけだったのでこちらから沈黙を破る。
「カメリア様。僕はカメリア様のことが知りたいです」
「これからのオレだけでいいだろ」
「まだ、もっと、もっと、ってすごく知りたいです……まだ全然物足りなくて……」
苦しげにネクタイを緩めたカメリア様は僕の手を握った。
「…………オレの昔話なんて何も面白くないのにな」
「それでもいいです。教えてください」
「そのうちな」
はぐらかされたと分かるが、そのうち教えてくれるらしい。なら、それで一度納得しておこう。
「絶対ですよ」
「ああ、絶対な。まぁ嫌でも分かると思うが」
表情が少し明るくなったなと思いながらカメリア様の顔をじっと見ていると顔が近づき、ちゅっと唇が一瞬重なった。
少し離れて互いに見つめあっていると、照れてしまって俯いた。
「あー……ほんとに……可愛い」
「平均顔ですが」
唇を尖らせて言い返すと、そうじゃないと軽く笑われた。
「オレの屋敷に閉じ込めたい」
「トルン様と同じようなこと言ってますね」
「アイツと同じにするな。ったく可愛くねーなー」
「今度は言ってることが逆です」
「真面目に受けとんなっての」
一度止まって、二人して笑った。もちろん冗談で言い合っていたにすぎないことは百も承知。
「明日が来なければいいのに……」
小さな呟きは静かすぎる薔薇園に響いてしまう。
「それじゃ困る」
一緒に居たくないのか。そう責めてしまいそうでぐっと唇を噛む。
「お前がオレの伴侶として隣に立つ日が来なくなるからな。だから明日、明後日、明明後日。その先も早く来て、お前といる時間を長くしたい」
今この時だけじゃなくて、ずっと一緒に居られる時間を確実に手にする為に。
なんだかそう考えられるカメリア様がとてもずるい気がしてやっぱり唇を尖らせる。
「年の功ってやつですね」
「……今、年寄り扱いしたな?」
「知りません」
そうやってギャーギャー薔薇園で騒いでいると、タキアが呆れた顔でパーティーがそろそろ終わりますと教えに来てくれた。
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