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限界点
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リハルが訓練場にきて早三十分。
スアムは息を乱し、立っていられるかどうかの状態だった。それでも視線だけは常にリハルを見ていた。視線が逸らされるとすぐ攻撃されるからだ。
「 っはぁっはぁ……」
水が飲みたい……。
そう思った瞬間横から鎌鼬のような鋭い風圧を感じて、反射的にバリアを張った。風がバリアに当たってバリアが粉々に砕かれ、僕の体は力なく吹っ飛んだ。
「っつ……痛った……」
逃げたい。切実にそう思う。
「ふむ……反応は悪くないのに発動までが遅いな」
そう言いながら手にはひと玉の炎。
見たことがあるそれは、カメリア様と会ったばかりの頃に散々追いかけ回された厄介な代物だ。
「ほう、これを知っているのか」
「ええ……もう……それは……」
「なら少し遊んでも問題なさそうだな」
遊ぶと聞いて嫌な予感しかないのはきっと当たっているだろう。
ひょいっと炎を投げたリハル様は炎から逃げる僕を見て不敵に笑った。
「足元がガラ空きだぞ」
下に視線を向けると一部だけ冷気が漂い、数秒もしないうちにすごい勢いで氷柱が僕に向かって伸びてきた。先端は針のように鋭い。
息を飲む間もなく氷柱の方へバリア展開をして、身体を氷柱の範囲から逃し、後ろから追いかけてくる炎に水魔法で消化に当たるも、炎は変わらぬ姿でそこにあり、再び追いかけてきた。
この炎の存在継続は練り込んである魔力と比例する。その魔力を上回らないと消滅できないので、倒すのはかなり面倒だ。
先程放った水魔法も通常の魔法を発動するくらいの魔力を使ったものだったのだが目に見えるダメージはない。
ということは長引けば長引くほど倒せない確率が上がっていく。
水魔法の中でも強いものを、素早く作り出す。
できるだろうか。否、やるという選択しかない。
炎と向き合おうとした瞬間上から雷撃が落ちてきた。
チリっとした痛みの次にやってきたのは目がくらむような大打撃と全身が焼けるような痛みだ。燃える匂いが鼻に届いた時には地面とご挨拶。
そこでまた激痛。
動けない。痛みという痛みが全身を蝕んでいる。
地面が明るくなってきた。
後ろから追いかけてくる炎は倒さない限り、対象を燃え尽くそうとする。地面が明るくなったのはその炎が近い証拠だ。
ここで終わりなのか。
ああ、ゾッとする。だって約束が守れていないから。
困る。どうしよう。動かないのかこの体は。
考える時間が長いような気がするほど思考がものすごいスピードで繰り広げられていた。
「ア……デア」
バサリと羽音が聞こえた。
「情けねぇなぁ。このオレ様が主人として認めてやってるんだ。地に這い蹲る姿なんて許した覚えはねぇぞ」
そんないつも通りの口調に笑おうとして、痛みに顔を顰めた。
バリアを張るアデアの後ろ姿を一瞥し、全速力でありったけの治癒魔法を複数展開する。
内側から外側へと。使う魔力の量は半分以上をもっていかれるけれど治癒魔法なんてそんなに使わない僕が荒療治するには安い対価だった。
「アデア、もう少し頼む……」
「まだまだ大丈夫だ。そっち集中してろ」
頼もしい相棒だ。
全身を治して、身体の感触を確かめ、不備がないと確認できると、ありったけの魔力を練った。
特大魔法なんて発動できるほどまだ鍛錬を積んでいない。けれども日々の積み重ねは裏切らない。
霧から雨粒ほどの大きさへ形が大きくなればなるほど体積が増していく。
やがて身体の周りに大量の水が蛇のようにうねり、その水の表面は魔力を伴い鋭くなっていた。
「アデア!」
「了解!」
アデアが退いた瞬間に炎を見た。始め見た時よりも大きくなっている。けれど気にしない。
ありったけに練った僕の魔力が簡単に散るわけがない。そう、願い、思いを乗せる。
炎にぶつかった水が蒸発し、爆風を訓練場内に引き起こした。
アデアが僕の体を支えてくれた。
ジっと見ていると、水蒸気の中に仄かな明かりが見えた。
「う……そ……」
あれだけ魔力を練ったというのに消滅していないということは炎の魔力を上回らなかったという事だ。
愕然としていると、炎がパッと消えた。
「リハルー」
可愛らしい声が聞こえて、入口を見るとラクス様がリハル様に駆け寄っていた。
「御飯出来たよ」
「美味しそうな御飯だな」
くいっと顎をとって囁いたリハル様に、ラクス様が赤面して、そうじゃないよ!とぷりぷり怒った。
「分かってる。温かいうちに戴かないとな」
頬に軽くキスしたリハル様は抱き寄せていたラクス様を解放した。
「もう……スアムも、御飯食べよう」
「あ、はい……」
リハル様を見ると、爽やかな笑みを浮かべて僕の方にやってきた。
「バリアの強度はともかくとして展開は速い。けどそれ以外の魔法の展開は遅い。イメージは操作できる範囲でいいんだ。どんなに小さくてもいい。手元に火種があれば大きくするも形を作るも自由が効く。使い魔との連携は及第点だ。グレンによくよく教えてもらうといい。それくらいだな」
「あ、あのっ……」
ラクス様の元へ行こうとしたリハル様を引き止める。
「炎が消せなかったということは……」
「気にしなくていい。どれだけの魔法が使えるのか見極めるだけだったし、そもそもオレの作った炎がそんな簡単に消せたらリアスより強いだろう」
つまり、もともと消せないくらい強い炎だったのか。
頑張って消そうとした僕を誰か褒めていただきたい。
「スアムー」
呆然とした僕を可愛いらしい声が呼ぶ。
「はい。今行きます」
節々が痛む体を少し引きずって訓練場を後にした。
後で振り返ってみれば、この時殺されかけていたのだと今更ながらに認識した。
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