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小さな成長
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海水浴二日目。
ぐしゃぐしゃっと後ろから髪をかき混ぜられた。
振り返るとグレン様がいて、いつも通り眩しい笑顔だ。
「おはようございます」
「おう、おはよう。今日はよろしく」
「よろしくお願いします」
今日はきっと特訓の比ではないくらい全力でぶつかられることだろう。治癒魔法は相変わらず得意ではないが、以前リハル様に訓練をつけられたときに覚える必要性を重々理解したので、基本はできるようにしておいた。
治癒魔法に使う魔力のコントロールは雑だけれど。傷は取り敢えず塞がって体が使えればそれでいい。
ニコニコ笑っていると後ろからなにやら黒い空気が漂ってきた。
それを察知したグレン様はさっさと僕から離れた。
「あ、そうだ。カメリア様も参加しませんか?」
世間話をするかのごとくグレン様が黒い空気を出していたカメリア様を海水浴に誘う。
「お前らが相手できるならな」
「大丈夫ですよ。フブキ伯父様達も居るわけですし」
ニコニコ笑うグレン様を見て、カメリア様は少し悩んだ後、僕を見て、やめておく、と言った。
「ありゃ、残念」
「明日参加しよう」
「絶対ですよー。さ、行こうかスアム」
グレン様に促されるまま浜辺を歩く。
昨日外野から見た空気とは全然違う。皆好きなように喋っていて普段通りなのに何故か隙が無い。横にいるグレン様を見ると、いつの間にか隙がなくなっている。
というよりもともと隙なんてない御方達なのに、さらに無言の周りを覆っているというか。
正直今すぐ引き返したいくらいには怖いです。
ちらりと振り返ってカメリア様の方を見るが、機嫌が悪いのか、雑巾でも見るような目を向けられた。
ああ、確かにこういう人だった。浮ついていた自分の頭の上に重い石が乗ったようだ。ここへは確かに海水浴と聞いてやって来た。普通の海水浴とは違えど、訓練(しかもものすごく実戦に近い)に参加する(ほぼ強制だったけど)ことでより強くなれるのならばそれはそれで良い。振り返ったことでこちらの心情は伝わっているだろう。しかしそれを助けるカメリア様はカメリア様でない。
カメリア様は、笑顔を浮かべて命綱なしの谷に勢いよく突き落としてくる御方だ。岩山の邸ではそれはもう毎日のように手加減なしで……それは……もう……本っ当に手加減なしで何度死にそうになったことか……。
「おーい?スアム?もうじき始まるぞ」
「はい、わかっています」
応えるものの戦闘の準備をしている者は見受けられないので、取り敢えず周囲を警戒していると、空中に炎が現れ、ボンッと音を立てて消えた。それと同時に大きな魔力の渦が急速に、否、瞬時に地面を崩した。
浮遊で難を逃れ、土煙に混じって飛んでくる破片を防御魔法で防いでいると、ピンと張った緊張感が首元に来ているのを感じて、前方に適当に魔法を放ち、その威力でその場から退く。
だが、読まれていたかのように背後に気配を感じて魔法をもう一度適当に放ってその場を離れる。
やがて土煙が晴れてくると、鎌を持ったグレン様が嬉しそうに笑って僕の前に立っていた。
「さすがスアム。オレ仕込みなだけあるな。輝かしい戦時判断だ。けど少し集中が足らないかな?あともう少しで首が飛ぶところだった」
まさか、先程の殺気とも自然現象ともつかない事象はグレン様の鎌だったというわけか。
紅い鎌の柄を撫でて告げるグレン様は最後うっとりしたような声だ。
「僕の首を刎ねても面白くないですよ」
「首を刎ねるのは最後のご褒美。それまでじっくり楽しくいこうじゃないか」
ふっとグレン様の姿が消えたと思えばすぐ前にいて、鎌が目前に迫る。一攻撃を防ぐが二手三手と連撃を繰り返して来る時もあれば瞬時に移動して違う所から攻撃される時もある。つまり視覚に頼っていては反撃や攻撃果てには防御にさえ追いつかなくなる。
どうすれば良いのだろう。
こんなグレン様ほどに強い敵が目の前にいたらどうすれば良いのだろう。なにができるだろうか。
気温を操る魔法を使いながら防御魔法を使っている。しかし、気温を操る魔法を解いてしまったら、暑さで体力がもっていかれるのは目に見える結果だ。魔法を使っている方がまだ体力的には優しい。
鎌の攻撃と攻撃魔法が混ざり合い、より複雑になっていく今の戦闘状況で考えている時間が削られていく。
集中も散漫になるので時折鎌が服を切り裂く。チリっとした痛みに顔を顰める。
魔法を使う間すら惜しい。体が動く瞬間さえ攻撃になればいいのに。
…………体が動く瞬間?
相手に隙がない。ということは動いてる間も攻撃している。
グレン様の戦闘スタイルは、力は及ばないが実現可能だ。
赤い瞳は死神族の証。死神族は皆鎌を持っている。
胸に手を当てて、鎌を出す。
黒い柄に花びらが散ったような赤い模様。カメリア様に美しいと言われた己の鎌を構えてグレン様の鎌を受け止めた。
キイィンと甲高い音が響いた。周りの音が一切静まり返る。
「ほう?良い鎌だ」
カメリア様以外が見るのは初めてだからか、グレン様がまじまじと鎌を見てきてちょっと恥ずかしい。
グレン様の戦闘スタイルを真似て、攻撃に慣れてくるとどこからかやって来た攻撃に反応し損ねて、巻き添えを食らった。
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