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死神の槍
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スアムから少し離れた場所に転がっていたスアムの鎌が仄かに赤い光を放つ。
導かれるようにして鎌がスアムに近づいて、ひたりと血溜まりに触れた瞬間鎌が強く光った。
ゾッとしたグレンは瀕死のスアムから離れた。
「もう少ししたら治そうと思ってたんだけどな…………」
緊急事態だ。仕方ない。スアムが何をしようとしているのかも検討がつかないし、自分ほどの手練が嫌な感じを汲み取ったのだ。この判断は間違っていないだろうとグレンは思う。
念の為と防御魔法でグレンが自分の周りを二重で囲った。
それに気付いたリアスも同じようにし、リハルやカメリアも防御を強固にすると、それに気付いた者たちは同じように倣(なら)った。
スアムを中心にありとあらゆる魔力が渦巻いていく。
強風がバリアに触れる度防御魔法の魔力もちりちりと吸い取られていく。魔力の弱いものならすぐに解けてしまうだろう。
強風に体を持ち上げられたスアムの両太腿に刺さっていたトルンの炎の釘でさえ塵々に魔力へと変えられ強風の渦に加わる。
暫く風に吹かれたまま数十秒、風の中心にいたスアムの胸の前に浮かんでいた鎌の中に強風が吸い込まれると、鎌が形を変え始めた。
「見たことないな」
そもそも鎌が変形するなんて聞いたことがない。
ジッと見ていると、スアムとは別の、ゾッとするような魔力がカメリア様のいる救護班の張った大きな結界の内部に現れた。
「あーあ。怒らせちゃったの?グレンお兄様」
「クレス…………」
黒い髪に翡翠の瞳。王城で仕事をしていたはずのクレスがここへやってきた。
ここに来たのは、レスファイア家のクレスなのか、魔王のクレスなのか、表すのは魔力の大きさ。ゾッとする程の魔力を維持したままなので、今ここにいるのは魔王としてのクレスだろう。
スっと手を広げたクレスが、グッと手を握ると後ろに現れたのは実力はあれど王城部隊に入るに満たない者たちばかりだ。
「一体なにが?」
「グレンお兄様。強めの防御魔法に集中して下さい。怪我しますよ」
クレスが、集めたもの達を囲むようにして強固な防御魔法を構築し、スアムの様子を見守る。
変形した鎌が分裂し、無数の針のように両端の先端が鋭く光った柄のない赤黒い水晶の槍になるとバッと飛び散った。
防御魔法で跳ね返るも、速度は変わらず跳ね返り飛び続ける。まるで速度の落ちないスーパーボールのように縦横無尽だ。
どれくらいの威力なのか、クレスに言われた通りの強めの防御魔法を少しだけ緩めると遠慮なく防御魔法に突き刺さった。しかも突き抜けようと威力を緩めないので内側から新しい防御魔法を構築して、槍が刺さった防御魔法は槍に崩壊させた。新しい防御魔法に当たって跳ね返った槍に、冷や汗を垂らした。
成る程。少しの気も許せない攻撃だ。
数分後、槍が突然消えて、スアムがどさりと倒れた。
クレスが防御魔法を解いたので、皆も防御魔法を解く。
荒れた地は昨日よりも悲惨だ。
倒れたスアムのもとへいち早く駆けつけたカメリアは治癒魔法でスアムの傷を完璧に治していく。そんなカメリアの横にクレスが立った。
「………………。クレス……」
「放置してたカメリア様が悪いですねぇ」
「スアムは……」
「んー?どうされたいですか?」
「渡さない」
「別にいいですよ。どうせ最初で最後ですし、次の魔王はこの子じゃない。それに、彼には笑っていてもらいたいですから」
くるりとスアムとカメリアに背を向けたクレスは少し寂しげに笑って、訓練もほどほどに、というと王城へ帰っていってしまった。
取り敢えず訓練を再開し、カメリアはスアムを抱き上げて救護班ではなく別荘に戻った。
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