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塵も積もれば sideメルノ
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※長めです。
かの変人北の番人であるカメリア様の伴侶の付き人になるという話を父から聞いて、正直プライドというものが傷ついた。
そこまで位が低いわけでもないし、ベストルド家の血筋であるオレたちがぽっと出の庶民の付き人をしろという。
付き人といえば、執事だ。普通は使い魔などにやらせることを貴族の悪魔にしろという。普通は反対だ。もはや笑えるくらいのレベルである。
それなのに父は、というか祖父が承諾した。何か考えがあるのだろう。
基本、兄が選ばれるのが筋だろう。オレたち弟は顔を出せばいいだけだ。
そう思っていたのに。
「これからよろしくお願いします。メルノさん」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します、スアム様。私のことはメルノとお呼びください」
ああ、面倒なことになった。
☆
翌日、必要な荷物を持ってベストルド邸にやってきた。荷解きは学校から帰ってきてからで良いだろう。
取り敢えず、スアム様のスケジュールの確認をしなければならない。
ベストルド邸にはリアス様基礎訓練を受けるべく一時期世話になったので屋敷内の地図は頭に入ってる。
コンコンとスアム様の部屋のドアをノックするが、返事がない。気配はあるので、出るのに少々手間取っているのだろう。
少し待ってみるが、出てくる気配がない。仕方なく、ドアを勝手に開ける。
「おはようございます。今、大丈夫でしょうか?」
「あ……、おはよう。ほら、カメリア様、時間です。離れて下さい」
ベストルド邸お馴染みの光景に久々に固まった。
それよりも、カメリア様に睨まれて冷や汗が出る。
「本日のスケジュールを確認したいのですが」
「あ、はい。カメリア様。お仕事です」
ぐいっと押し退けたところを見て、婚約者だろうがそんなことをしても大丈夫なのだろうかとハラハラする。
やはり不機嫌なまま、カメリア様は取り敢えず体を起こした。
きちっとソファーに座ったスアム様と、スアム様に寄りかかるカメリア様。まるでリアス様とトルン様のような距離感だ。不機嫌さも同じ。
「一週間ほどのスケジュールを。それと決まっているのならば月、または年間の予定を事前に聞いておきたいのですが」
「ああ。僕は、学校に行って、放課後イオス様の元で貴族のマナー講座を受けて、帰ってきてリアス様の基礎訓練とダンスの練習そのあとグレン様の戦闘訓練を受けて、夕食、フリータイム、就寝ってところかな」
リアス様の基礎訓練のあとにグレン様の戦闘訓練とは。グレン様の戦闘訓練って確か実戦宛らのようで有名では。それを貴族に囲まれて一年足らずで受けるというのか。それはいくらなんでも過酷ではないか?自分だったら逃げ出している。
「そ、そうですか」
「休日は基本的に午前中リアス様の訓練、午後にグレン様戦闘訓練だね」
「わかりました」
果たしてこのスケジュールがこなせているかどうかでいったらきっとこなせていないだろう。何故なら、ありえない訓練量だ。
そもそも基礎訓練で、魔力が尽きてもおかしくない。それもとてつもない集中力がいる。それを終えた後にグレン様の実戦宛らの訓練だなんていつ命を落としてもおかしくない。
王城第四部隊の隊長がグレン様と実践訓練をして命を落としかけた話は記憶に新しい。
「あと、今のところ詳しいスケジュールは特にないよ。舞踏会はあと四件ほど顔を出す予定だけど」
「わかりました。こちらで把握しておきます」
大したことはない。なんとか遂行できそうだ。
「それでは、用があったらお呼び下さい」
去ろうとしたが、カメリア様に視線で止められた。
「舞踏会の行き先はタキアに聞け」
「承知いたしました」
一礼して部屋を去る。まず、あの空間にずっといるのは居た堪れな過ぎて酷だ。あと、一歩間違ったら研ぎ澄まされたナイフのようなカメリア様に即首を刎ねられそうで怖い。
気を取り直して、スケジュール整理をしよう。
☆
スアム様と共にハンプディスト学園へ通い、放課後スアム様の元へ向かう。気配を追っていくと、イオス様の研究室というよりもアオル様の研究室に着いた。中でしっかり講義がなされている。改めて聞くと結構ためになるものだ。忘れていたことも思い出し、勉強になった。
帰宅して早々に動きやすい恰好に着替えると、訓練場へと向かった。
時間通りにやってきたリアス様と特訓を開始したスアム様を見守る。一応自分の周りにバリアを張っておく。
サポートできるように一応準備はしておく。
軽く身体を慣らした二人は、リアス様の合図で、ぶつかった。
気だ。魔力ではない。それでも体が震えるくらいに波動が伝わってきた。
それに、リアス様に押し負けないくらいの気とは、正直恐ろしい。公爵レベルに肝が据わっていることになる。
二人が構えて、またぶつかった。今度は魔法で。けれど目で見えない。ぶつかった傷跡として床がえぐれているので分かったのだ。
なにが起きたのだろう。バリア越しだから把握ができないのか、それともオレが感知できないくらいに速すぎるだけなのか。
「スアム。今のは良い出来だが、もう少し振動を多くして、細かくするとより効果的だろう?」
「そうしたいのは山々なんですけど、なかなか難しいんです」
「コントロールはできているから、風呂場ででも練習してみるといい。水の細分化だ。粉が舞うと思っていい」
「はい」
「メルノのバリアはオレが引き受ける。お前はこっちに集中しろ」
「はい」
ん?今、オレのバリアと言ったか?
「リアス様、オレ、自分でバリアを張れます」
「そうか、なら遮音をかけておけ。耳使えなくなるぞ」
言われた遮音をかけたバリアを張る。
一体何があるというのだ。
ジッと見ていると、やがて二人の戦いが始まる。緩く見えても全然緩くない。
隙あらば突かれるのは幼い頃に受けた基礎訓練の内容から身をもって知っている。
暫く経っても疲れる様子の見えない二人。さすがに退屈になってきた。グイっと伸びをすると、バリアが歪んだ。そのことにヒヤッとする。防御壁の方だったら恐らく破壊されていただろう。
でも一体何が来たのか分からない。魔法攻撃か、物理攻撃の余波なのか。目視ではわからなかった。
耐久力を調べている間にもバリアが歪み、二回目の波で亀裂が入り、三回目で割れた。瞬間バリアを調べるために当てていた手が肘辺りまで、粉々に消えた。
「あ……」
頭の中が真っ白になった。鈍痛を覚悟する瞬き一つ。
手が元通りになっていた。
幻覚だったのだろうか。痛みもない。いや、だがしかし、服が肘まで焼き切れている。
「手が……」
「はあ。第三部隊に入るなら、お前も特訓しなくちゃな」
目の前にはリアス様。その後ろでスアム様がオロオロしていた。
「だ、大丈夫?」
確認するように手を触ってくるスアム様。状況理解できていないのはオレの方。
「えっと…何が?」
「お前のバリアが壊れてスアムの攻撃をまともに食らった結果、両手、肘まで粉々になって消えたってところか。それをオレが治癒魔法で治した」
負傷ならわかるが、粉々というのは想像がつかない。自分の身に起きたことなのに仔細が分からないとはなんとも煮え切らない。この目で見てたはずなのに頭が理解を拒む。
「ったく。ピアを付けておく。バリア二人分なら早々に壊れないだろう」
「あ、じゃあ、アデアもお願い」
ペンギンと梟がオレの両サイドについた。一見するとぬいぐるみが両サイドにあるようで見た目ファンシーだ。けれど、オレを挟んで飛び交う言葉は全然ファンシーではない。てかなんでコイツ等喧嘩してんの?梟の奴が突っかかってるのは分かるんだけど、ペンギンの方ももう少し大人対応しろよ…。
けれど口を挟むとややこしくなるの目に見えているし、役割はきっちりこなしているので何も言えない。こう言い争っていてもバリアが歪むこともないし、音も聞こえてこない。なんなら遮光もついてるような気もする。
使い魔の腕が立つということは契約している主人の能力も高いということ。
スアム様は思ったよりも断然強いのかもしれない。いや、強いだろう。
なんせ今戦っている二人の姿をオレは、目に留めることができない。
ありえないスピードで戦っているのですが、これは現実ですか?と誰かに問いたい。
スタっと床に足を着けて止まった二人が笑って会話をしている。
息切れもしていないし、汗もかいていない。
正直ここまでくると、親戚とはいえ化け物だと言う他ないだろう。そのくらレベルが違う。そりゃ生きてる年数だって違うけれど、ポッと出の庶民にまで抜かされるのはあまり快くない。
確かにオレのレベルは、幼い頃レスファイアとベストルドの親戚達と一緒にリアス様の基礎訓練を受けて及第点取るくらいではあったが、今比べてみろと言われたら多少あちらの方が上だろう。こちとら商業関係の勉強が忙しかったのだといえばそれは言い訳だ。実際、今商業と関係ない職に就いてしまった。今からでもまだ間に合うはずだ。
それに、この付き人条件は、第三部隊に入ることを前提に語られている。なので何が何でもパスできる技量を身につけなければならないのだ。スアム様をサポートできるくらいの余裕と技量。お荷物にならないように力もつけなければ。やることが多すぎて、商業の方が簡単だと言えば父様に叱られそうだ。
こちらに来るので、用意していたタオルと水を渡そうと差し出したタオルは受け取ってくれたが、水は少し躊躇っていた。
「ホウ!ホホウ!!」
「あ、そう?アデアが言うなら……」
使い魔と話したスアム様が水を受け取ってくれた。それに、リアス様が苦い顏をしていた。
「前はリアス様に媚薬盛られましたからねえ……」
「悪かったよ。おかげで酷い目にあった」
いや、全然笑えない話だが二人は笑顔だ。媚薬を盛った方が酷い目に会うとはどういう状況だったのだ。
「ということで、メルノもスアムに下手なことしない方がいいぞ。北の番人は厄介だ。はははっ」
そういえば、この間リアス様がボコボコにやられたという噂があったがそれだったか。
「そうですね」
手を出したら不利益しか生まないものには関わりたくないのだけれど。それすらも赦されない状況。頑張る他ない。
リアス様の訓練が終わったら、水魔法で全身綺麗にしたスアム様がリアス様を相手に少しダンスの練習をし、グレン様の訓練棟のグラウンドへ来た。
ベストルド邸の敷地は実に広大だ。
「グレン様、今日もよろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」
オレは近くにいると危険なので、とある線の向こう側に居ることにする。線が結界の境界線であるのだ。
上に花火が打ちあがると、二人は戦い始めた。ただひたすらに戦い続けている。途中使い魔も参戦して戦いの苛烈を極めていく。
自分にも使い魔がいたらな、と心底思う。
一度、受けさせてもらったが、魔力が一定にならなかったので召喚する資格さえパス出来なかった。だが、それは幼い頃の話であるし、今の自分なら少し訓練すれば召喚できそうだ。伊達にハンプディストに通っているわけではない。
視線を前に向ければ、砂埃が立っている。結界から漏れることはないのでオレには降りかからないが眼前はまっ茶色だ。二人と二匹の姿が見えない。
時折風魔法で開ける視界に映る二人は相手を狩ることしか頭にない顔をしている。ゾッとするほどの殺意だ。
本気の一歩手前。
呆然と見ていると、隣に気配があり、見ると綺麗な青い髪の可憐な方が立っていた。やれやれと言いたげな顔をして、口を開く。
「グレーーーーーン!!ストーーーーップ!!!!」
すると、砂埃が落ち着き、風魔法で体に付いた埃を落としながらグレン様がこちらにやってきた。
「フィリア」
グレン様がフィリア様を抱き寄せて、額にキスをした。
「もう時間だよ」
「ああ、わかった。スアム、もう時間だってよ」
「わかりました」
「さっき下からの反応遅れただろ。もう少し全体をバランスよく意識しろ。全然見えなくても、足の下にも滞空の重力を発生させてれば少しはバネもできるだろ」
「はい!!今日はありがとうございました!!」
タオルと水を渡すとスアム様はありがとう、といってタオルで汗を拭い、水を飲む。
そう。麻痺してしまいそうだが、グレン様の戦闘もかなりスピーディーで、リアス様とやりあっていた時よりはるかに速い。そして戦闘における攻撃の連続。一瞬でも気を許したらグサリだ。なのにスアム様は少し息を上げるのと少しの汗をかくぐらい。つまり訓練についていけているのだ。
今のオレがあそこにいたら瞬時に木っ端微塵だろう。
これが第三部隊に入る者の実力か。厳しいだろう。今すぐ付き人を辞めてしまいたい。けれどそれ以上に強くなりたいと望む自分がいる。
「あ、あの。オレも訓練したいです……」
「ん。じゃあ、まずリアス兄様の訓練からだな」
「は、はいっ!!」
二カッと笑ったグレン様に頭を下げる。
「アデアもお疲れ様。綺麗な足さばきだったよ」
「ホウ!ホウ、ホウホウ、ホホウ!!!」
とすとすと羽で胸を叩く姿を見、傲慢そうな気配を察知した。あの梟はおそらくそういう性格だろう。
「今日はありがとう、メルノ。また明日も宜しくね」
「あ、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」
年齢はそんなに違わないはずなのに。こうも違うのだ。
取り敢えず、できることからやって行こう。
さっそく明日図書館に行って使い魔の召喚だ。
こうして、付き人メルノの人生の幕が上がった。
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