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大掃除
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舞踏会も済み、カメリア様の婚約者だと公認されたからか、ベストルド邸の中でも立ち位置が安定してきた。メルノという付き人にも慣れた真冬。
お役所仕事に就いている方達は大忙しだ。
僕はココアでも飲みながらのんびりしようと思ったのだが、ラクス様に招集された。
「とゆーことで皆の衆!!抜かりなく動くように!!最後は僕が確認するから!!怠けた奴はリハルに言いつけちゃうぞ!!」
面倒くさそうにしていた子たちも居たが、最後の一言でシャキッとした。
学生中心の子供たちが大人数。
筆頭はラクス様。
手には箒と布巾。
つまるところ、大掃除である。
☆
まだ基礎訓練の段階の小さな子供たちは、自分の部屋を。高等部から上の子たちは大きな部屋を魔法で掃除していく。
「まぁ、魔法は便利だよね」
水魔法と風魔法で集中して掃除していく。装飾などは丁寧に扱わないと壊れてしまうので要注意だ。
魔法の扱いも雑にやると、掃除のし残しが目立つ。
食堂や廊下、談話室に大広間。その他空き部屋や、研究室など本当に沢山掃除するところがある。
自分の部屋は、初めに来た時より物が増えたとはいえ他の者達よりは断然少ないので掃除が楽だった。
邸内が終われば今度は中庭、訓練場と範囲が広まる。
雑草を抜きつつ垣根を整える。
花の種類が多いのはフローラ様の影響だろうか。真冬でも咲く花の多くは研究でよく用いられる。
人間界と魔界で咲く花の種類は圧倒的に魔界が多い。霧を吐く花や触れると氷漬けになってしまう花なんかが人間界にあったらそれはそれで大変だろう。厄介すぎる。
「あ、これ食べられる」
プチっと一枚葉を取って口に運ぶ。甘くてフルーティーな香りが口の中に広がる。
『……どんな味がするんだ?』
「甘いよ?ほら、アデアはどうかな」
嘴を無理やり開けて葉を突っ込む。
草なんて食べねぇ、なんて抵抗されたら無理やり食べさせたくなるのは道理だ。
『あ、甘い………。あと、ゾロフの味がする…』
ゲッソリしたアデアが僕を睨む。
ゾロフというのは赤い木の実で、食べると甘いが酷い目眩を起こす。魔界にしかない木で、その乾燥させた実をすり潰して粉にすると、効果が倍以上になる立派な毒薬だ。
「ゾロフの実、食べたことあるんだ?」
『毒の耐性つけねぇと、アイツがうるせぇんだよ』
アデアが言うアイツは、大抵タキアさんだ。仲が宜しくて結構。
「これはマルルバウっていう植物で、最後に食べたものの味を再現する植物だよ」
『げ、幻覚の類じゃねぇか…………』
「まぁ、そう言われればそうだね。ていうか、最後に食べたのゾロフの実なんだ?」
『昨日の夜に五個くらい口に詰め込まれた』
それは酷だ。一つでも口にすれば酷い目眩。五つも口にしたのなら下手したら死ぬ。
「…………ハードだね」
『まぁ……いつものことだろ』
いつも死ぬ一歩手前の訓練をしているのか?これは交渉の余地がある。
「スアムくーん。なーにしてるのかなー?」
ニコニコ笑顔でラクス様がやってきた。
「雑草抜いてました。ここは沢山植物がありますね。たまにもらっていっていいですか?」
「うん。いいよ。貰いたい時はヤシルに言うといいよ。黒髪に青い瞳の子なんだけど、その子が庭園管理してるから。最近は植物園の方にかかりっきりかなぁ」
「わかりました。今度声かけてみます」
「うん。じゃ、引き続き頑張って」
油断も隙もない。リハル様へサボってたなどと報告されてしまったらたまったものではない。
振り返ってアデアを掴み上げると、その胸に顔を伏せて吸った。
『お、おいっ…………』
ぞわぞわぞわっとアデアが震えた。
『な、なにしてやがる………』
「鳥吸い。……うーん。鶏臭い?」
『っ!?はぁ!?このオレ様が鶏くせぇだと!?前言撤回しろ!!こんなに澄んだいい匂いの梟はオレ様以外にいねぇだろが!!』
「はいはい」
ぼふっと人間姿になったアデアがバッと腕を広げて僕をぎゅっと抱きしめた。
「ほらっ、鶏臭くなんてねぇだろがっ!!」
すんと嗅げばいい匂いがする。香水をつけているのだろうか?相変わらずの綺麗好きだ。
「うん。マリンでフルーティーな匂いだね。鶏臭いなんて言ってごめんよ。アデア、そろそろ放してくれないと………」
ガンっと大きな音と、ぼふっと返変身が解ける音がした。
「こういうところは学習しないんだからねぇ…」
転がる盥と伸びている梟を拾い、端に寄せてさっさと掃除を再開する。
無事掃除が終わり、こころなしか屋敷全体が輝いているように見える。
「はーい。今日はありがとう!!頑張った子たちにご褒美!!」
そう言って小さい子どもたちにお菓子を配るラクス様。次に、学生たちにも何か渡し始めた。
「はい、スアム」
手を出すと、コロンと緑色の魔法石。
「中に治癒魔法が入ってるけど、使い切ったら違う魔法力入れられるから捨てないでね!再利用可能だから!」
「あ、はい………」
なるほど。これが噂の魔法石。
カメリア様の生徒さん達が発表した廃棄魔法石の影響と再利用は瞬く間に知れ渡り、今では庶民も手にしている有名装備だ。
貴族側からすれば魔法なんていくらでも使えるし、再利用ものの魔法石ではなく、魔法石自体を手に入れるのは苦ではないのでわざわざ買う必要はない。
けれど、庶民からしてみれば便利すぎる代物だ。傷を直したいと思えば自然治癒ではなく瞬時に治せるし、火をつけたいと思えば難なく火をつけられる。
ただ、中の魔法力が尽きれば補充をしなければならない。それが少々高く付くというだけの話。メリットが大きいので、少々高くついても、というところだろう。もともと廃棄される魔法石だったので、コストも低く量産できる。商売上がったりだ。
カメリア様が貴族向けじゃなくて庶民向けを考えてくれていることに、嬉しくなって、口元がニヤけてしまう。
そんな僕に、肩に乗っていたアデアが羽でバサバサやってくるので、パッと別のところへ飛ばした。
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